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決意 2

「……お前、多分バカだろ?!」

「多分バカだと思うけど、でも本気だよ?」

「それ、説明してんの? 言い訳してんの? 本気出したらバカじゃなくなるってかよ?!」

 桑原くんは完全にキレちゃっていた。いや、おかしくなったと言うべきか。

「ちょっと桑原くん」

「お化けに、野瀬を連れてってもらう?! お前本気?! 本当に、本気?! しっかりしろよ、戻ってこいよ!」

「おきゃくさんは本当にいるんだってば。本当なの」

「黙ってろ! てめぇのクソバカな妄想に圭太を付き合わせんなよっ」

 て、て、てめぇって言った! クソバカって言った!!


 すっかり暗くなった公園。塾をサボったあたし達。田中くんは桑原くんを、あたしはかず君を呼び出していた。

 まだ午後6時とはいえ、あまりな大声を出したら地域パトロールとかいうおじいさん達が来ちゃうんだけど……っ。

 と、考える前にあたしもキレていた。


「この、意気地無しな小犬小僧っ!! キャンキャン吠えてクラス崩壊させといて、知らんぷりの臆病者っ!!」

「なっそーゆーてめぇだって佐々木の事ガン無視しときながら」

だいちゃんストップ。口ではみーちゃんに勝てないよ。やめといたら?」

「暴れて楯ついてかっこつけて人に文句は言うくせに「みーちゃんもストップ」

 怒りで顔を白くさせてる桑原くんに更なる追い打ちをかけようとして(そういえば前も、こんな事あった?)かず君に止められた。口の前5ミリ位の所に、彼の手のひらを当てられる。

「君も口で相手を追い詰めない。よく失敗するでしょ?」

「……」

「そうなの?」

 田中くんが不思議そうに聞いた。そこ、詳しく尋ねるところじゃないでしょ?

「そう。普段はあんまり喋らないでしょ、この子。口は禍のもと、って知っているから。完膚なきまで相手を叩きのめしちゃうぜ」

「……」

 かず君も、詳しく説明するところじゃないでしょ? 

 すると田中くんが、少し怖そうにあたしを見た。ジロッと睨み返してやる。かず君がにやっと笑った。

「言ったじゃん、みーちゃんをあまり苛めるなよって」

「……」

 ちょっとそれどーいう意味よ。

 抗議をしようと口を開きかけたけど、そうするとなんだかかず君の言葉を裏付けしそうな気がして、あたしは思いとどまった。

 田中くんは恐れをなして(?)、桑原くんは悔しそうに、やっぱり口を閉じている。そしてかず君のどや顔。え? 結局あたし達、この人に黙らされた? 恐ろしっ。


「問題は、どうやって先生をあのほこらまで連れ出すか、って事なんだ」

 気を取り直した田中くんが真面目な顔で言うと、桑原くんが覚醒した。

「ちょちょチョイ待て。話進めんの?! 俺、認めてないぜ? 連れ出して、そこで何も起こんなかったらどうするつもりなんだよ?」

「そこでなんか起こったらどうするつもりなんだよ、じゃないんだ?」

 思わずあたしが苦笑いをすると、桑原くんはギッとあたしを睨んだ。カズせんせーい、この人、あたしの事を苛めてまーす。


「あんな奴は、いなくなっちまえばいい」

 憎しみがこもった、桑原くんの台詞。あたし達はしーんとなった。

 彼の言葉は、あたし達全員の、心の全てを、表現しきっていた。

「それは皆の共通意見、って事だよね?」

 かず君が言う。すると田中くんが、ボソッと言った。

「俺はあいつに、頭ん中シャーペン突き刺された」

 えっ?

「えっ?」

 桑原くんが、あたしと同じ顔で田中くんに聞く。

 信じられない思いであたし達が見守る中、田中くんは低い声で、静かに言った。

「鉛筆の先を、目の中に刺す真似をされたこともある。ぼくはバカです、とか、合格できるのは野瀬先生のおかげです、って300回くらい、口で言いながら書かされたこともある。怒って怒鳴りながら、隣の机や椅子を蹴飛ばす事なんてしょっちゅうだ」

 な、な、何それっ!! 

 あたしは驚愕した。信じられない、想像出来ない、趣味悪すぎっ、異常でしょっ。

 思わず桑原くんを怒鳴ってしまった。

「何もされてないって言ったじゃん!」

「なっ、な、殴られてないだろっ? 跡ねぇもん!」

「僕が何も大翔だいとに言ってないからだよ。別に大丈夫だと思ってたから」

「それが先生の手口なんだよ」

 まあまあと言うように、かず君が再びあたし達の間に割って入った。


あとは付けず、或いは見えない所に。相手を許容範囲ギリギリまで追いつめて、段々馴らしていくんだ」


 頭の中が、オーバーヒートしそう。あたしの処理能力を超えている。野瀬先生は変態だ!

「ほんとはお前がサドなんじゃね?」

 桑原くんが気味悪そうに、かず君に言った。かず君はおかしそうにハハハと笑った。

 田中くんも少し笑った。でもすぐに真顔に戻った。

「もう我慢できない。菅野さんの言うとおり、今ここで抵抗しないと、人生一生負け犬だ」

「だから先生を消しちゃおうってあたり、過激だねぇ」

 かず君がのんびりと言う。

「カズはどうなの?」

 田中くんは、あの丸くて素直な目で聞いてきた。

 かず君は、薄く笑った。

「僕? 僕は怒ってるよ。ずっと前から。みーちゃんが吐いちゃう前からね。野瀬先生も、佐々木先生も嫌いだ」

「へぇ。そうは見えなかったぜ?」

 桑原くんが眉を上げ、からかい気味に言う。かず君はへらっとした。

「僕は陰険だから」

 言葉と態度が、合ってないってば。

「だけど化け物に連れてってもらう、ってのはあり得ねえ。お前が見たのだって、見間違えか何かだろ」

 桑原くんが話を戻した。面倒臭いなぁ、もう。

 田中くんは、真っ直ぐに桑原くんに言った。

「そんな事ない。はっきりと見たもの」

「あり得ねぇだろって」

「ほんとだよ!」

「もし違って「もし違ったら」

 かず君が再び、二人の間に入った。

「それでも、上手くいく。先生を、潰せるよ」

「潰せる?」

「そう。これ」

 かず君はポケットから携帯電話を取りだした。え、こんなにいい携帯を持っているの?

 という驚きは、彼が開いた画面を見て、引っ込んだ。

「……おまっ!」

 桑原くんの絶句。

 かず君は、あたしに見せない様に、片手であたしの両目を軽く覆ったけど、それは一瞬遅かった。


 明らかに教室内だと分かる窓枠。野瀬先生の前にひざまずいている、全裸で傷だらけの佐々木先生。顔が先生の下半身に押しつけられている。

 あの時、あたし達は野瀬先生の後ろ姿しか見えなかったけど、写真では、彼らの向かいの窓にも彼らの姿が映っていた。夜の窓が鏡のようになって。全体的に暗いから、まるで心霊写真の様にも見える。でもその二人が野瀬先生と佐々木先生だと認識するには、十分な顔映りだった。

「上手くいかなかったら、これで潰そう。教育委員会に持ってくってのはどうかな? それともやっぱり警察かな?」

一志かずし、いつこんなの撮ったんだよ」

「あの時だよ」

「音、聞こえなかったぜ?」

「消せるんだよ」


 かず君を除くあたし達3人は、顔面蒼白になった。今頃になって、彼がとんでもない切り札を持ち出してきたからだ。

 あたしは口を開いた。緊張で、声が掠れてしまった。

「何で今まで黙ってたの? これ持ってる事」

 かず君は首を捻った。

「何でだろう? タイミングが、なかったのかな? 使い時を探していたのかも。内申を上げてもらうか、テストの点数を上げてもらうか、中学推薦を書いてもらうか。代々にわたって使えそうだしね」

 ……淡々と、そう言う事を言う……?

「……確かに、陰険だ……」

 桑原くんが小さく呟いた。かず君は肩をすくめた。

「まあ、これ使うと、野瀬先生と佐々木先生、両方刺せちゃうからね。多少慎重にはなるよ」

「じゃ、これをダシに野瀬を呼び出すか」

 急に桑原くんが前向きになった。現実的な武器を手に入れたので、動く気になったらしい。おきゃくさんの話はともかく、彼は野瀬先生を本気で潰したいのだろう。かず君と二人で、ごにょごにょと話し始めた。

「それじゃあ、佐々木先生も来ちゃうんじゃない? それか佐々木先生しか来ないとか」

「そうか。確かにこれじゃ、野瀬だけ呼び出す理由にならない。あいつ、佐々木を良い様に使って自分は陰に隠れるかもな」

「そこは俺、考えた」


 田中くんが、はっきりとした口振りで二人に言った。二人が彼を見る。あたしは緊張した。いよいよだ。


 田中くんは話し始めた。その話は一部始終、荒唐無稽で現実離れをしていて、傍で聞いたらおよそ成功しそうには思えない話だった。

 だけどあたし達は信じ始めていた。田中くんの口調はそれぐらい力強く、説得力のあるものだった。皆少し興奮状態だったのかもしれない。やがて誰も、信じて疑わなくなった。これは絶対成功する。

 どうやって計画を遂行するか。あたし達は、時がたつのも忘れて聞き入った。



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