12.現れた驚異
「パワードスーツ装着者は直ちに迎撃準備を整えろ!」
ナイスミドルは良く通る声で指示を出していた。俺はというと、ファンの隣で周囲を見回している。赤い光はかなり近づいてきていて、この場の全員がそのプレッシャーを感じているようだった。
「もう少し、後はあれが近づいてくれば」
「罠でも準備してるのか?」
「そう、いざとなれば逃げられるようにもできるやつ」
「心強いな。どれだけ出てくるかもわからないし」
それから数分後、赤い光が地面に衝突してそれと同じ色の柱が立ち上った。
「まずい、多すぎるぞ」
「そんなに?」
「ああ、ちょうど十匹。どいつもパワードスーツより強そうだ」
「それなら!」
ファンが両手を広げて手のひらを空に向けると、そこに光が宿る。
「光陣!」
両手から光が広がると、それは空に円形の陣を描く。それは瞬く間に広がり空を覆った。
「あれ、どんな罠なんだ?」
「動きを一時的に封じられる。全部とはいかないけど」
「そいつは助かるな」
そこで銃声が響く。そっちを見るとパワードスーツ連中が赤い光に向けて銃撃をしているところだった。
「あれは駄目っぽいな。効いてる感じはしない」
それから数十秒後、突然赤い光の輝きが強くなった。嫌な予感だ。
「駿ノ助! 来るよ!」
ファンが何かを感じたようで声を上げる。それとほぼ同時に赤い光は一瞬で加速し、俺達の周囲に落ちてきた。
「伏せろ!」
俺はとっさにファンに飛びついて地面に伏せる。次の瞬間、強烈な衝撃波が通り過ぎていった。
「くそっ!」
どうにか顔を上げて周囲を見回すと、ちょうど十本の赤い柱が見えた。そこからは最初よりもさらに強い力が感じられる。
「こいつは逃げるのを考えた方がいいんじゃないか」
「もう遅いって!」
「だよな! 俺のことはいいからあっちの援護をしてやってくれよ!」
「わかった!」
俺はとにかく走り出した。その間にも赤い柱は小さくなっていき、三メートル程度の大きさになって輝きを失うと、まるで人形のようなものになった。
その力は最初に感じたよりもさらに大きい。
「こいつは!」
俺は能力を改めて発動し、とにかく手近な一体に向かって突進し、地面を蹴って肩から突っ込んでみた。
「おらあ!」
手応えあった、が次の瞬間俺は吹き飛ばされていた。なんだこれ?
「駿ノ助!」
ファンの声が聞こえたけど、俺はそれを通り越して地面に激突していた。
「くそ! あいつおかしいぞ!」
悪態をついてみたが、結果が変わるわけじゃない。それよりもあいつは何をしたんだ? いや、それよりもどうして跳ね返されたんだ? パワーは俺が上、単純な攻撃じゃこうはならないはずだ。
「決して突出するな! 攻撃は渡辺の隊に任せて他は遅延と分断に集中しろ!」
ナイスミドルの指示が聞こえる。とりあえず俺はあいつらとは別の奴を相手にしたほうがいいか。さっきみたいに突っ込むとまた跳ね返されるかもしれないから、ここは掴んでいこう。
「ファン! 近くの奴を止めてくれ!」
「分かった!」
空の陣から光の柱が伸び、近くの人形を捉える。そうするとそいつの動きはほぼ止まっていると言っていい遅さになった。
「よし!」
俺はそいつの足元に滑り込んで後ろに回り、足の付け根を両手でがっちりホールドした。
「いくぞおおお!」
そのまま人形を抱え上げて持ち上げ、倒れこみながら後方に向けて放り投げた。すぐに立ち上がってその行き先を確認すると、特に飛んだりせずに地面に叩きつけられたのが見えた。よし、とりあえずこれでいくか。
そこからはとにかく人形を投げまくった。倒せはしないけど、ファンと連携すればこちらは無傷で時間稼ぎができる。この間にパワードスーツ連中が数を減らしてくれるといいんだけど、どうやらそうもうまくはいってないらしい。
だが、そこで聞きなれない低い音が聞こえてきた。なにか今までのこの世界で感じたものとは違う力を感じる。
「何かこっちにくるぞ!」
しかし次の瞬間、一瞬で巨大なバイクが空中に現れていた。早すぎる!
「なるほどな」
小さな声が不思議と俺の耳には届いた。そして、巨大なバイクは激しく着地すると、それに乗っていた人間がゆっくりと地面に立った。
フルフェイスのヘルメットで顔はわからなかったが、全身プロテクターに身を包んだ感じの雰囲気は特殊部隊のようにしか見えなかった。そいつは俺に視線を向けると、腰のホルスターからでかい拳銃を抜いた。
「ちょっと待て、あんたが誰かは知らないが、とりあえず敵対する気はないぞ」
話が通じたのかどうか、そいつは拳銃を俺に向けたりはせずに、こちらに向かって歩いてきた。
「伏せろ」
ヘルメット越しに低いくぐもった声が聞こえ、俺が伏せると同時に銃声が響いた。すぐに振り返って確認してみると、人形の頭部が吹き飛んでいた。どう見ても普通の武器じゃないだろあれ。で、俺が顔を上げると、さっきの声からすると多分男がヘルメットを脱ごうとしていた。
そして出てきたのは意外と整った顔をした、俺と同年代くらいの男の顔だった。
「高木だ」
「ああ、俺は駿ノ助。あんたは味方でいいんだよな?」
「今はな」
「そいつは助かるよ。ファン、助っ人がきたぞ!」
「見てた! 動きを止めるから二人で片づけて!」
俺が高木と名乗った男に視線を向けると、黙ってうなずきを返してきた。
「じゃあ、俺が押さえるからあんたが止めを刺してくれ」
「ああ、わかった」
急増チームだけど、なんとかなりそうだ。