表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
98/98

第85話 「眠れない夜もあるよね」

本日もよろしくお願いします。


 雪合戦の余韻が、まだ身体に残っている。


 今日はずっと遊んでた。久々にこんなに、全力で笑った気がする。

 湯気の立つご飯を食べて、お風呂に入って――今はもう、静かな部屋の中。


 私は天井を見上げながら、仰向けになってぼんやりと息をついた。

 となりではエニがぐっすりと眠っていて、ユイカが私のお腹の上に伏せている。


 ちょこん、と手を揃えて、あったかい体温でくっついてる。

 口の端がゆるんでて、なんだかご機嫌そう。ぺろんと舌がのぞいてるのがまた可愛い。


 しあわせだなあ。

 ……そう思った、ほんの少し後。


 胸の奥に、小さなひっかかりのようなものが、ぽつんと浮かぶ。


 エニとユイカ。

 今までの旅路で、何度もふたりの魔法の威力を見てきた。


 エニの魔法は、一瞬で地面に火花を走らせて魔物を倒す。ユイカは、幻影で相手を惑わせて、その隙に大火力で焼き払う。


 言葉にするとさらっとしてるけど――あの威力。あの速度。あの範囲。


 魔物が相手なら、それでいい。むしろ、それで助かったことも多かった。


 でも……。


「――大会って、人間が相手なんだよね」


 ぽつり、と言葉が漏れた。


 安全対策は万全。審判もいる。

 それでも――私は、ふと考えてしまう。


 ふたりは、“人間に向かって”、魔法を撃てるのかな?


 昼間の雪合戦を思い出す。

 魔法は使ってなかったけど、ふたりとも最初の一投目、ちょっとだけ躊躇してたような気がする。

 雪玉だって、「人に向かって何かをぶつける」って行為には違いないのに。


 あれは無意識に、ためらったのかも。


 誰かを傷つけることを、怖がってるのかも。

 そんなふたりが、明後日、全力の魔法を「人」に向けて撃てるの?


 そして、私たちの特訓って、これまでずっと魔物相手だった。大会では、人間がターゲットになる。


 そのギャップに、私だけじゃなく、ふたりも戸惑ってるんじゃないかな……。わかんないけど。

 それに、万が一ふたりが本気で撃っちゃったら――本気で戦ってるところを見たい半面、やっぱりちょっと怖い。


「……明日、試してみよっか」


 私の声に、ユイカが耳をぴくりと動かした。目は閉じたまま、ふにゃあと舌を出す。舌をちょいちょいと引っ張ったら、あくびのついでに軽く噛まれた。ごめんって。


「ねえユイカ、明日さ、私に魔法打ってくれる?」

「きゅん?」


 ユイカはお腹の上で顔を上げた。きょとん、とした目。ヘラっとした顔。


「いや、あのね、力加減の練習っていうか、私が受け止める練習というか……。ふたりとも、いきなり本番じゃ気が重いでしょ? 私が相手になるから、明日やってみよ」


 きゅん! とユイカが鳴いた。しっぽをぱたぱたと振ってる。


 これはたぶん──よく分かってないけど嬉しい、のきゅん。


「……2人の言霊に耐えられるような防御の言霊、考えなきゃなぁ」


 私はもう一度天井を見上げて、唇を噛む。

 最近言霊は、お風呂上がりに髪を乾かす事にしか使ってなかったからなあ。


「『防げ』……? まあ、これは無難かな」

「『守って』……ちょっと弱そう?」

「エニの魔法は電気だし『私はゴム!』……とか?」


「……それじゃあ、無理だよ」


 隣から、ぼそりと突っ込みが入った。


「えっ!?」


 思わず私は、隣を見る。

 すぅ、すぅ。寝息。エニ、熟睡。


「えっ、寝てるよね……? 今、喋ったよね……?」


 まさかの寝言突っ込みだった。変な汗かいた。

 すると、私のお腹の上にいたユイカがむくっと起きて、エニの方にちょこちょこ歩いていった。


「きゅん……?」


 近くでぺたんと座り込み、耳を寄せてじーっと観察する。エニの顔を、真剣なまなざしで見つめている。なにこれめっちゃ可愛い。


 そして。


「きゅ?」


 ふいに、ユイカが私の方を見る。


 寝てる……よね? って顔。


 私はちょっと笑って、毛布をめくってやると、ユイカはくるんと丸まって、するりと潜り込んだ。

 しっぽだけがぴょこっと出ていて、くすぐったい。


「可愛すぎか……」


 私は目を閉じる。


 明日は、ちゃんと受け止める。

 ふたりの不安も、強さも、全部。


 だから明日の私――頑張れ。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ