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私は今、窮屈な着物を着て大きな日本家屋にいる。
20畳以上もありそうな部屋の上座に1~3歳までの子供たちと座っている。
「よな、手」
相変わらず甘えたな弟君だな。
「ん」
私に擦り寄り手を握ろうとするあさひの手を掴み握る。
むふー!ふん!ふん!
あさひは満足そうだ。嬉しそうな感情が繋いだ手から伝わってくる。あれから色々試し、あさひとは目を合わせるだけでなく身体的接触からも感じていることが伝わることがわかった。また、強い感情は離れていても何となく伝わる。この詳細は時間がある時にでも話すとしよう。
父は古くから続く血筋の一族らしい。そして、父は本家?から呼び出され私たち双子の顔合わせをするように命令されたらしい。というか古くから行われている風習らしいのだ。3年に1度新しく生まれた子供たちは本家に顔を出し顔合わせもといお披露目会を行うのだと。そこで渦の目の確認と数の把握を行うらしい。
渦の目はとは何なのか。それは私とあさひが持っているぐるぐるお目目のことらしい。渦の目を持つ子供とは厄介らしくお披露目会の次の日から1週間かけてお勉強会が開催された。父よ、それは聞いてないって。
とても広い畳間の上座、と言うよりは壇上に私を含めて15名の3歳から1歳までの子供たちが座っている。
おお、こう見ると個性豊かだな。渦の目を持っている子は分かりやすい。渦の目の者は私達含めて9名。なるほど、渦の目は早熟の子が多いのか。比較的落ち着いている、と言うより大人びている子が多いな。目の中の渦模様がグルグル回っていたり光っていたりと実に綺麗だ。なによりも異様な雰囲気だなぁ。
渦の目とそうでない子供たちとで空気感が全く違う。どちらも互いに違う存在だと分かるのか何となく壁がある感じだ。
おや、渦の目は同士が何かしているな。目を合わせて首を傾けたり頷いたりしている
私はその子たちに話しかけた
「ねえ、何してるの?」
すると青色の渦の目を持つ男の子が私に視線を合わせてきた。何も言わずにじっと見つめてくる。1度首を傾けたかと思うと圧のようなものが頭の中に送られてくる。
⋯?⋯⋯っ!
ぐわん と視界が揺れる。私は咄嗟に視線を外し両手で目を抑える。視界が揺れて立てなくなり思わず蹲ってしまう
「よなっ!だいじょぶ?…よぉな?よなぁ?」
返事をしない私を揺さぶりながら片割れが声をかける。すまない弟。そんなに揺らさないでくれ。吐きそう。…おえ。
あさひは私が攻撃されたと思ったのだろう。私の目の前にいる青目の渦の目に体当たりをして壇上から共に転がり落ちた。
周囲が騒がしくなる気配がする。ちらと抑えた指の隙間からはあさひと青の渦の目の子供が取っ組み合いの喧嘩をしていた。まじか、喧嘩っぱやすぎやしませんかね。あさひさん。
うずくまり呆然とする私に別の渦の目の少女が近寄り心配してくれる。私より背が高いから3歳くらいだろうか。
「大丈夫?考え合わせるのはじめて?」
…それは、先程少年から送られてきた波のようなものだろうか。
「わかんない。やったことない」
たどたどしく答える私に少女はやり方教えてくれる
「わたしたち、うずのめ、持ってるから。できるよ。めを合わせてはじめまして、っていうの。いいよって言ったら考えてること送るんだよ。私とめぇ、あわせて」
「へー。」
何をいいたいのか何となくしかわからなかった。つまり、渦の目同士は目線を合わせることで思考共有できると。どこからどこまで?言い方的に共有は送信受信共に任意で行えると。なら、なぜ私はできなかった。この少女が言うように許可をださなかったからか。あの時少年は首を傾けていた。その時にはじめましてなり、許可なりを私に出していたのだろう。それに私が何も答えないから思考をそのまま飛ばしてきたのか。
少女が私の両手を掴み目から外していく。どうやら、また思考の共有とやらを実践してくれるようだ。それはありがたい。だが、無理やりは良くないぞ少女よ。私はまだ全力で吐きそうだ。
私の様子を見ていたのだろうあさひは大人に体を持ち上げられながらも全力で暴れている。
「はなせ!よな!よなぁ!!…ばか!はなしてぇ!」
何とも奇っ怪な動きで体を仰け反らして暴れている。凄い、子供って落ちる心配もなくよく暴れられるな。
私は顔をあげる。少女の顔が渦の目が私の目の前にある。
「はじめまして。あいさつ、送ってもいい?」
少女は私と目線を合わせてゆっくりと話した。言葉と共に合わせた目線からも少女の意思が伝わってくる。
視界の端からはあさひがみえる。
あ、大人があさひを落とした。おおう、全速力で走ってきている。まあ、あと少しだ。20畳以上もありそうな畳間だ。部屋から追い出されそうなあさひがここに来るまでにはまだ時間はある。
私は少女の目をしっかりと見つめ返し返事をする
「…いいよ「だめ!!!」
許可を出した私の頭には視線を通して少女の名前が伝わってくる。おお、これが思考を共有する感覚か。
ありがとう。よろしくね、すみれちゃん。
そう返事を返すと目の前の少女、すみれちゃんはにっこと笑った。
私は先程の少年の名前も聞こうとしたが、私の元にたどり着いたあさひに体当たりされる。ぐえっ、
「だめ!ダメって言った!だめだよ!よなだめだよ!」
あさひが目を合わせて感情を伝えてくる。んー、とっても怒ってるがなぜかはわからない。なんとかあさひを宥めようとするも聞く耳持たずぷりぷりと怒り囀っている。煩い天使ちゃんだ。
「あさひ煩い」
私は顔を顰め目線を合わせるとしっかりと鬱陶しいという感情を目に乗せてあさひに送る。あさひは目に大粒の涙を浮かべ今にも泣き出しそうだ。仕方がないので私はあさひを抱きしめる。
なるほど、あさひとすみれちゃんでは随分と感覚が違うな。例えるなら右手と左手でフォークを使うようなものだ。フォーク自体は左右どちらでも簡単に使えるが利き手の方がスムーズである、といったかんじか。慣れないから練習は必要そうだがもう苦戦することはないだろう。