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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
99/103

第86話 「練習のつもりが世界滅亡!?」

本日もよろしくお願いします。


デジモンクリアしました!!

 翌朝。

 私たちは、学園都市から少し離れた小高い草原にいた。


 宿の人には「ピクニックです!」って元気よく言って出てきたけど、目的はぜんっぜん可愛くない。


「ここなら誰も来ないし、ぶっ放しても大丈夫だよね……」


 見渡す限り、広がる緑の大地。小鳥のさえずりだけが聞こえる、のどかな風景。

 だけど――空気の底に、ほんの少し緊張感が混ざっている。


 でかモフユイカがエニを背中に乗せて、ぱたぱたしっぽを揺らしながら草原を駆け回ってるのがやたら平和っぽいけど、今日のテーマはかなり真面目。


 人に魔法を撃つ練習。


 ふたりが私に魔法を放つ。私はそれを受け止める。

 魔物を一撃で消し炭にできるこの子たちが、ちゃんと手加減できるか、暴走しないか。

 私がそれを防げるか。そして、特にユイカが、人間に向かって、魔法を打てるのか。


 見守り役のはずなのに、胃のあたりがきゅっとする。


「じゃあ、まずは軽いやつからお願い」

「……うん」


 エニが一歩前に出る。

 その表情はいつも通り。でも、ちょっと緊張してるように見える。

 彼女は手を前に出し、すぅっと息を吸う。


「……おいで」


 ぱちっ。

 指先から火花が弾け、ひよこサイズの雷の小鳥が、ふよふよと空に生まれた。


「わ……かわいい……」


 翼からびりびりと音を立てながら、ふわふわ飛ぶその子は、まるで電気じかけの精霊。

 これなら大丈夫。安心して受け止められる。


「んじゃ、いくよっ!」


 ぴぃぃっと鳴いて、小鳥は私めがけて一直線。


「防げっ!」


 両手を突き出すと、淡い光の膜がぱんっと広がり、小鳥がふわっとぶつかって──


 ぱちっ。


 光の粒になって弾けた。


「……わぁ……」


 エニがぱあっと笑った。

 ふふ。完璧。うろゴリとの戦闘で叫びまくりだった私も、ちょっとは成長してるのかも。


「ユイカ、次いこうか」

「はーいっ!」


 元気な返事とともに、いつの間にか人型になったユイカが、エニの隣に立っていた。

 おそろいの防寒着。胸を張って、えっへんポーズ。


「じゃあ、エニと同じくらいで、軽めのをお願いね?」

「わかりましたっ!」


 ユイカは手を合わせ、目を閉じた。


 ……ぴしっ。


 空気が揺れた。熱い。

 何かが、周囲の“気配”ごと変わった。


「ユ、ユイカ? ちょっと強くない?」


 聞こえない。集中してる。

 でも、風がざわつき始めてる。鳥が、鳴き止んだ。


 そのとき――


 ぼんっ!!!!


 耳をつんざく音と共に、空に“何か”が出現した。

 巨大な火の玉。それは、燃える惑星のようにゆっくり回転しながら、空中に浮かんでいた。


「――――――ええええええええええええ!?!?」


 冗談抜きで、家一軒分くらいの大きさ。

 しかも、どんどん膨張している。

 空気が焦げる。草が焼ける。肌がひりひりする。


 そして――


「とまんないですこれえええ!」


 ユイカ、顔真っ青で手をばたばた。

 本人もパニックになってる!


「ユイカぁぁぁぁぁ!?!? なんで太陽作ってんのぉぉぉ!?!?」


 私の絶叫もむなしく、火の玉はゆっくりと方向転換。熱波が肌を焼く。

 

「やばいやばいやばいやばい!!!」


 ごぉぉぉおおおっっっ!

 音を立てて、火の玉が突進してくる。


「うそ、私死ぬ!? 消し炭!? この距離無理! とまって! ちょ、もう無理――!」


 叫ぶしかない。手を突き出して、私は思わず――


「消えろぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!」


 その瞬間。


 地面から、眩しい白光が駆け上がった。

 火の玉が、光に包まれ――


 すん。


 完全に、なにもなかったみたいに、消えた。


 風が戻る。音が戻る。


「…………いまの……何?」


 私は呆然と手のひらを見つめる。

 あの火球を、言葉1つで消した。


「とーこ、すごい……!」

 

 エニが走ってくる。目を丸くして。

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

 ユイカがぺこぺこ頭を下げながら、しっぽをしゅんと垂らしてる。

 私は、吹き出してしまった。


「大丈夫だよ、ユイカ。ちょっとびっくりしただけ。でも、今ので私、自分の魔法の可能性に気づけたかも」


 言霊魔法は私が思ってる以上に自由で、何でもありなのかもしれない。

 私はユイカのところへ歩み寄って、ふわっと頭をなでた。


「ユイカ、ありがと。びっくりはしたけど……すごい魔法だったよ」

「……でも、失敗しちゃいました~」

 

 声が小さい。耳がへにょんと垂れてる。しっぽもしゅん……。


 ――ああ、もう、可愛い。

 この子、自分の魔法に本気で責任感じてる。まだ子どもなのに。


 私は、そっとその小さな肩を抱きしめた。


「誰だって最初から上手にできるわけじゃないよ。ユイカの魔法がすごいってことは、もうよーく分かったから。あとは一緒に練習していこう?」


「……は、い……」


 私はぐっと背筋を伸ばして、両手を広げる。


「じゃあ、改めて――特訓再開しよっか!」


 私は胸を張って、受け止める準備をした。

 さあ、かかってこい。ふたりとも。

 

 読んでくださりありがとうございます。

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