昼飯にて
矢来の笑顔を心に焼きつけ、繰り返し楽しもうと弾む気持ちで過ごす。毎日会えるかどうかもわからないのだから、思い出の矢来に勇気もらって頑張るぞ。
そう思っていたが、なんと奇跡はまだ続いていたらしい。神棚に最高級の酒でも供えるべきだろうか?
廊下でぶつかった翌日にも矢来に会えた。昼休みに矢来から俺を訪ねて教室に現れたのである。
「昼飯、一緒にどう?」
「……誘ってくれて嬉しいけど、俺、外で食べるんだ」
奇跡に感謝するが、いかんせん、矢来グループに混じりたいわけではない。混じったところで、話しについて行けず浮いてしまうだけだろう。優しい矢来に気をつかわせてしまうのも心苦しい。
「別にかまわないぜ。んじゃ、外行こう」
え?まさか、俺と一緒に外で食べるつもりなのか?友達と教室で食べるんじゃないのか?もしや矢来の友達もすでに廊下で待っているのか?
ちらりと矢来の後ろを見たが、誰かが待ってる様子はない。
「……矢来、今日は友達と食べないのか?」
「食べるぜ」
矢来はにっこり笑って俺を指さした。友達、と。きゅんっ!
「ふ、普段一緒のメンバー、とか」
「今日は別の友達と食うって伝えてある」
それって、俺と二人で弁当食べてくれるってことだな。奇跡!
でもなぜ?俺が友達付き合いしたいなんて言ったばかりに、俺の夢を叶えようとしてくれている?神だ、絶対。優しすぎる。惚れる。だからみんな矢来を好きになるんだ。
「早く行こうぜ、時間なくなる」
「あ、うん」
せっかくの機会なので、甘えることにした。バッグを持って一緒に外に出た。
体育館の裏の階段が俺の定位置だ。昼休みだけど体育館に来るやつは少ないし、ここは裏側なので遊びに来るやつらがいてもあまり気づかれない。陽射しも入るのでぽかぽかして居心地良いのだ。
「へえ、いつもここで食べてるのか?」
「ああ」
「いい場所だな。風が気持ちいいし」
さらさらと矢来の髪を撫でる風まで神がかったタイミングだ。これが実は夢だったなんてことがありませんように。
横並びに座って弁当を開く。
「お。羽成の弁当、美味そう」
ほめられた。ああ幸せ。
卵焼きにウインナーと定番なものしかないんだが、差し出してみよう。
「ありがとう。よかったら、どうぞ」
「いいのか?じゃ、俺のと交換な」
矢来の弁当は、デカい。大きなおむすびに、タッパーに大盛りのからあげや春巻きやらが入っていた。食べ盛りの学生の弁当って感じだな。
矢来はテニス部で、これだけ食べてもあっという間にエネルギーとして消化するんだろうな。
矢来は俺の弁当から卵焼きを持っていき、俺は矢来の弁当からたくさんあるからあげをひとつもらった。
「あ、うまっ。羽成の母さん、料理上手だな。甘さ控えめの、ちゃんとおかずになる味がする。うまっ」
美味しそうに咀嚼する矢来に、俺は目をそらす。顔が熱い。顔が赤くなったりしてませんように。
「ん?羽成、どうした?」
「うっ、その……弁当、俺が作ってるんだ」
「え?羽成の手作り?この卵焼きも?」
「ああ。母さんも働いてて、忙しいから」
父は医者で、母は看護師である。二人とも忙しく、不規則な生活になることも多いので、家のことは料理、掃除、洗濯など俺が担当しているのだ。なんなら、二人の弁当も作って渡している。二人は同じ病院に勤めてるから、時間合わせて昼は一緒に食べてるらしい。
そんな家庭事情を話す。よかった、今日は焼き色キレイにできた卵焼きで。まさか矢来に食べてもらえる日が来ようとは。しかも美味しいといってもらえた。恥ずかしくて照れるが、めちゃくちゃ嬉しい!
「羽成ってすごいな。料理まで上手なのか」
「い、いやあ、慣れだよ」
「いいや、すごい。実は俺も自分で弁当作ってるけど、卵焼きとかこんな風にできないからな」
「え、矢来も自分で弁当を?」
「ああ、体づくりのために、たんぱく質と炭水化物とか考えて自分で作ることにしたんだ」
栄養学のことを学びつつ、弁当の内容を考えてるようだ。しかし、あれこれ作るのは時間かかるし面倒で、つい冷凍食品から選択する形になり、手作りとは言い難く、栄養バランス的にもどうなんだ、となってるらしい。おむすびの具材も出来合いのものを詰めてるだけなんだとか。
「それも手作りのうちだと思うけど」
「いやあ、理想は羽成みたいなのを作りたいんだ。こういうキレイな、整った卵焼きとかをさ。でも火加減とか難しいし、形がこう、ふっくらしない。味も全然違う」
「俺も日によって火加減失敗するさ」
「そうか?それすら美味いんじゃないか?」
「食べられなくはないだろうけど」
「あとさ、肉巻きを作る時さ」
矢来と何を話したら良いか迷うことなく、自然と料理談議で会話が続いた。矢来はテニスに適した肉体作りのため、栄養を考え、手作り弁当にしたいが、理想の栄養バランスと見た目、それに手間のことも考えたりしているが、なかなかうまくいってないようだ。確かにからあげは冷凍食品の味だが、これはこれで良い気もする。
脂身の少ないササミも使いたいとか、魚メニューを充実させたいなど、矢来の想いは熱かった。それを受け止められるほど俺が料理上手ではないのだが、ああしたら、こうしたら、と話すうち、会話は自然と続くのだ。
矢来の努力家で、勉強熱心なところは長所である。そうして常に学び、吸収しようという姿勢が、こうしてさりげない居心地の良さにまでつながるのだ。
矢来との昼食会はとても楽しかった。もっともっと話していたい気持ちがあふれるが、あっという間に昼休みが過ぎてしまった。
別れ際、幸せいっぱいを伝えるべく山ほど感謝しといた。放課後、神社にも御礼参りしたのはいうまでもない。




