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一章 ハル姫

コレは、俺が高校のときに書いたものなので。熟成(という名の放置)5年ものの大雑把リメイクになります(笑wもとは、いつもつるんでいる友達をイメージしたキャラクター??あるいはこの子こんなキャラすきそうだな~っていうキャラを登場させて始めたものだったんだけれども、描いてゆくうちにどんどんかけ離れていったので。面影も何も無いからそこらへん気にしないで読んでくださいまし(苦笑。ロゼ、松モアゼル、女帝様、姫に捧げる。協力してくれたロゼに、心から感謝!!

一章  ハル姫



 その朝、ハルは全く知らない部屋の天蓋付きのベッドの上で目覚めた。日当たりの良い、白い壁の広い部屋に一人きり。アーチ型の窓からは、青空が見える。どうやら今日は晴れのようだが、そんな事はどうでも良い。

 ここは、どこなのッ?

 ハルはベッドから降りて、ふらふらと白いカーテンが掛かる窓辺へと移動した。窓硝子に、青空を透かしているような自分の姿が、ぼんやり映る。そして、初めて自分がネグリジェを着ている事に気がついた。

 ハルは普段パジャマを着る。いったい、いつ着替えたのだろう?風になびく黒い髪も、こんなに長く はなかったはずだ。

 しかし、窓の外を見下ろしたハルにとって、これらはほんの些細な出来事でしかないように思えた。

 ここは、どうやら高い塔のてっぺんのようだった。

 そして、眼下には全く知らない街が広がっていた。見た所、車やバイクといった物は見当たらない。電信柱も無ければ、蜘蛛の巣のように張り巡らされたケーブルも無かった。おそらく、どの家にもテレビや電話、パソコンなどといった物は無いであろうことが、上から眺めているだけでも容易に想像することができた。

 とてものどかなその街並みは、歴史の授業で勉強した中世のヨーロッパを思わせる。その向こうには、真っ青な海が広がっていた。

 間もなく、ハルはベッドに戻るなり眠りにつこうと躍起になった。

 今、この状況が仮にただの夢であるのなら、この世界もまんざら悪くはないと思う。しかし、頬を撫でた風の感触が妙にリアルだったことが、ハルを一層不安にさせていたのだった。

 それからハルは、この夢からどうにか抜け出そうと、あらゆる事を試みた。瞼を思いきり閉じてみたり、あるいは「夢だ夢だ夢だ…!!」と、何かの呪文のように唱えてみたり―。

 しかし、ハルは一向にこの夢(少なくとも、そう信じている)の世界から抜け出せずにいた。そして、最後にベタではあるが。恐る恐る頬をちぎってみると…。当然の事ながら、その部分にじんわりと痛みが広がった。

 夢じゃ、ない―。

 コン、コン…。

 その時、突如何者かが扉を叩く音が鳴り響き、ハルの心臓は飛び上がった。

 慌てて毛布の中に身を埋めるハル。俯せの状態で、毛布と枕の隙間から扉の方を窺う。すると、にわかに扉が開かれて・・・。

 現れたのは女中とおぼしき女性だった。

(きっと、秋葉のメイド喫茶に行けば、あんな格好の人がいるのだろう…。)

 ハルの悠長な想像とは裏腹に、現状はあまりよろしくない展開へと転がってゆく。

 女中は真っすぐにハルを見つめている。部屋にはベッドしか家具らしい物が無い以上、隠れ場所など盲目見当が付いてしまうのは当然の事だった。

 まずい…。

 ハルはハッとして枕に顔を埋め、毛布に完全に隠れた。

 しかし、次の瞬間には、虚しくも毛布はバサリと剥ぎ取られていた。

 恐る恐る見上げた視線の先には、ハルを見下ろす女中の顔がある。女中は怒っているのか、はたまたうんざりしているのか解らないが、険しい顔付きをしていて…。彼女の左頬にある大きな傷跡が、その表情をより一層際立たせていたのだが、ハルは場違いにも「きっと触れてはイケない傷なのだろうな」などと彼女の傷の事について考えていた。

 今がそんな場合でないことぐらいは、明らかである。

「ご、ごめんなさい!!あたし…」

 しどろもどろに、ハルが何も言い終えない内に、女中はフゥと盛大な溜息を漏らした。

「姫ッ!!朝食のお時間ですと、何度もお呼びしているではありませんかッ!!お具合いを悪くなされたかと心配して来たのですよ!?その様子では、どこにも異常はございませんね?」 

 一気にまくし立てる女中。その言葉に、ハルは一瞬耳を疑った。

「あたしが姫!?うっそだぁっ!!あなたは誰ですか?」

「あなたは誰ですか?」だなんて。ハルが女中の知る“姫”でなければ、それこそ向こうのセリフではないか。

 女中はハルのセリフにキョトンとした表情を浮かべ、不意にクスクス笑い始めた。先程の剣幕からはおよそ想像のつかない、優しそうな顔だ。と、ハルは思った。

「何をおっしゃっておいでですか。私は姫が赤ん坊の頃からお世話させていただいているのですよ!?お忘れになられたとでも?」

 およそ、“姫”の冗談に付き合って笑っている、そんな所か…。見え透いた冗談。さぞ、可笑しい事だろう。

 続いて、女中はご丁寧にも“初めまして”の自己紹介を始めた。

「スザンナですよ。スージーとお呼びになられておいでますけれどね。ついでを言いますと、あなた様は、このウインディアの姫。ハル姫でございますよ。来週の日曜日、隣国フローリア王子、バースリッジ様と御婚約される御身にございます!!」

 その口調には、少なからずおどけた調子の響きがあった。しかし、ハルはおどけている場合では無い。

「婚約!?バー…?何とかって、誰!?」

 スージーは「御冗談が過ぎますよ!」と言って、相変わらずクスクス笑うばかりで、「仕方の無いお姫様ですこと!!」などと口々に語りながら、ハルをベッドから引っ張り出す始末。ハルは、彼女にこれは冗談では無いのだ!!という事実を信じさせる術を見つけられないまま、手を引かれるにまかせ部屋を後にした。

 見ず知らずの男と結婚するなんて、最悪だ。頼むから、その王子とやらが理想の男であるようになんて贅沢は言わないから。せめて善良な男であってくれ!

 深紅のカーペットが敷き詰められた長い廊下をスージーと共に歩きながら、ハルは心の中で神に縋るように祈っていた。

 広い広~い大広間に、長い長~いテーブル。やがてハルが連れて来られた朝食の席。そこに腰掛け、早々に食事を始めていた面々は、おそらくハルの家族と呼ぶべき人物達なのだろうが…。それは、あくまでも“姫”の家族であり、ハルの慣れ親しんだ家族とは違う人物達だった。父、母、それにおそらく妹。家族構成は、ハルの家と同じ。しかし、父は国王であり、母は妃、妹もハルと共に姫という各々の地位と権力が備わっている。

「ハル、どうしたの?具合いでも悪いの?」

 お妃様がハルを気遣う。それは妃ではなく、一人の母親の顔だった。が、ハル自身はこの人達の事を知らない。果たして、本当にここにいても良いのだろうか…?

「あ…はい。夕べはちょっと夜更かしをしてしまったので…。」

 気が引ける思いで、そう答える。嘘を言っているわけではない。夕べは確かに自分の部屋で妹と共にゲームをして、それから遅くまで机に向かって絵を仕上げていたのだ。しかし、また妹と共にゲームを…、あるいは未完成の絵を完成させる、その機会がまた訪れるのかどうか。今のハルには見当もつかなかった。

 あたし、元の世界に戻れるのかな…。

 パンを一つ手に取る。

 泳いだ視線が、スージーとかち合った。

「姫、」

 パンをミルクで胃に流し込み、早々に朝食の席を立ったハルは、広間を出てすぐ呼び止められた。

 間もなく、スージーがハルから少し遅れて広間から出て来た。

「何か、おありになられたのですか?よろしければ、この私にお話くださいな…?」

 ハルはスージーに連れられて庭に出た。色とりどりの薔薇が見ごろを迎えている。ふと背後を見上げると、大理石で造られた見事な城が目に入った。ここが自分の家だなんて、全く信じられない。

 濃厚な薔薇の香りが、余計に夢の世界を思わせる。

 すれ違った庭師の若い男に、スージーがお茶の用意を頼んでいる。男は、にこりと笑って了解すると、城の中に消えた。

 花いっぱいの広い庭には、綺麗な池があり。浅瀬に設えられた飛石を渡ると、中島にはこれもまた小洒落た椅子とテーブル。

 ハルとスージーはその椅子に腰掛け、しばらくぼんやりと庭を眺めていた。やがて庭師の男がティーセットと菓子の入ったバスケットを持ってくると、二人のお茶会が始まった。

「それで、いかがなされましたか?」

 ハルはこんな事を話した所で、スージーが信じてくれるような気はしなかった。しかし、このまま誰にも話さない訳にはいかないだろう。今のところ、ハルが唯一気を許せそうな人物はスージーしかいなかった。

 いや、スージーなら。もしかしたら理解者になってくれるかもしれない…。

 そんなささやかな期待を胸に、ハルは口を開いた。

「あの…、あたし。急にこんな事を言ってびっくりしちゃうと思うんですが、…あたしは別な世界からこのお姫様の身体に来てしまったみたいなんです。あたしは、ただの女子高生で―。」

「ジョシコウセ~…?」

 あぁ、この世界には高校も無いらしい。スージーの頭上に?マークがたくさん浮かんでいるのが見えるような気がした。

「つまり、…なんていうか―。スージーさんが知っているお姫様ではないという事…?なんです…が…。」

 後半、ハルの声は消え入りそうなほどに小さくなっていた。普通に考えたら、頭がイカれているとしか思われないような事を、今、ハルは打ち明けたのだ。果たしてスージーはどんな反応を示すだろうか?

 ―また、御冗談を!

 しかし、スージーは思いの外神妙な面持ちで。

「姫の身に何が起きているのか存じませんが、姫の不安な気持ちはお察し致します。何も心配ございません。いつでも、この私がついております。どうやら―、記憶喪失になられておいでのようですね?」

「記憶喪失…?」

 そうしておくのが、今の所はベストなのかもしれない。

 そして気付いた事は、ハルが神妙だと思っていたスージーの表情は、彼女の悲しみであったこと。おそらく、このお姫様にも今まで培われた記憶があり、思いでがあり。ハルの意識の進入により失われたそれらは、スージーにとっての宝物だったんだろう。


 姫が記憶喪失になったという噂は城内に瞬く間に広まり、そのおかげでハルは知らない顔をしていても困る事もなければ、不審がられることも勿論無かった。スージーはハルを城中連れ回しては案内をしてくれた。またある時は、街の娘を装って、城下を見てまわったりもした。

 石畳の道に、馬車が行き交い、鶏達が豆を啄む。水売りがセディックと呼ばれる巨大な牛で、これもまた大きな水瓶を引き、水を求めて集まって来た人々の瓶を満たしていた。市場には食材を始め様々な品々が並び賑わっている。

「平和ですね~」

 ハルが焼き菓子を頬張りながらしみじみ語りかけると、スージーは「とんでもない!!」という風に顔をしかめた。

「昼間はそうかもしれませんがね。夜ともなれば大変物騒な世の中ですよ。」

 そこでスージーは、今世間で騒がれている二人組の悪党の話しをしてくれた。盗み恐喝何でもござれ。近頃勃発している殺人座談も、彼らの仕業だという。どうやら、どこへ行っても世の中が物騒な事には変わりないらしい。

 お城の生活はやってみれば思いの外快適なもので、欲しいものは対外の物なら手に入った。無論、テレビゲームやパソコン、携帯電話などといった類いの物は無いのだが。基本的に生活に困ったり、ひもじい思いをすることもまず無かった。自分が一応ではあるが王族の一員である以上、当然といえば当然なのだが。なんだか悪いな…と思いつつ、女中達に囲まれてちやほやされるのは、満更嫌ではない。「姫」と呼ばれるのも、向こうの世界でやたらそう呼んで来たおかしな奴がいたために、免疫がついていた。

 ハルがようやく城の生活に慣れてくるのと共に、バースリッジ王子との婚約の日がいよいよ間近に迫っていた。

 そのバースリッジという人物については、ハルより2歳年上のとても知的で教養があるという事以外、性格や気質について彼の人柄を詳しく知る者は誰もいなかった。

「たとえ姫が隣国へ嫁がれても、姫のお傍に使えさせていただきます。」

 スージーがそう言ってくれる事が、ハルにとってなによりの心の支えだった。

 女性が世継ぎになれないのは、ここでも同じらしい。姫であるハルの役目は、結婚してどこか大きな国に嫁ぎ、この国ウィンディアの良き縁組を果たすこと。所謂、制約結婚というやつだ。隣国フローリアとあらばなおさらの事。未来永劫安泰だと、城内に留まらず国中の人々が喜んだ。王族に生まれると、色恋ざたとは孤立無縁になるらしい。それはハル姫の場合でも例外は無い。

 見ず知らずの王子との不本意な結婚式は、いよいよ明日決行となる。


 まさか、その式でとんでもない事態が巻き起こるなんて、この時のハルには全く知るよしも無かった。

 今までの出来事は、ほんの序ノ口でしかなかったことを思い知らされることになる―。




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