第2話・青い戒め:3P
ふと、男の顔を目で捕らえた瞬間、李周の脳裏からはある記憶が蘇ってきたのだった。
「・・・おまえは、あの時の・・・」
苦しさに耐えながら、李周はかすれた声で呟く。
「ほお・・・。私を覚えていたか。」
男は冷笑を浴びせると、李周の目の前で片膝をつき、親指で顎を自分の方に向けさせた。
「私はあの時おまえに言ったはずだ。こうなることを。・・・忘れてはいないだろうな。」
そして、李周の顎をおさえている指を離し、今度は喉へと爪を突き立てる。
突き立てた鋭利な爪は李周の喉に食い込み、そこからは鮮やかな血が流れ出す。
「・・・貴・・様・・・」
だんだんと視界がくらみ、意識がもうろうとし始めてきた李周。
自分の体を支えることに限界を感じた時だった。
突然、突風が吹き荒れた瞬間、李周を囲んでいた光のベールは、皿が割れるような甲高い音を響かせながら、あっという間に砕け散っていった。
「・・・これは。」
不意のことに男は一瞬肝を抜かすが、すぐに冷静さを取り戻すと、視線を上空へと向けた。
「来たか。天界の奴ら共。」
その時、真っ青な空から4つの眩い光が輝きだすと、地上に向かって一直線に光の塊が舞い降りて来る。
そして、地上に着地した光の塊は空気中で分散すると、中から4人の青年が現れたのだった。
その中には劉周公の姿がある。
他の3人も劉周公と同様に、どれも皆変わった髪と目の色をしていた。
劉周公達は男の前で、対峙するように立ちはだかる。
男は意味ありげな微笑で、劉周公達の方へ一歩前進した。
「俺らの切り札をそう安々と殺させはしねぇんだよ!!」
3人の先頭に立つ劉周公は、男に向かって吐き捨てるように怒鳴る。
「何ならこの場でやり合う?本気の勝負なら受けてたつよ。」
劉周公の背後にいた緑色の髪の男は、小さく握り拳を作ると、構えの姿勢で男と向き合う。
それを見た男は鼻で笑うと、足元まで届く上着を翻し、劉周公達から体を反らした。
「今はおまえらと遊んでいる暇はない。奴の力を覚醒させたいのなら・・・好きにするがいい。・・・だが、これだけは覚えておけ。ことは既に動き出したとな。」
そう告げると、軽く地面を蹴り上げ、上空へ舞い上がり、地上にいる劉周公達を見下ろした。
そして、一瞬のうちに男は姿を消していったのだった。
男の姿が消えてもなお、上空を見上げる劉周公達。
しばらくの間、沈黙が流れた。
劉周公達が妨害してくれたお陰で、ようやく体が自由になった李周は、ゆっくりと立ち上がると、劉周公達の側へ歩み寄った。
「今度は何だ。あいつと同じような類か?」
李周は劉周公達と向かい合うようにして、4人を見据える。
「てめぇ!!人が折角助けてやったのに、あいつと同等扱いするんじゃねぇ!!」
李周の言ったことがよっぽどカンに障ったのか、劉周公は前のめりになり、思い切り怒鳴り散らした。
「まあまあ、落ち着きなよ。確かに性質は似たようなものじゃん。」
その横で、金髪を一つに結った男が仲介する。
「ともかく、私達は美形なあなたを連れ戻しに来たのよ。」
荒れている劉周公をよそに、金髪の男の隣にいる、赤色の髪をした女は、李周に向かって熱い視線を送った。
「・・・連れ戻す?どういうことだ。」
李周は、度重なる不可解な事に眉をひそめる。
気を取り直した劉周公は、咳払いを一つすると、李周の方へ人差し指を向けた。
そして、声を張り上げて宣告したのだった。
「天界が創り出したもの、“青龍星君”の血を引くお前を迎えに来たんだ。」