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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第80話 「干し肉は持ってかなくていい!」

本日もよろしくお願いします。

 ギルドを出ると、夕暮れのオレンジが石畳に長い影を落としていた。

 あたりは人通りも増えて、通りには屋台の明かりがぽつぽつ灯りはじめている。そんな中で――。


「エニちゃーん!」


 弾むような声に振り返ると、制服姿の女の子たちのグループがこちらへ手を振っていた。

 先頭で駆けてくるのは、もちろんエマちゃん。後ろにはこの前もみた女子グループがついてきていた。


「また会えたね!」

「……うん」


 エニはぴくんと耳を動かして、ほんの少し嬉しそうに笑った。


「ねえ、今夜私の家でお泊まり会するんだ! エニちゃんも来ない?」

「……お泊まり……?」


 首をかしげるエニに、エマちゃんが勢いよく頷く。


「そう! 夜におしゃべりしたり、お菓子食べたりして、楽しく過ごすの!」

「……でも」


 ちら、とエニが私を見る。目は「行ってみたい気持ちもあるけど、どうしよう」と言っている。

 じゃあ、私がちょっと背中を押してあげなきゃね。


「……行ってきたら?」

「……え」

「せっかく誘ってもらったんだし。きっと楽しいと思うよ」


 言いながら、胸の奥がちょっとだけきゅっとなる。

 私がいなくても楽しめるようになってほしい、そう思ってるのに、やっぱり寂しい。

 エニは目を丸くして、それからふわっと笑った。


「……じゃあ、行く」

「うん。楽しんでおいで」


 そのとき、エマちゃんがふと思い出したようにユイカを見て、


「ユイカちゃんもどう?」


 と声をかけた。するとユイカはきょとんと一拍おいて――


「ユイカはとーこ様と一緒にいます!」


 胸を張って堂々と宣言。あまりの即答ぶりに、その場の全員が「ぷっ」と笑ってしまった。


「そ、そうだよね……ふふ、仲良しなんだね」

「はい!」


 ユイカが満面の笑みで頷き、ふわふわのしっぽをぶんぶん振る。


「じゃあ、エニちゃん。いろいろ準備しなきゃだよね?」

「……うん」

「宿に戻って用意してから行こうよ。私たちも一緒に行く!」


 夕暮れの街を、ぞろぞろとみんなで歩く。石畳の道に屋台の灯りが映えて、賑やかな笑い声があちこちから聞こえてくる。

 エマちゃんがエニに「お泊まり会って初めて?」って聞いてる。

 エニが「うん」って小さく答えると、「じゃあ、いっぱい楽しいこと教えてあげる!」って目を輝かせてる。こんな風に受け入れてもらえて、エニも嬉しそう。

 エマちゃんがエニの隣に並んで歩き、ひたすら何か話しかけている。私は少し後ろからそれを眺めて、なんとなく「良かったなぁ」と心の中で呟いた。


「そういえば、みんなは大会に出るの?」


 ふと気になって尋ねると、エマちゃんが「はいっ!」と元気に振り向いた。ユイカがびくってした。


「私とシオンで出るんです!」

「え、シオン?」

「はい、こっち!」


 呼ばれて一歩前に出たのは、エマちゃんの隣にいた背がすらっと高くて落ち着いた雰囲気の黒髪の子。エマの隣で静かに歩いている姿は、まるで長年の呼吸が染みついた相棒みたい。

 

「そういえば、前にエニちゃんとご飯行ったときに自己紹介するの忘れてた」

 

 シオンちゃんが照れくさそうに言うと、エマちゃんは「そうだった! じゃあ、改めて紹介します」とみんなを手で示した。


「この子がシオンで、私の幼なじみ。で、後ろの三人は――」

「リオナです!」

「……ミナです。よろしくお願いします」

「カレン!」


 三人が手を振る。リオナは小柄で元気、ミナは眼鏡を押し上げて大人しそう、カレンは快活なショートヘア。見ただけで、それぞれの個性がぱっと伝わってくる。


「私たちは出ないけど、エマとシオンの応援行きます!」

「リオナとミナとカレンは私たちの応援団です!」


 みんな元気いっぱい。学生ってこんなに元気なんだ。まぶしすぎる。


「じゃあ、大会でエニとユイカに会ったらよろしくね」

「エニちゃん達も出るんだ! じゃあ、エニちゃんとユイカちゃんも応援しよ!」


 カレンが元気いっぱいに言う。

 そんな和やかな空気の中で、不意にリオナが「あっ」と声を上げる。


「ねえねえ、エニちゃんとユイカちゃんって、お揃いでポニーテールにしてるの!?」

「えっ」


 エニが無意識に後ろ髪を触る。ユイカは自分の結んだしっぽのような髪を指でつんつんしてから――


「おそろいです!」


 と即答した。その場が一瞬で和んで、笑い声が広がった。


「かわいい〜!」

「仲良し姉妹みたい!」

「……私もポニーテールにしてみようかな」


 エニは少し照れくさそうに笑って、でも嫌そうではなくて、むしろ心なしか誇らしげに見えた。


 その後ろでは、エマちゃんとシオンちゃんがユイカを捕まえて大はしゃぎ。

 

「ぬいぐるみみたい」

「ひょえ〜〜」


 ユイカはされるがままシオンに抱き上げられ、きゃいきゃいと弄ばれている。

 

 そんな賑やかなやり取りをしているうちに、宿に着いた。

 広間に入ると、ちょうど夕食をとっている客たちのざわめきと、シチューの匂いが迎えてくれる。


「じゃあ、あたし準備してくる」

「ユイカも行きます!」


 元気いっぱいについていくユイカに、エマちゃんたちが「いってらっしゃい」と手を振る。


 その間、私は学生たちと広間の椅子に腰かけて待っていたのだけど――


「でねでね、とーこさん!」

「旅ってどんな感じ? 危なくないの?」

「今までどんなとこ行ってきたんですか?」


 途端に質問攻めにあった。目をきらきら輝かせながら詰め寄られると、どうしても笑ってしまう。

 わいわい盛り上がる中、誰かがぽつりと呟く。


「ねえねえ……とーこさんって、エニちゃん達のママ?」

「え!? ママ?」


 思わず首をかしげると、エマちゃんが身を乗り出してきた。


「だって、荷物も持ってるし、雰囲気がなんかママっぽい!」

「違う違う。旅の仲間だよ」

「エニちゃん達のご飯のお世話とかしてるんですよね? 料理とか上手そうだし!」

「え!? 料理!?」

「じゃあ、ママさんだね」


 シオンちゃんがそんなこと言うもんだから、周りが一斉に「ママさん!」「ママ!」と囃し立てる。

 料理したことないって、否定する暇もなかった。


 ひとしきり笑い合った後で、私はふと気になって尋ねてみる。


「ねえ、みんなは……獣人に対して偏見とか、ないの?」


 少し真剣に問うと、返ってきた答えはあっけらかんとしていた。


「え? 特にないよ」

「むしろ可愛いから好き!」

「……耳とか尻尾とか、羨ましいくらい」


 あまりに自然なその反応に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「そっか……ありがと。エニはね……ユイカもか、獣人ってだけで友達ができなかった子だからさ。これからも仲良くしてあげてね」


「もちろん!」

「任せて!」


 その力強い返事に、思わず目を細める。

 ちょうどその時、廊下からぱたぱたと駆けてくる足音が聞こえた。


「とーこ様ぁ!」


 ユイカが勢いよく飛び込んできて、はぁはぁ息を切らしながら報告する。


「エニ様が……何を持っていっていいかわかんないって言ってました! ユイカもわかんないです!」


 その必死さに、広間が一斉に笑いに包まれた。


「じゃあ、私と交代だね。ユイカはみんなと遊んでて」

「はい!」


 元気に返事をするユイカを置いて、私は階段を上がった。


 部屋に戻ると、エニはベッドにちょこんと座ってた。

 膝の上に服や小物をいくつも並べて、でも手は止まったまま。


「……何を持ってったらいいかわかんなくて」


 困ったように視線を落とすその姿が、どうしようもなく愛おしい。

 だから、私は隣に腰を下ろして、そっと背中から抱きしめた。


 耳が私の頬にふにっと当たって、心地よい。

 エニも少し肩の力を抜いて、小さく笑った。


「……とーこに充電された」

「わかってきたじゃん」


 しばらく抱き合って、ようやく準備を始める。

 必要な服と歯ブラシ。ガラケーも絶対。

 詰めていくうちに、エニの表情も少しずつ晴れていった。


 エニ、今、しれっと入れた干し肉はいらないからおいていきなさい。


 そうして支度を終え、広間へ。

 エマちゃんたちが「わー!」と拍手して迎えてくれる。


「じゃあ、エニちゃん、行こっか!」とエマちゃん。

「……うん」


 ちょっと緊張しながらも、しっかり返事するエニを見て、胸がじんとする。

 ユイカはその横で「たすけてくださーい!」と手をぶんぶん振っていた。


 シオンちゃんに抱きかかえられ、連れていかれそうになってた。

 私はエニの頭をぽんぽんと撫でて、囁く。


「楽しんできて。何かあったらすぐガラケーね。変な人に絡まれたら、魔法使ってもいいから、何が何でも逃げておいで」

「……あい」


 小さく頷いたエニが、仲間たちと一緒に夜の通りへ消えていく。

 その背中を見送りながら、私は自然と笑みを浮かべていた。


 しばらく見守ってると、解放されたユイカがパタパタと走ってきた。


「助かりました!」

「よし! 今度は私が捕まえた! お風呂行くよ!」

「ひょえ~」


 ユイカと二人だけの時間。この子も最近成長してるし、いろんな話ができるかもしれない。エニのことも心配だけどユイカとの時間も大切にしよう。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 こういうゲームがしたかったんだ! ってゲームが発売したので、更新頻度減ると思います。


 85話くらいまではストックあるのでちょこちょこ出していきます。何卒

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