10.パワーで制圧する
「岸見様! 現在は特に動きはありません!」
パワードスーツの一人がナイスミドルに報告をしているのを聞きながら、俺は見える範囲を見回していた。人は避難済みのようで気配はなく、何かが暴れたような痕跡だけが残っていた。
とりあえず俺はナイスミドル達の話は無視してファンに話しかけてみる。
「ファン、何かわかるか?」
「危ない気配は感じる。それもかなり沢山」
「しかし、なんでここは三階なんだろうな。あっちと違って上から降ってきたとかなのかね」
「かもね。調べてみないとわからないけど」
「ほう、調べたらわかるのか」
いつの間にか話を終わらせたナイスミドルが口を出してきた。ファンは動揺せずにその顔を正面から見る。
「あたしの自由にさせてくれたらね」
「良かろう。だが、私も同行する」
「ま、いいけど。行こう駿ノ助」
「ああ」
そこでナイスミドルはパワードスーツ二人を呼び寄せ、バリケードの向こう側に踏み出した。俺達もそれに続く。
しかし、この岸見っていうおっさんは肝が据わってるよな、力は並の人間なのにたった二人の護衛で危険地帯に踏み込もうっていうんだから、良くも悪くもとことん貴族的な性格ってわけだ。まあここでこのナイスミドルに何かあっても困るし、せいぜい俺も注意しておくようにしよう。
「ファン、どうだ?」
「すぐ近くにはいないと思う。でも気配は沢山感じる」
「見つけたらすぐに知らせろよ」
「わかってる」
それから数分後、俺達はかつては巨大なスーパーかなんかだったようなスペースの前で立ち止まっていた。
「駿ノ助、この中に集中してる」
「確かに俺もやばそうな雰囲気は感じるな」
とりあえず俺はナイスミドルにそれを告げようとする。だが、それよりも早く言葉が降ってきた。
「ち、さ、れ」
まさか、あのうねうねか?
「何かおかしいよ」
「ああ、今の声はなんだったんだ」
「フィグメントがしゃべったんだと思う。今までこんなことはなかったけど、あいつらはいつだってこっちの予想を超えてくるから」
「その通りだ」
そう言ってナイスミドルは立ち止まり、パワードスーツに顔を向ける。
「何か反応は?」
「今のところ何もありません」
「待って、何か来る」
俺はとりあえず全員の前に出た。
「どっちからだ?」
「前からだけど、ちょっとよくわからない感じがする」
「よくわからないってのは」
そこで正面前方の天井が突然膨らんだ。すぐに能力を発動してみると、これはかなりやばい相手みたいだな。
「ファン、けっこう強そうだぞ」
俺がさらに一歩前に出て身構えると同時に、天井の膨らみがこちらに移動しながら膨張し、そのまま天井ごと落ちてきた。それは派手な音を立て、落ちたその場で変形を始める。
「動くな」
ナイスミドルが全員を制したので、俺も動かずに変形を見守る。目の前のものはまるで液体のようにぐねぐねと動きながら、徐々に人のような形になってきた。
「そろそろ捕まえとかないとまずいんじゃないの?」
ファンがもっともなことを言うが、ナイスミドルは首を横に振った。
「ちょうどよく一体だ。お前達もこいつのことをよく見ておきたいだろう」
もっともらしいけど、早い話俺達を試したいんじゃないかね。
「ファン、ここは俺に任せとけよ」
まあそういうことなら、俺の実戦経験の糧になってもらうとしよう。
「わかった」
ファンは俺の後ろに下がり、ナイスミドルも部下と一緒にゆっくりと下がった。その間にも目の前のフィグメントの形はどんどん変わっていて、ぎこちない動きだが立ち上がり始めていた。
「さあ、早く立ち上がれよ」
声をかけてみると、ぶるぶる震えたが、しばらくしてそれが終わると固まったのかぎこちなさが消え、しっかりと二本の足で立っていた。
「よし、そろそろ来るか」
俺は身構えてそれが動くのを待つ。だが、次の瞬間全身に衝撃を受けていた。
「っつ!」
不意をつかれたが、俺のパワーは相手の三割増しになるので押し負けることはない!
「駿ノ助!」
「大丈夫だ!」
俺はフィグメントの胴体に腕を回してがっちりとホールドして、それを持ち上げた。そしてそいつを体ごとあびせかけるようにして地面に叩きつける。
「そのまま押さえて!」
「任せろ!」
俺はとりあえずフィグメントを全身で押さえつけ、そこにファンが駆けつけてきて両手をかざす。
「光鎖縛陣!」
押さえつけているフィグメントの下から光が溢れ、それが鎖のようになってその体を縛りつけた。
「もう大丈夫だよ」
ファンの言葉に俺が立ち上がると、フィグメントはすっかり光に包まれてピクリとも動けなくなっていた。
「さすがだな」
ナイスミドルはそれを心なしか満足そうな様子で見降ろす。それからパワードスーツに手で合図をすると、そのうちの一人が拘束されたフィグメントを担ぎ上げた。とりあえずこれ以上出てくる気配もないけど、俺は殿っぽく一番後ろについて、来た道を戻ることにした。