たんぽぽ日和・1
【 番外・たんぽぽ日和 】
全て勘違いだったのだ。
「思い上がりも甚だしい……」
最近は一緒にいることも多かったし、それを彼も嫌がってはいないようだった。
「まぁこれで……」
すっきりした。彼が向けてくれる優しさや気遣いは、自分への好意ではなかったことがわかったのだから。
「でも、何もあんな言い方しなくても……うわっ!?」
ぼやきながら溜め息をついたところで、ヴェネスに覗き込まれていることに気付いた。
「さっきから何ブツブツ言ってんだ?」
「ヴェネスか……」
「俺じゃ悪いかよ」
ヴェネスはそう言って、不服そうに頬を膨らませた。彼は手にした夕食のプレートを私の前の席に置くと、私に断りを入れるでもなくそこに腰かけた。
「あんたらしくないね。何かあったの?」
「いや……」
言葉を濁し、私はすっかり冷め切った目の前の肉にフォークを突き立てた。
「何でもないんだ」
そう答えて肉を口に運ぶと、ヴェネスは「ふぅん」と頷いて、スープを啜った。
「でも、あんたの親衛隊が心配そうな顔してるよ?」
「親衛隊?」
ヴェネスの視線を辿って振り返ると、三人組の男――アデルとソールとギルムがビクッと身を震わせた後、挙動不審気味にこちらから視線を逸らした。彼らは私達が現在身を寄せているローグ王国城の騎士だが、なぜか私を慕ってくれて、よく手合わせに付き合っている。三人の前にある夕食のプレートは、既に空になっていた。
「あの熱烈な視線に気付いていなかったなんて、相当だよね」
ヴェネスは呆れたようにそう言って、「あ」と何かに気付いたように私から視線を外した。
「メロヴィス様! ここ!」
手を振ったヴェネスに、私も視線をそちらへ向ける。プレートを持って近付いてきたメロヴィスは、私を見るなり怪訝そうに眉を寄せた。
「リダ、具合でも悪いのか?」
「な? やっぱりそう見えるよな?」
メロヴィスの問いに、ヴェネスが同意を求めるように首を傾げる。そんなに顔に出ていたのか。
「別に具合が悪いわけではないが……」
私は言って、メロヴィスとヴェネスの顔をじっと見比べた。二人とも精悍な顔立ちだが、メロヴィスは真面目で凛々しく、ヴェネスは我が強くて独特。
「私の顔に何か付いてるか……?」
「え、何? 照れるんだけど。まさか惚れちゃった?」
反応は言うまでも無い。私はメロヴィスに視線を留め、尋ねた。
「メロヴィス、酒は飲めるか?」
「酒? まぁ……人並みに」
「ちょっと、今夜付き合ってくれないか。これから」
「構わないが――どうしたんだ、急に」
戸惑いを浮かべながらも頷いてくれたメロヴィスに、ヴェネスが口を尖らせた。
「えっ、いいな。俺も一緒に行きたい」
「いや、おまえはいい」
「おぉ……さすがズバッと断るね」
冗談めかしたように首を竦めたヴェネスに口の端を上げて、私は席を立った。
「じゃぁ、八時に鳥の子亭で」
「わかった」
私はほとんど手を付けていないプレートを謝罪と共に返却口へ片付けて、食堂を後にした。