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いたい、いたい、痛い痛い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い熱い痛い熱い痛い痛い痛い!!!


「ぎゃぁぁぁ!!!!ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!」


私は目を覚ました。手足は思うように動かなくて、息が苦しくて、死への恐怖に対して泣き叫んだ。


誰かが私を抱き上げ、優しい声をかける。

「はぁ、はぁ。初めまして、愛しい子たち。会いたかったわ。」


何も見えないが、抱き上げられている私の隣にもうひとつ泣いている何かがいる。


私は混乱していた。優しい声ももうひとつの存在も全てが恐ろしかった。痛みと恐怖で混乱していた頭は何も考えられない。

痛い痛い痛い痛い痛い。なんで痛いの?怖い怖い怖い怖い。何があったのかわからない。私は仕事の帰り道、信号無視した車に跳ねられたはずだ。

混乱し感情の制御がで気ない私は気絶するまで泣き叫んだ。


次に目を覚ますと、目の前に巨大な何かがいた。視界はボヤけてはっきりとしない。わからないから怖くてまた泣いた。


「あらあら、夜凪は泣き虫ねぇ。でも、泣き顔も可愛いわ。見て、あなた。夜凪につられて朝昊も泣いてる!可愛いわねぇ」


目の前の巨大な何かは何かを言うが言葉が理解できない。便宜上、巨人と呼ぼうか。そして、巨人は何事かを言いながら私を撫でた。恐ろしかったが避けることはできなかった。体が動かない私に構わず、巨人は私の頭や顔を撫でる。だが、撫でる手つきがあまりにも優しかったから驚いて泣き止んでしまった。

すると、隣から泣き声が聞こえた。己の泣いている声が煩くて隣の声まで聞こえていなかったようだ。隣から聞こえてくるあまりに必死な泣き声に私は冷静になった。自分よりも慌ててる人を見ると冷静になるってやつなのかもしれない。


そこで私は気づいたのだ。何かがおかしい。いや、全てがおかしいのだと。幸い巨人は私に痛いことも怖いこともしない。それどころか庇護してくれる存在だと気づいた。気づいたところで、私は考えることを辞めた。何も分からないこの状況は恐ろしかったが知りたくなかったのだ。なぜここにいるのか、何が起こったのか。薄々勘づいていた全ての事柄から目を逸らして時間があれば眠った。眠れば何も考えなくてすむのだから。


死にたくなかったが積極的に生きようとも思わなかった。食事も摂らずに眠ることを選んだ私は、眠ることで現実逃避と消極的な自殺をしていたのだろうか。

気づけばまた、巨人の声が聞こえた。今度は優しい声ではなく悲しそうな声だった。巨人の他にも声の低い巨人がいるようだ。声が複数聞こえる。


「夜凪、目を覚まして。ごめんなさい、ごめんなさい!私がダメだから起きないんだわ」


「お前のせいじゃないさ、誰も悪くない。夜凪は少し眠るのが大好きな子なんだ」


相変わらず何を言っているのか分からないが優しく撫でてくれた巨人の声は遠くから聞こえた。悲しそうな声をだしていた。

私と巨人達はなんの関係もないはずだが、何となく悲しんで欲しくないと思った。この巨人を悲しませないように少しだけ、行動してみようと思った。


どうすればこの巨人が喜んでくれるのだろうか、私にはまともに目も耳も使えず話すことすらできない。今の私には泣くことしかできない。


…なら、泣けばいいのだ。

「おぎゃあああ!!!わぁぁぁああああん!!!」

何もできないことが行動を起こさない理由にはならない。私だったら泣かれたら鬱陶しく思うがこの巨人は喜んでくれるだろう。そういう人だと知っている。


ほら、巨人達の喜ぶ声が聞こえる。それからだろうか、私の意識が変わったのは。そろそろ、私も現実を見るべきなのかもしれないと思うようになった。


考えないようにしていたことに目を向けなければならない。


きっとこの巨人達は私の母親と父親なのだろう。いつも隣にいた存在は私の双子か兄妹か。

嫌々ながらに理解していたことを無理やり納得させる。本当に嫌だった。だけどいつまでも目を逸らすことはできなかった。だから、どんなに怖くても理不尽でこの世の全てを呪いたくなる事柄であっても己の中で咀嚼し消化し無理やりにでも納得したのだ。


―私は、転生した。転生してしまったのだ!


納得した瞬間、私は吐いた。この何とも気持ち悪くて痛ましい現実から耐えきれなくなって吐いてしまった。口から出るそれは白くて特有の匂いのするミルクだ。赤子の飲むミルクである。己の口からミルクが出てくることが嫌でまた、吐いた。今度は吐きながら泣いた。それはそれは盛大に、血反吐を吐くのではないかと言うほど泣いて吐いて胃の中を空っぽにした。

それに私の母親と父親は慌てていたようだが今の私には気遣う余裕はない。


「うわぁぁああああああああああ!!!!!

ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」


だって、私は転生したくなかった。死にたくなかった。

私を愛してくれる両親がいた。兄妹がいた。親友がいた。楽しい幼少期をすごし、人並みに苦労し挫折し努力した人生を送っていた。仕事はキツかったが楽しかった。まだ、やりたいことがあった。行きたい場所があった。会いたい人がいた。私の人生を私は全力で愛していたのだ。私は己の幸せを享受し自覚し守り愛していた。

…なのに死んでしまった。これからもまだ続いていくと思っていたのに。たった一つの理不尽で、たった一人の人間のせいで命を落とした。嗚呼、恨めしい。許せない。絶対に殺してやる。だが、そう思うも何もできない無力な自分が許せなかった。この感情はきっと私が死ぬまで残り続けるのだろう。


死の次に私が考えたことは転生したことだ。なぜ、転生してしまったのか。転生させるなら記憶を消して欲しかった。前世で人生に満足し、人生を愛していた私を転生させるなんて酷いと思わないのか。私はきっと耐えられない。

この人生に私の愛した人は誰もいない。私の軌跡はどこにもないのだから。そんなのあんまりではないか。なぜこのような最低最悪な理不尽が私に降りかかるのだろうか。神というやつがいたら絶対に殺してやる。刺殺してその死体を蝿の餌にでもしてやる。 考えが一段落し疲れた私はまた眠りに落ちた。


あれから半年がすぎた。起きている間は全力で言葉を覚えて寝て食べてを繰り返した。気が向けば隣にいるやつの相手もしてやった。そいつは私の双子の弟らしくよく私の隣で過ごしていた。

一般的な赤子の成長速度はわからないがこれを指標に生きていけば間違いはないだろう。


半年たって知ったことはこの世界の言葉と私たちの名前だ。私の名前は夜凪(よな)と言うらしい。そして弟の名前が朝昊(あさひ)だ。なんとまぁ珍しい名前だ。私のいた世界ではこんな名前はいなかった。

あさひは赤子特有の人見知りが始まったのか私の傍を離れず、もし離れれば大声で泣くようになった。それが煩くてしょうがない。これだから赤子は嫌いなのだ。

私?私はそんなことでは泣かない。というかあれ以降泣いたことなどない。赤子は泣くのが仕事だが大人としての記憶が残っている私には泣くことへのハードルが高すぎる!

そもそも、あの時は必死だったから泣けたが冷静になった今では泣き方なんてわからない。

まあ、私が泣かなくてもあさひが丁度いいタイミングで泣いてくれるので困ることもない。


それから、私はあさひを指標にしながら成長速度を合わせて過ごした。


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