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はずかしがり屋の魔女と転移男子の異世界なんとか生活

作者: K

とある国の冒険者ギルドにて依頼掲示板の前で依頼を吟味している二組がいた

一人は軽装で17歳ほどの細身の青年、もう片方は顔から足首まで真っ黒のローブで隠した小柄な影があった。

杖を手に持っていることから魔法使いなのは分かるが顔は鼻の上まで覆われているため性別さえわからない


「うーん、この依頼は?」

「し、死んじゃうぅ」

「死んじゃうかー」

横切った冒険者が二度見するほど物騒な会話だが、当人たちはいたって真剣だった。


青年は間宮潤、実はとある事情で異世界から無理矢理召喚された被害者である。

彼は召喚主の都を抜け出し、今は隣に立つ相棒──魔法使いノトフェーラと旅をしている。

その“死ぬ宣言”をしている張本人が、ほかならぬノトフェーラ基ノアだ。


彼女はとにかく目立つことや人前に立つのが苦手、初対面でも話すのが苦手な超絶恥ずかしがり屋である。

そんな二人が何故コンビを組んでいるのかはまたの機会


「〈収穫祭の屋台警備〉。半日だけ人混みを見守るだけだってさ」

「し、死んでしまいますぅ」

「なら〈吟遊詩人大会の観客アルバイト〉。座って拍手するだけ」

「ひぃぃ、視線が……刺さって……死ぬ」

潤は苦笑しつつ、最後の依頼書を掲げた。

「残りは〈王都騎士団と合同・魔物掃討作戦〉。人数は二百……」

ノアは言葉すら発せず、ゆっくり膝から崩れ落ち、指で床に “死” と書いた。


「でもノア、依頼受けないとご飯買えないよ」

この街に来て日は浅いがそろそろ旅の路銀が尽き掛けているので潤も心を鬼にしてノアを説得する。

ノアもそれが分かっているのかローブの中から微かにうめき声をあげて葛藤していた。

彼女が超絶恥ずかしがり屋なのは分かっているのでノアの葛藤に潤は苦笑いをし掲示板に視線を戻すも、ふと一つの依頼が目についた。


「『火山洞窟のマグマトード討伐』……って、これ火属性だよね?」

「……はい。マグマトードは溶岩池に半身を沈める巨蛙でして、この魔物は装甲板の隙間と内部器官の周囲を高温粘性マグマが循環してて」

「・・えっと?」

「つまりは液体クッションが物理攻撃を吸収してほとんど通らない魔物なんです」

ノアのざっくりした説明に関心したように相槌を打つも、その下に小さく、こう記されていた。

「‥現在同行可能な火属性対策魔法使いを募集中」

しかも報酬も中々いい。

潤はチラッと足元でうずくまっているノアへ視線を向け依頼書を見せた。

「行ってみる? 報酬いいし」

「ま、魔法は使えますが……その、知らない人と一緒には、ちょっと……」


その時だった。背後から爆発音のような声が飛んできた

「おっ!? そこのフードっ子! 君、魔法使いか!?」

突然の爆音にノアの肩がビクンと跳ねた。

恐る恐る振り向いた先には、全身筋肉の戦士集団。

装備のごつさも声量も桁違いだ。


「君、火属性対策できる系!?」

「やったな!リーダー!これであの魔物に一発ぶち込ませるぜ!」

矢継ぎに話しかけてくる筋肉集団にノアは人見知り発動しているのかガタガタと震えている。その前に、リーダーらしき坊主頭の男が満面の笑みで手を差し出した。


「俺たちは《爆砕の筋魂バーストソウル》!魔法?一生使えんな!よければ俺たちの依頼受けてくれないか!!」

「……し、死にます……」

「えっ!?」

フードの奥から聞こえたか細く悲鳴満ちた声に、潤が慌ててノアと筋肉男の合間に滑り込んだ。

「ちょっ、やめてください、彼女ほんとに瀕死です今!」

「「「え!?」」」


それでも話を聞けば、彼らは「魔法が通じない敵への対策ができず困っている」らしい。

加えて、魔法使いと組んだ経験も皆無で、接し方も分からないのだという。

彼女が超絶恥ずかしがり屋だと聞いてすぐにリーダー以外が側を離れることから彼らの優しさが垣間見える。

報酬と、何より“協力しようとしてくれている”真っ直ぐな姿勢に、ノアは恐怖を押し殺しながら、小さくうなずいた。


「……い、一回だけ、です……」


火山洞窟への道中、ノアの精神は常に風前の灯だった。


「ノアちゃん、これ持ってみ? 俺らの筋トレ用ハンマー!」

「む、無理です……腕が、もげます……」

「へぇ~、じゃあ魔法一本で飯食ってんだ? 筋肉ゼロでもやってけるのね」

「…ひ、人間じゃ、ないんでしょうか……私…」

「よし! 次の敵はチビ助の出番だな! 遠慮すんなよ!」

「ち、チビ助!?あ、あの、えっと……前に出るのは、その……し、死んじゃう」

上から順にリーダーのグロム、レニアとバルガン。

脳筋たちの全力のフレンドリーさは、ノアにとって凶器だった。

声は大きい。距離は近い。反応が濃い。まるで巨大クマに絡まれる極小ウサギ。

唯一の救いは、潤が通訳のように間に入り続けてくれたことだった。


「声もうちょい小さくしような」「目を合わせるのは2秒以内ね」「近づくと死にます」

そんな彼の努力で、なんとか彼女は逃げ出さずに済んでいた。


噴気孔が散在する火山外輪のふち。赤錆色の岩盤を砕きながら〈脳筋パーティー〉は登っていた。

不意に潤は熱風に乱れる前髪を払い、ノアを背へ庇うように下がった。

乾いた唸り声――

地面の亀裂から 体長一メートルほどのイグナイトインプが3体、炎の尻尾を揺らして飛び出す。

溶岩棲みの下級魔族――本命〈マグマトード〉の斥候だ。

イグナイトインプは蹄の二足、上半身はサルめいた魔族だ。

奴らは機敏だが打たれ弱い。知能は人間幼児並み。

脳筋たちが大剣を振りかぶるより早く、潤が一歩前へ滑り出た。


インプが口から放つ火線を、潤はノアを抱えるようにして転がり回避する。

着地と同時にノアを背後へ滑らせ、二刀を逆手に引き抜いた。左手の短剣でインプの火球を叩き落とし、爆ぜた火花を利用して視界を眩惑する。その間に右脚で岩壁を蹴り、反射的に生まれる“影”に身を滑り込ませた。

炎源が強い火口では影が薄い。

――それでもわずかな陰を利用する潤の瞬歩。

炎を纏う翼が揺らいだ隙に、インプの背後へ踏み出す。――コッ……! 石を踏む乾いた音とともにクロス斬撃に放てば魔核を寸断された一体が轟火を散らして崩れ落ちた。

残る2体が連携で火柱を上げる。

潤は腰元から熱耐性符を巻いた小型ナイフを抜き、煽る熱流に乗せて放つ。

空中で符が燃え尽き、炸裂し爆鳴とともに敵の炎が逆流して自滅させた。

戦闘の時間はわずか十数秒で終了した。

岩の裂け目に潜んでいた第三のインプが逃げようとするが、巨躯グロムが踏み潰すようにハンマーを振り下ろし、熔けた岩と共に粉砕した。


「ははっ! 前菜にもなりゃしねえ!」

渦巻く硫黄臭の中、脳筋リーダーは爽快に笑う。

潤は肩で息を整えつつノアを振り返る。


「結界――張る暇なくてごめん」

ノアはフードの奥で目を丸くし、小さく頷きながら親指を立てた。


火口の向こう、揺らめく陽炎の中に溶岩沼が覗く。

巨躯の影――本命 〈マグマトード〉 がゆっくり頭をもたげるのに、まだ誰も気づいていなかった。


それは突然現れた。

溶岩池の水面が“ぐつり”と盛り上がり、巨大な影が赤熱のしぶきを散らして姿を現した。

マグマトード。

黒曜殻を纏った体長三メートル半の溶岩蛙が、背中の噴火孔から青白い火柱を吹き上げる。

「ご来店だ!」

グロムがハンマーを肩で回し、バルガンとレニアが左右に展開した。


バルガンの大剣が殻で滑り、レニアの包丁剣がマグマに触れ刃先を赤く染める。

「硬っ!」 

「溶けるってば!」

グロムのハンマーが噴火孔を狙うが、直前で灼熱舌が弾き、岩壁を割る音が響くだけ。

マグマトードがジェットで跳躍し、着地の衝撃波で三人の膝が折れ、砕けた岩盤が溶岩へ崩れ落ちる。

ジュワッ、と湧き上がった蒸気が視界を真白に奪った。

「温度差殺しだ!装備がもたねぇ!」

蒸気が視界を奪いグロムはレニアとバルガンに向かって叫んだ。


後衛で見守っていた潤が咄嗟に一歩を踏み出す矢先、視界の隅で黒いローブが動いた。

極低温連鎖符(クリスタル・リンク)  発動」

ノアの足元に魔法陣が瞬時展開され術式光が溶岩面に走り、マグマトードの周囲に氷副柱が次々と突き立つ。

衝撃的な温度差で粘性マグマが急冷していく。


キィン――パァァン!

氷の鎖がマグマトードの殻のひびを一斉に締め上げ、内部で滞った噴気圧が逃げ場を失う。

そして背中から大量の白蒸気と黒曜片が噴き上がり、マグマトードは声もなく崩れ落ちた。

熱霧が晴れると同時にグロムたちの視界へ転がる、黒曜石の残骸。


「……終わってる?」

バルガンが砕けた剣先で突くが、崩れた甲羅はもうただの冷えたガラスだ。

後ろから近づく足音に振り返れば震えたまま杖を握りしめているノアがいた。

「だ、大丈夫……でした、か?」

砕けた黒曜殻の粉塵がなお宙を舞う洞窟で、バルガンとレニアは火傷と打撲で膝をついていた。

ノアはそっと近寄り、杖先から淡い蒼光を灯す。


癒息(ハルシア)……」

呟くたび、掌から零れる光粒が湯気をまとい傷口へ溶け込む。

その拍子にノアのフードが微かにはだけた。

チラリと覗く素顔。

白銀の柔髪が頬にかかり、雫色の瞳が薄く揺れる。

顔立ちは端正で儚いが、頬はこけ気味、鎖骨は細く浮き“子供とも老婆ともつかぬ”と嘲られた痕が残る小柄な輪郭が映り、バルガンが思わず息を呑んだ。

「……っ、」

レニアが肘で突き、小声で囁く。

「見るな、緊張させる」

巨躯二人は視線をそらし、黙って癒やしの光を受けた。

顔を見られているとは知らず、治療が終えれば一瞬バルガンたちを確かめ、恥ずかしさに震えるまえに、ぐい、と深く影へ隠れた。


蒸気が晴れ、岩盤には静けさだけが残った。

グロムはハンマーを地に突き、ぶっきらぼうに頭を下げる。

「助かった。──俺たち、ノアのことを甘く見すぎてた」

レニアも大包丁剣を背に回し、真摯な声を添えた。

「魔法一本で生きてる、なんて軽口だったね。実際は、その身体で皆を助けてくれた。悪かったよ」

ふたりの視線が集まった瞬間、ノアはフードの影で身を縮める。


口が開きかけて、声が空回り──掠れた息だけが漏れる。

どうしようという焦りが伝わったのか、潤がトンと肩を叩いた。


「ノア、俺が言うね」

彼は軽く咳払いし、仲間たちに向き直った。

「ノアは、人前で言葉を出すのが苦手なんだ。でも気持ちは――俺が保証する。いま凄く感謝してるし、同時に“自分だけ楽をして皆に頼りきりだった”って思ってるみたいなんだ」

潤は背後へ手を伸ばし、ノアの肩をそっと押した。


「だから……代わりにこれ、もらっといてくれる?」

ノアは小瓶を差し出す。

瑠璃色の液体が揺れ、中で冷気を帯びた霧を吐いている。

不思議そうに小瓶を見つめる三人に潤は笑顔でその小瓶の説明を始めた。

「〈霜花の冷却薬〉。ノアの即席錬金だけど、装備の熱傷を冷やせるはず。グロムのハンマー、レネの刃、バルの甲冑……溶けかけてる所に塗れば応急になるよ」


グロムは目を丸くし、受け取った瓶を巨大な指先でそっと挟む。

「……言葉より効く礼だ。ありがとな、ノア。潤も通訳助かった」

その横でバルガンは己の大剣を点検しながら、もじもじと視線だけノアへ泳がせていた。

レニアが肘で小突く。

「何こそこそしてんのさ、言うことあるだろ?」

「う、うるせぇ!」と吠える赤銅の巨体だが耳まで真っ赤になっている。

バルガンはゴリゴリと喉を鳴らし、ノアの前に屈んだ。

「……あー、その、チビ――じゃなかった、ノア。さっきはまじでカッコよかった。えっと……これやる!」

差し出したのは掌サイズ火山石のお守り。

「熱傷しねぇ石だ。小さいけど重い、握るとトレーニングにもなる!」

言ったそばから筋肉推しだが、眼差しは真剣だった。

ノアは目を瞬かせ、おそるおそる受け取る。

「……お、重い……けど、あったかい……」

震える声でそう呟くと、バルガンは途端に破顔して親指をぐっ。

「よし! 今度その石で握力を鍛えて――」

レニアが慌てて口を塞ぎつつ、笑いながらノアの頭頂を乱暴でない程度にぽんと撫でた。

「苦手なことは任せりゃいい。うちらの声はデカい分、謝罪もデカいんでね」


ノアは一瞬びくっとしたが、撫でる手がすぐ離れると小さく頷いた。

潤が肩を軽く叩く。「ゆっくりでいい。いつか自分の声で『どういたしまして』って言えたら、それで十分」


洞窟奥から再びマグマの泡が弾ける音がした。

隊長グロムが立ち上がり、表情を引き締める。


「礼とお説教は帰ってからだ。次の脅威を片づけようぜ、仲間!」

蒼いフードが小さく揺れて──ノアの足取りも、さっきよりわずかに前へ出ていた。



翌日──。

ギルドの受領室の片隅で、ノアと潤は並んで腰掛け、報酬袋とドロップ素材を仕分けしていた。

ノアが帳簿に印をつけながら、そっと漏らす。

「……あの人たち、悪い人じゃないんですけど……音量が……存在感が……」

言わんとすることを察した潤は、吹き出しそうな笑顔でうなずいた。

「分かる。でもさ、最後――ちょっとだけ嬉しそうだったよね?」


ノアは朱を帯びた頬を隠すようにフードをつまむ。

 「……う……少しだけ、です。ほんの……少しだけ……」

潤は袋紐を締め、軽く振ってチャリンと音を鳴らす。

「じゃあ、次も行ってみようか」

「……し、しばらくは……いいです……」

けれど横顔には、確かに消えない笑みが灯っていた。


……が、後日グロムたちが“友だち全開”で絡んできたせいで、ノアは大勢の視線を一身に浴び──「ヒュッ‼︎」と瀕死の気絶寸前まで青ざめ、そっとフェードアウトする運命を、まだ知る由もなかった。

***

最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

少しでも本作品を面白い、また瀕死なノアをみたいと思って頂ければ評価いいねしていただけますとやる気に満ちます!

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