第二話
残酷な描写になるのかわかりませんが、それっぽいのがあるので、苦手な方はご注意ください。
私がプレイした乙女ゲーム
「ブラックorホワイト」(略してブラック)は、魔法学校が舞台となっている。
このゲームの世界では、魔法はほぼ当たり前のように存在している。
魔力の量は、生まれた時から変わらない。なので生れつき魔力が少ない人は、残念ながらそれ以上増えることはないのだ。
反対に魔力が多い人間は、貴族や王族などの身分が高い事が多い。
平民でも魔力が高い人はいるのだが、希少らしい。
魔法学校は高校みたいなもので、行ってもいいし、行かなくてもいい。
ただし入学試験があり、そこでは高い学力と魔力がないと合格できない。
学力に加え、高い魔力となると、必然的に集まるのは良いところのお坊ちゃんお嬢ちゃんとなるのだ。
しかしヒロインは、平民の出身にも関わらず高い学力と魔力により、入学が許可されたのだ。
それを面白く思わない捻くれた人物が、このゲームの悪役なのである。
…………………………はい、それは私です。レイラ・アクロイドです。
アクロイド家は、代々続く伯爵の家系で、私はアクロイド家現在当主の長女だ。
かなり甘やかされて育ったレイラは、我が儘で傲慢で高飛車で人を見下し気に入らない相手は取り巻きを使って潰し、反対に自分より身分が高い人物には猫なで声で擦り寄るという人間のクズに育ってしまった。
そんなレイラはヒロインにむかって、
「平民の分際で、私に逆らえるとでも思っているの?」
と嫌みったらしく言ってくるのだ。
最初は思った。ヒロインが何したんだよ!このクソ女!と。
しかし、エンディングでその考えを後悔する事になる。
実はこのゲーム、ヒーローをブラックにするかホワイトにするかが選べる。
ホワイトなら、初期どうり。
しかし、ブラックなら、ヒーローはヤンデレ状態になる。
ホワイトでのエンディングは、レイラを全校生徒の前で謝罪させる。
ブラックでは、ヒーロー直々に罪を償わされる。
しかし、やり方がえげつない。
自分では手を汚さず、レイラ自身に罪を償わせるのだ。
どういう事かというと、ヒーローがアクロイド家を潰し、そのあとレイラを幽閉し、精神的に追い詰めて自殺にもっていかせるという鬼畜な方法。
因みにレイラはどのルートを選んでも出てくるので、キャラの数だけその光景をみることとなった。
精神ボロボロでやつれた姿に、いくらクズでもさすがにやり過ぎじゃね?と思った。
ルートごとに、自殺の種類が違ったのには、運営ひょっとしてレイラ嫌いなのか?と思わずにはいられなかった。
ネットでも同じようなメッセージが多数あったので、私の考えはおかしくないと思う。
レイラも幸せになれる大団円ルートはないだろうか……………とネット仲間と落ち込んだりもした。
しかーし!私がレイラになった以上、自殺なんてさせません!
ヒロインの恋も邪魔しません!ヤンデレ状態のヒーロー達には何されるか分かったもんじゃないから、関わらないようにします!だから命だけは!と思った。思ったのに…………。
「どうかした?」
ヒーロー様、
今目の前にいらっしゃる!
しかも使用人にするとかいっちゃったよ!超関わっちゃうじゃん!
ゲームでも、ウィルはレイラの使用人として登場していた。どうやって使用人にしたかまではわからないが、ちゃんと使用人だった。
レイラの我が儘を聞く日々に疲弊していたところをヒロインが慰め、距離が縮まるという感じだったはず。
………………何で使用人にしちゃったかなー私。他にもいろいろ選択できたのに。補正とかかかるの?この世界。
……あははっ。これセーブせずに電源落としたら最初からやり直せるかな?。
「レイラ?」
「あぁ、ごめん。」
そうだ、今自己紹介中だった。
…………現実逃避するのはやめよう。
「レイラ・アクロイドです。性別は女。好きなものは甘いもの。嫌いなものは虫。こちらこそよろしくね。」
「うん、よろしく。ところで気になってたんだけど、レイラって武術やってるの?さっき押さえ付けられた時、全然動けなかった。」
ギクッ
「いや!やってないよ。でも、屋敷の使用人が武術の稽古やってるの見てたから、身についたのかな。」
これは嘘。レイラは武術に何の興味もなかった。
武術は、前世でやったのだ。
しかし、正直に答えるわけにもいかない。言った瞬間、私の信頼は深海レベルまで下がる。
「見てるだけで身につけるって………。」
うっ。ちょっと不自然だったか?
前世では「技は見て盗め!」と教わったんだけどね。
「だって、武術習おうとしたら反対されたから。」
「まあ、そりゃそうだろうけど……。」
「とにかく、習ってない!」
「……そう。」
よし、ごまかせた。
少々、いや、かなり強引だがまあいいだろう。
……………気まずい空気になってしまった。
話題もないので、ウィルを観察してみる。
ウィルは人とエルフのハーフだからとんがり耳だ。この世界で種族が別の夫婦はそう珍しくはない。(ゲーム情報)
肌は白。髪は白銀。色素薄いなー。
ゲームでは無表情がデフォだったけど、今目の前にいる彼は結構いろんな表情してたと思う。
………あー、黙ってたら眠くなってきた。子供の身体は本能に忠実すぎる。意識もう半分くらいない。
「あ、眠くなってきた?」
ウィルも気づいたようだ。
「ん………。眠い。」
「クスッ。こういう時だけは素直なんだね。普段からそうすればいいのに。そしたらもっとマシになる。」
ウィルが何か微妙に失礼な事を言っている気もするが、もう限界っぽい。
「も、寝る…………………。」
「うん。お休み、レイラ。」
その言葉を聞いた途端、意識がぷつりと切れた。
☆ ★ ☆ ★
随分と、懐かしい夢を見た気がする。
………………………イラ。レ…ラ。レイラ。
「レイラ。起きて。」
「ん……………。」
もう朝か……………………。………………眠い。
そういや記憶を取り戻す前は悪役令嬢らしく、眠くて期限悪い時は起こしにきた侍女に散々八つ当たりしてたなー。
いやーあの頃は身も心も子供だったとはいえ、申し訳ないことした。いや待てよ?そういや成長してもそんなに変わってなかったか。悪役だったし…………って、ん?
記憶?身も心も子供?悪役?
………………あ、ようやく昨夜のこと思い出した。
そういやレイラ低血圧だったなー。
前世でも結構低血圧だったけど、転生するとそんなことまで引き継ぐの?
「……………ってウィル!?」
「おはよう。」
「あ、おはよう……じゃなくて!何で一緒に寝てんの!?もし侍女にでも見つかったら大変な事になるよ!とにかく、どこかに隠れ………」
ガチャン!
その時、何かが落ちる音がした。
そして視界の端に映った、驚愕し目を見開いた、見慣れた侍女を見て、私は悟ってしまった。
もう、遅いのだと………………………。
次回もよろしくお願いします。