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HOPE!  作者: NATSU
第四章 『悪夢は現実に舞い降りる』
31/35

(9)

「一体なにやってるのっ!」

 その人物は両手をぎゅっと握り締め、歯を食い縛って大層ご立腹の様子である。

「ゆ、優ちゃん!?」

 柚希は慌てた。どうしようもなく慌てた。心の中で。

 やばい! やばすぎる! どうしよう! やはり理性に従うべきだった、と早速後悔していた。我に返って自分は一体何をしようとしていたのか……考えるだけで腹が痛くなる。

「ち、違うんだよ! 優ちゃん、これは!」

 柚希は陽菜から体を離し、両手と顔を左右に振って否定した。一生懸命ない脳味噌で言い訳を考えたが、思いつかなかった。笑ってごまかすにも笑う余裕がない。

 優は何も言わず目を吊り上げたまま、柚希の方へ向かっていく。

 柚希の見た目が男だったら、まだどうにかなったはずだ。悲しいことに柚希の見た目は女で、この学校では女子高生で、優も柚希を女子生徒だと思っている。

 女子生徒が女子生徒を押し倒している光景なんて滅多にお目にかかれない。そこに居合わせてしまった優は北山学園一の情報通だ。情報を与えてどうする。

 もう終わりだ……。

 明日には伝播しているに違いない。学校中でレズ扱い? それが自分だけなら構わない。陽菜も含まれていることが困った。それともまさかのまさかで、性別がバレたりなんてしないだろうか? なんて思い、柚希は反射的に制服の裾を引っ張った。

 羽菜の時のようにいきなり制服を捲られたら困るからである。学習能力が身についているらしかった。

「柚希ちゃんったら!」

「はい!」

 柚希は威勢良く返事すると気をつけする。指の先までしっかり伸ばしていた。優の真剣な瞳が真実を射抜いている気がしてならない柚希である。

「マッサージしてる暇なんてないよっ」

「……はい?」

 今までの緊張感は何処へやら。優の拍子抜けた発言に柚希の大きな目は点になった。薄っぺらい顔になる。

 女同士ってベットでマッサージしあうもんなのか?

 やや天然が入っている優の言うことだ。その意味を真面目に考えるだけ無駄だろうが。

「もぉおっ! 予鈴なっても来ないから必死でトイレを探し回ったんだからぁ!」

「マッサージ? トイレ? なんのこと?」

 気の抜けた炭酸のような柚希が独り言のように呟く。

 優は柚希の都合も考えず、ぼけっと突っ立っている柚希の腕を引っ張った。

「うわ! ちょっと! なに!?」

 よろめきながらもこの理解不能な状況を問わずにはいられない。

「もしかして柚希ちゃん。いじめられてたりしない? 大丈夫?」

 自分の方に引き寄せると優は心配げに小声で問う。なるほど、陽菜と羽菜を間違えているらしい。

「いやいや、あれは陽菜の方。髪が短い方が陽菜だよ。つーか、いじめられてねえっての!」

 そして羽菜を完全にいじめっ子と勘違いしているようだった。トイレを探し回った理由がなんとなく分かった気がした柚希は苦笑を浮かべる。

「ならいいんだけど……って、後一分しかないよ! 急がなくっちゃ!」

 優は時計を見て悲鳴に近い声を漏らす。後一分後には本鈴が鳴り、合同集会が始まるのだ。

「ちょ、ちょっと待って!」

「だーめ! 待ちませーんっ!」

 親切で面倒見がよくて頼りになる優だったが、たまに突っ走るところが何とも言えない。優は遠慮なしに引きずるようにして、ぐいぐい柚希の腕を引っ張る。そのたび柚希は、わっ! あわっ! とよろめいて扱けそうになった。

 今度は優を押し倒してしまったら大変だ。扱けそうになるたび踏ん張る。

 柚希は仕方なく付いていった。優に声を張って言えるような、残る為の理由はない。付き添って残るだなんて保護者じゃあるまいし、言えるわけがなかった。言ったところでサボりとしか思ってもらえないだろう。

 引きずられながら陽菜の方を一瞥する。

 仕方がないと思っていたのは柚希だけではなかったようで、陽菜は胸元を隠してベットに腰かけたまま柚希に微笑みかけていた。その足下には四角い弁当箱が転がっている。

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