第十六話
今日は快晴だ。
外を見ればオーディンと戯れているソラの姿が見れた。大きさを自在に変えられる為、今はオーディンと同じくらいのサイズになっている。
オーディンにじゃれついている姿は、微笑ましいのだが可愛くはない。トカゲがでっかくなったって感じの容姿だからね、竜って。
「レイラ。入るよ。」
と、ウィルの声が聞こえた。毎日決まった時間に起こしに来てくれるのだ。すごい。
「もう起きてたんだね。」
「うん。まあね。」
「今日はセシル様とカミラ様が来られるからね。」
そう。今日は始めて友達を家に招く。
今まではこちらから行くだけだったので、楽しみだ。
「今日の訓練は早めに終わらせるよ。まあ内容は変わらないけど。」
「鬼!こんな時くらいいいじゃん手加減してよ!」
あれからウィルは祖父様の武器訓練の後に魔法訓練を組み込んでやがるのだ。
祖父様に負けず劣らずスパルタ。勘弁してほしい。
「さあさあ、ぐずぐず言ってる暇があったらとっとと支度して。モーニングティー飲んだら行くよ。」
「はぁい。」
さて、気合い入れて行きますか!
***********
カンッカァン!と辺りに音が響く。
私と祖父様の木刀を打ち鳴らしあう音だ。
攻撃を跳ね返され、そのままカウンターで攻撃されるのをバックステップで避ける。
踏み込んでまた一撃入れる。が、当然のごとく防がれる。
そのことは分かっていたので瞬時に剣を引き間髪入れずに攻撃。また防がれる。
また剣を引き攻撃、防ぐ、をしばらく繰り返していると、祖父様は剣を引く時の一瞬の隙をついて剣を弾かれ、剣先を首に向けられた。
……これで、一体何敗だろうか。
「ハァ、ハァ、こ、降参です。」
「ははっ。この程度で息を切らすなど、まだまだじゃのぅ。」
祖父様は息一つ乱してない。
もうこれは化け物じみてないか?
でも自分が弱いのには変わりないので何とも言えないが。
「力で押せない分、手数で稼がなければならんが当たらなければ話にならんぞ。スピードを優先させるなら防具も最低限じゃろうし、攻撃を当たらせないようにするのも大事じゃぞ。」
「う、はい。」
「それじゃあ、今日はここまでじゃ。ゆっくり休むといい。」
「ありがとうございました。」
さて、この後十五分の休憩をしたらウィルの魔法訓練です。毎日ハードスケジュール。きつい。
これも身を守るため。心身共に鍛えて将来死なないように頑張らなければならんのです。
はぁ……。しかし分かった上でも、こう、イマイチ納得出来ないような、なんというか。
此処までせんでも……とか思うのだが、教えてもらっている以上余計な事は言わないでおこう。
まあ取りあえず、体力を回復しないと。これからの訓練に堪えられられない。
***********
ダンッガンッドッカーン!
「うわああああ!?」
「次もう五発行くよー。」
はい。現在魔法訓練中で、ひたすら攻撃を防ぐ訓練をしています。
防御魔法は、使う範囲や強度によって消費する魔力が変わる。
全方位を防ごうとするとその分魔力を消費するが、反対に一部だけ防ぐと魔力の消費を押さえられる。
ということで、少しでも狭い範囲で防げるように、訓練しています。
手と足だけに防御魔法をかけて、魔法を弾く。
それだけなら簡単に聞こえるけど、ウィルは魔法の量がえげつないから難易度は鬼レベル。
「ちょ、五発って、わ、わぁ!?」
「はいはい。無駄口叩く前に集中しようね。」
「う、この……!」
根性で魔法を叩き潰す。
魔法を壊す度に爆音が響いて煩い。
「よしっ。出来た!」
「じゃあ最後に連続十発やってみよう。」
「えっ。」
「はいさん、にー、いち、ゴー。」
宣言通り、氷玉が十発襲い掛かってくる。
「無理無理無理十発とか勘弁し、ぎゃあああ!?」
ーーダダダダダダダダ!
「っ、ちっ。」
最後の二発は防ぎきれず、咄嗟に地面に伏せて避ける。
ドカーン!という音と共に爆風が吹く。
後ろを振り返ると、氷玉が当たったであろう地面がかなりえぐれていた。
当たった時を想像して血の気が引く。
「ウィル!?これ当たってたら死んでたよ!?」
「当たらなければ問題ない。避けきれないようだったら消したし。」
ウィルはケロッとしている。くそっ憎たらしい。
「まあ、この程度避けきれないようじゃまだまだだね。中央魔法学校への道は遠いよ。」
「嘘だろ……。」
じゃああそこの生徒全員チートなのか?それとも私が弱いだけなのか?
ただでさえ死亡率高いのにこれかよ……。
「さあ、着替えて。朝食の時間だよ。」
「分かった……。」
まだまだ精進しなきゃね。
**********
朝食の席に行くと、珍しい人物が。
「母様!?」
「おはよう、レイラ。顔を合わせるのは久しぶりね。元気にしてた?」
緩くウェーブがかかった銀髪に、垂れ目がちな金色の瞳のまるで女神様のようなこの人は、私の母様だ。
ちなみに私の黒髪は両親のどちらからも受け継いでないのだが、母様の母様、つまり祖母様からの遺伝らしい。
母様は身体が弱く病気がちで普段は寝室に引きこもっているので、顔を合わせるのは久しぶりだ。
ご飯も病人食というやつで寝室で食べていたのだが、今日は違うらしい。
「私は大丈夫ですが、母様はお身体平気なのですか?」
「ええ。しばらくは出歩けるくらいには回復したわ。」
「っ!それはようございました!」
母様とは昔からあまり交流がなかったが、優しい人ということは分かるので素直に嬉しい。
その人柄で使用人からも慕われているからすぐに分かる。
勿論、私も母様大好きだ。
「レイラ!怪我はないか!?最近頑張りすぎじゃあないか?レイラにもしもの事があったと考えるだけで鳥肌が………!」
……はい。相変わらずの父様です。
最近ウザさが増してきた気がする。それを言うと父様のライフは間違いなくゼロになるから言わないが。
「父様。私は大丈夫ですので落ち着いて下さい。それと、今日は友人が二人来ますのでバルコニーを使いますね。」
「まぁ、ご友人がいらっしゃるの?どなたかしら。」
「オールストン家の姉弟です。」
「ああ、よく遊びに行っていたところか。」
「はい。父様には昨日言ったはずですが?」
「レイラの可愛さに見とれていて聞いていなかったかもしれんな。」
「(華麗にスルー)では、バルコニーを使いますね。それでは先に失礼します。」
さっさと立ち上がり部屋に戻る。
父様の寂しそうな顔はこの際無視だ。
もちろん母様には微笑んで行く。
「レイラー。」
「あ、ソラ。」
オーディンと遊んで満足したらしいソラがミニサイズで飛んできた。
「今日ってお友達くるの?」
「うん。ソラは始めてだったか。どうする?紹介しよっか?」
「いや、やめとく。ボクは高みの見物でもしてるよ。」
微妙に上から目線なのは何故?
「んじゃ、適当に過ごしてて。その後散歩するから。」
「オッケー。んじゃ、何時もの場所でね。」
最近は、ソラとの飛行散歩が日課となりつつある。
アクロバット飛行などしてくれるため、なかなかスリリングな散歩だ。気に入っている。
ちなみに、何時もの場所とは屋敷の裏山にある開けた場所の事。
何故その場所かと言うと、ウィルやその他の使用人に見つかったら危ないと止められるからだ。楽しいのに。
「レイラ。」
「あ、ウィル。」
「そろそろ来られるよ。」
「分かった。バルコニーにティーセットよろしく。」
「御意に。お嬢様。」
ウィルは人前だと丁寧な口調になる。まあ当然っちゃ当然だけど。
そうなるとお嬢様とか呼ばれるのだが、非常に違和感ありまくりなのだ。
そのことを伝えると、「使用人だからそうするしかないんだから我慢してよ。」と言われる。
分かっちゃいるが、どうもむずむずする。
「ウィル……。」
「言いたいことは分かりますが、そろそろ慣れて下さい。お嬢様。」
「……分かったよ。」
「よろしい。」
ただし、敬語でも上下関係は最早決定的なものだが。
「ほら、準備してください。」
「了解。」
***********
「いらっしゃい!セシル、カミラ!」
「「お邪魔します。」」
しばらくして、二人は来た。
カミラとは転生友達としてちょくちょく会っていたが、セシルとはかなり久しぶりだった。
商会会長の後継者として学ぶ事が沢山あるらしく、あまり会う機会がなかったので心配していたのだが、それなりに元気そうなので安心した。
「セシル、久しぶり。相変わらずだね。」
「ああ、久しぶり。君も相変わらず能天気そうだね。」
「……君も相変わらずの毒舌っぷりだね。元気そうでよかったよ。」
やはりこやつはそう簡単にくたばらないようだ。まあ元気なら何よりだけど。
「さ、こちらへどうぞ。」
二人をバルコニーに案内する。
しばらく歩いていると、何やら殺気が。
二人共気がついたらしく、警戒している。
だが、この殺気の主の心当たりがある私はため息をつき、名前を呼ぶ。
「……父様。隠れてないで出てきて下さい。」
「えっ?」
「父様って…。」
「レイラ!男がいるだなんて聞いてないぞ!?」
案の定、父様だった。
「別に聞かれてませんし。」
こうなることは分かってたし。
「とにかく、レイラに近づく害虫は私が排除する!」
あぁ……。始まった。
こうなった父様は最早私の手には負いきれない。
だが、この二年の間、何もしてこなかったわけではない。
私は対抗策を見つけた。
「セバスさーん!父様は此処ですよー!」
「当主様ぁぁぁあ!仕事放棄しないで下さいぃぃぃ!まだまだやることはありますよぉぉ!」
「うわっ。セバス!?」
そう。執事、セバスさんだ。
長年父様に仕えてきた彼なら、多少対抗できる。
「さあ、仕事に戻って下さい!」
「だ、だがしかし、」
「父様。仕事をしてくれない父様なんて、私嫌いです!」
「分かった。すぐやろう今すぐやろう。だから嫌いにならないでおくれ。さあセバス、行くぞ。」
「御意に。お嬢様、グッジョブでございますぞ。」
執事さんは私に親指を立てた。私も同じく親指を立てて答えた。
二年の間磨き上げてきたセバスさんとの連携プレーは完璧だ。
その後、父様という名の嵐は去った。
「何というか、強烈だね。」
「本当ね。私知らなかったわ。」
セシルとカミラも呆然としている。
父様のあの一面を目の当たりした人達はだいたいそういう反応だ。
「ごめん。騒がしくて。こっちだよ。」
ゲッソリしながらも何とかバルコニーに到着。
ウィルが出迎えらしい。
完璧に一礼した後、挨拶を述べる。
「セシル様、カミラ様、ようこそいらっしゃいました。本日はごゆっくりお楽しみくださ……どうされたのですか?」
「父様、と言えば分かる?」
「ああ…。ご愁傷様です。」
さすがのウィルもこれくらいしか言う事が出来ないらしい。
まあそうだろうな。
「それでは、どうぞごゆっくり。」
その後ウィルが下がり、ティータイムとなった。
しばらく談笑していたのだが、ふとセシルが切り出してきた。
「そうそう、レイラ。僕には幼なじみがいるんだけど、その子に君の事を話したら是非会ってみたいと言っていたんだ。よければ会ってみない?」
「幼なじみ?」
「ああ。平民出身の女の子なんだけど、珍しく魔力が高いんだ。魔法学校、それも中央に入学する可能性もあるから、よければ同じところに行きそうな人と沢山交流を持ちたいそうで。」
こ、これは!第二番目の女友達ゲットのチャンス!?
「ち、ちなみに、名前は?」
「ルリ。同い年だよ。」
ルリかぁ。可愛い名前。
セシルの紹介だし、悪い人ではないよね。
「ルリさんかぁ。アクロイドは特に平民差別はないし、問題ないかと…」
「レイラ。」
ふと、カミラが耳打ちしてきた。
「カミラ?」
「平民出身にも関わらず魔力が高くて、中央魔法学校入学予定。同い年で、ルリという名前。本当に関わって大丈夫?」
「っ!?」
お、お、
思い出したぁぁぁぁぁぁぁ!
何ですぐ気付かないんだ!
こんなに共通点が揃っているのに!
ルリって、ルリって、
ヒロイン様じゃねぇかぁぁぁぁ!
何時もより長いですね。