11.顔パス権と不穏な空
フィグメントを捕らえた俺達はそのまま一階まで降りていき、医務室っぽいところに入って、頑丈そうな台の上にそれを置いた。それから鎖を使ってそいつを厳重に拘束すると、ファンが魔法を解除した。
「こいつの分析は頼んだぞ」
ナイスミドルはそう言うと、俺達に顔を向ける。
「お前達の力はわかった、相応の報酬は用意しよう。そして、お前達にはまだ働いてもらいたい」
まあとにかく話を聞いてみないとな。報酬も気になるし。
「報酬をこっちで選ばせてくれるんならいいけど」
「何が望みだ?」
「それはおじさんと相談してよ」
「よかろう」
鷹揚にうなずいたナイスミドルは俺のことも見る。
「俺はまあ、ここを顔パスにでもしてくれればな」
「お前だけなら認めてやろう」
「あとは寝床とかだけども」
「それも手配しておこう」
二つ目の拠点ゲットだな。
「じゃあ、今日のところはファンも一緒に頼むよ」
「いいだろう」
そう言ったナイスミドルは指を鳴らして人を呼び寄せると、耳打ちをして俺達に向かってうなずいた。
「今日はご苦労だった。部屋に案内させるから休んでおけ」
ナイスミドルから指示を受けた若い男が俺達の前に来て、背筋を伸ばす。
「それではご案内します」
そういうわけで、俺とファンはとりあえずそれなりの広さの休憩室を改造したような部屋に来た。
「駿ノ助、あんな条件でよかったの?」
「俺は根無し草だから、住む家は多い方がいいってな」
「ふうん、まあ気持ちはわかるけどね」
そう言ってファンはソファーに横になる。俺はベッドに腰かけて天井を見上げた。
「さて、しばらくここにとどまることになりそうだけど、何か計画はあるのか?」
「別に、とりあえずここにいるフィグメントと戦って情報を集めるのと、恩を売るのをやっていくかな。こっちの連中のことも知りたいし」
「結構冷静だな。最初に会った時は忍び込んで捕まってたくせに」
「成長したの」
それだけ言うと、ファンは背を向けて目を閉じたようだった。まあ、俺も休むとするか。だが、眠れないでいるうちに突然サイレンみたいな音が響いた。
数分も経たないうちにナイスミドルが部下を引き連れてやってきた。
「緊急事態だ。外に出るぞ」
「何があったんだよ?」
「外で話す。早く来い」
どうやらかなり切迫した状況らしい。俺とファンはとりあえず外に出てみると、その場の雰囲気の違いはすぐにわかった。
「空が、赤い」
ファンの言う通り、ずっと灰色だった空が赤く染まっていてかなり禍々しい。
「これって何かの前兆かなんかなのか?」
俺の一言にナイスミドルは呆れたような目を向けてきた。
「このような空は記録にないことだ」
「ああ、何が起こるかわからないわけか。いや、ちょっと待てよ」
赤い空の中に強烈な力があるのがわかった。なんだこの感覚。
「どうしたの?」
「いや、どうにも変な感覚がする。あの空にすごい力を持った何かがいるのが感じられるんだよ」
「それってまずいんじゃ、おじさんを呼んできたほうがいいかな?」
俺とファンの言葉に、ナイスミドルは数秒考える仕草をしたが、首を横に振る。
「どこで何が起こるかわからない以上、一カ所に固まってもしかたあるまい」
ファンはその言葉にいらっとしたようだったが、特に反論はしなかった。
「そういうことなら、あんたのほうからおっさんに連絡しておいてくれよ」
「いいだろう」
それだけ言うとナイスミドルはどこかに立ち去った。
「聞こえるか」
そこでカラスの声が頭に響いてきた。
「ファン、ちょっと待っててくれ」
俺がその場から離れると、すぐにカラスが舞い降りてきた。
「なあ、あれが何だかわかるのか?」
「さてな。全てを語っては楽しみが減るというものだろう?」
「いや、そういうのはいいから。せめて脅威度というかそう感じのものくらいいいだろ」
「かなりの脅威だろう。お前も含めて、この場の人間達の手には余るだろうな」
「そうか」
「気をつけろ」
そしてカラスは飛び去ってしまった。しかし、手に余ると言われてもな、俺に戦力を集めるみたいな政治力的なものはないし。
「駿ノ助さん、ちょっといいですか」
考えながら歩いていると鈴木が声をかけてきた。
「岸見のおっさんが呼んでるのか?」
「そうです」
「わかった。ところで、どんな感じでやっていくか方針は決まったのか?」
「警戒を怠らないようにするくらいです」
「まあそんなもんか。俺のシフトも教えてくれよ」
「わかりました」
それから鈴木と一緒に戻ろうとすると、空が光った。
「なんだ!?」
俺は思わず叫んで空を見上げると、複数の赤い光が降ってくるのが見えた。そのどれからも強い力を感じる。
「あいつはやばいぞ。すぐに迎撃の準備をしないと」
「わかりました」
鈴木はその場から素早く走り去っていった。俺もファンの所に早足で戻ることにする。すると、ファンは両手に光を灯して何かを空中に描いていた。
「何やってるんだ?」
「念のために準備をしてるところ。あの光は危険そうだから」
「なるほどな。あれが危険っていうのには俺も同感だ」
そうしている間にも赤い光はどんどん近づいてきていた。