体育館裏にて
「や、矢来?」
「おっす」
なんということだろう。さらに翌日にも矢来は現れた。
教室ではなく、直接体育館裏にいて待っていたのである。まさかのまさかだ。
「羽成、移動教室でいなかったみたいだから先来た」
「ああ……あの、ありがとう、な」
「ははっ、羽成って御礼ばっか言ってる。今度は何の御礼だよ?」
「お、俺が友達付き合いしたいなんて言ったから、俺の夢を叶えてくれてるんだろう?こんな風に一緒に過ごしてくれて嬉しい。気づかってくれて、矢来のグループにも申し訳ない」
「全然。むしろ俺が押しかけすぎてるし。羽成といるの楽しいからさ」
きゅゅゅゆゆゆうううんんんっっ!!
や、矢来が俺といると楽しいって!ああっ、今の録音したかった!眩しく神々しい矢来を丸ごと録画できていれば!いや脳内再生を繰り返して永久に記憶し続けよう!
それからも毎日矢来と昼飯を食べている。本当にいいのか?気をつかわれているだけなんじゃないか?飽きられたら終わるよなあ?悶々と過ごしながら、会えば一瞬で幸せに変わる昼休みのひと時。
弁当の話題からテニス、趣味や友達の話などほぼ矢来に話させてばかりだが、矢来は楽しそうに話してくれて、俺も楽しい。矢来が隣にいる、それだけで俺は幸せになれるんだなあと再認識した。
今日も一緒に飯が食える。なんて幸せなんだ。神様、俺、何かしました?何のごほうびなんでしょう?
「羽成ってさ、好きなやついる?」
「ゴフッ」
健全男児の会話だけども!突然何をおっしゃる!?
「す、好きって……恋愛的な……あ、そっか、芸能人とかそういう……」
「恋愛的な意味で、将来結婚したいと思ってるとか、本気の意味で」
あなたですね。生涯矢来を愛し続ける所存です!
重っ!え、何、この質問。どう答えるのが正解!?正直に吐露してしまいたいが、そんな勇気は俺にない!俺は一生矢来を愛でるつもりはあるが、告白して本当に一緒に生きていけるなんて、ぜいたくなことは望まない。こっそりでいいのだ、こっそり!いつか見つかって嫌われそうな考えだけどな!
ええっと、つまり、この質問に対する答えは。
「け、結婚したいとまで思う人は、いない、かなぁ……」
「……好きなやつはいるってことか」
「うっ。ま、まあ、憧れ、的な?な、名前は絶対言わないぞ?」
「……ふうん」
「や、矢来こそどうなんだ?いつも女子に囲まれてるけど、付き合いたい人はいないのか?」
「……いる」
がーん。いるんだ、付き合いたい人が。そりゃあそうか、話を振ってくるくらいだし、その人のことを話したかったんだろう。
だが俺に相談するなんて、どうした?俺が経験豊富なやつに見えるのか?アドバイスなんてできないし、したくもないんだが。
いっそ純粋な矢来をだまして破局させてやりたい!ああ、俺はなんて心の狭いやつなんだ!
「……ちなみに、どんな人か聞いても?」
「優しくて、包容力があって、頭もいいけど、たまに天然っぽい」
「……へぇ」
「料理上手で、聞き上手。美人だし、笑うとすごくドキドキするんだ」
「……ほお、その人と結婚したいと?」
「ああ。ずっと一緒にいたい。ひっついて離れたくない」
そこまでか!?矢来がそこまで惚れ込む相手がいたとは!?だが、特徴聞いたって、人付き合いの乏しい俺には判別できない!相手は誰だ!?
矢来には幸せになってもらいたい、と応援する気持ちと、俺ではないという悲しさが混ざり合う。ぐちゃぐちゃな気持ちを見せて心配かけてはいけないと、努めて冷静な顔をとりつくろい、弁当をつつく。矢来にほめてもらった卵焼き、今日は味がしない。
矢来はまっすぐな気持ちを俺に話してくれた。俺をまっすぐに見つめて、本気なのだと示している。アドバイス求められても無理だ、泣きそうなので勘弁してほしい。
「付き合いたいんだ、俺は本気で」
「……そうか」
「どうしても付き合いたい。高校卒業したら結婚して同居したい」
「……それは、さすがに気が早すぎるんじゃないかな……」
「キスは?」
「……」
「キスしたい!正直、ずっと飛びつきたくてガマンしてるっ」
「そ、それは、まず、順番が……」
「好きだ!」
「……ここで言っても……」
「俺、ずっと好きなんだ。初めて見たときから目が離せなくて、あまりにも綺麗だから、俺が触れちゃいけないって思った」
「……そう、なんだ」
「だから、付き合いたいって言われて、びっくりした。めちゃくちゃ嬉しかった」
「……え!?も、もう告白は済んでるのか?じゃあ、もう、それ、付き合ってるんじゃ……?」
「でも、意味が違ったから……でも、チャンスだと思ったんだ。恋人じゃなくても、友達から。それで一緒にいるうち、やっぱり好きだなって思った。俺のくだらない話を楽しそうに聞いてくれて、幸せそうに俺を見てくれるから、もしかして、羽成も俺と同じ気持ちなんじゃないかなって」
「……ん?え?……お?俺?急に……っ、俺!?」
急展開だ!?頭の整理が追いつかないんだが。
「俺は羽成と付き合いたい」
「……」
「羽成と、キスしたい」
「……!」
矢来は、俺が好き、だった?前から?俺が矢来を、好きなんだよ?えっと、つまり?
「……俺?」
「そう。今、俺の目の前にいる羽成が、俺の好きな人」
「……っ!?」
「羽成にも、俺を好きになってもらいたい。友達とか憧れ以上に、俺をみてほしい」
「っ、お、俺は……」
「俺は羽成と付き合いたい。これは友達付き合いじゃなくて、キスしたいって意味だから」
「……っ、お、俺でいい、のか?」
「羽成がいい」
夢を見てるみたいだ。絶望から楽園に急上昇して、気持ちがふわふわしてる。確かなものを求めて矢来の制服を掴む。
力強い矢来の腕に引かれて、その胸に収まる。ああ、あったかい。早鳴る鼓動は俺のものだろうか?顔を上げると、熱い吐息がかかるほどそばで、大好きな彼は笑っていた。
「……していい、キス?」
「……する」
現実なんだ。こんな幸せが俺にも実現する。神さまありがとうございますっ!これが夢ではないのだと理解するまで、俺たちは深く確かめあった。
おしまい。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




