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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第78話 「髪型遊び会、開催中!」

本日もよろしくお願いします。

 軽い仕事を終えた夜。

 宿の湯船に、ほわほわと湯気が立ちのぼる。

 

「はい、ユイカ終わり、桶に入ってて」

「きゅん!」

「エニ、おいで。洗ったげる」

「はーい」


 桶ですくったお湯を、そっと髪にかける。

 腰まで届く髪が、濡れてさらに重くなる感触。指の間を滑っていく柔らかい束が、湯気と一緒にきらきら光っていた。


「……あれ、なんかさ」

「なに?」

「エニの髪、前より伸びた気がする。腰……ちょっと過ぎてない?」

「……そうかな?」


 エニがくるりと首を振って、濡れた髪の先が私の腕にぺとっと当たる。

 確かに、前は腰の真ん中くらいだったのが、今はその下まで滑り落ちている。


「切る?」

「……どうしよっかなー」

 

 エニは少しだけ視線を伏せ、頭を左右にゆらゆら動かしている。


 私は、ふと髪を手に取って、指先で梳く。

 しっとりとした重み。柔らかな光沢。湯気に包まれて、月明かりみたいに淡く揺れる銀色。


「……私は、長いままのほうが好きだな~」

「……っ」


 エニの耳がぴくんと動いた。

 そのまま、ちょっとだけ肩をすくめて、声を潜める。


「……そ、そう?」

「うん。エニの髪、すごくきれいだし。洗ってる時も、乾かす時も……なんか、特別って感じする」

「……じゃあ、このままにしよっかな」


 その言葉のあと、エニはそっと振り返って、小さく笑った。

 ほんのり赤くなった頬に、湯気がふわっとかかる。


「決まりだね。じゃあ、もっと大事に洗わなきゃ」

「ん……お願い」


 私はそのまま指を髪に通しながら、心の中で思った。

 この銀色を、ずっと私だけが知ってる距離で見ていたい。


 エニの髪を見つめていたら、突然、隣でぱしゃん! と水が跳ねた。

 ユイカだ。ちっちゃい前足で必死にお湯をかき混ぜて、こっちにまで水しぶきを飛ばしてきた。


「ちょ、ユイカ!」

「きゅきゅん!」


 どうやら楽しそうに泳いでいるらしい。少し大きめの桶の中をくるくる回ってる。

 私とエニは目を見合わせて吹き出した。

 湯気の中、私とエニの笑い声が重なっていく。

 

 お風呂から上がって、部屋に戻る。

 窓から入る夜風が、ほんのり涼しい。湯上がりの火照りに、ちょうど気持ちいい。


「エニ、こっちおいで。ユイカも。乾かしてあげる」

「ん」

「きゅ」

 

 椅子に腰掛けたエニと、エニの膝の上に飛び乗ったユイカをいつものように言霊魔法で乾かした。

 

 長い髪がゆらりと揺れ、光を受けてきらきらと銀の川みたいに流れる。

 その先端が、私の腕や腰にふわっと触れるたび、くすぐったくて、なんだか愛しい。


「ねぇ……ほんとに切らなくていいの?」

「うん。とーこが好きって言ってくれたし」

「でも、さすがに伸びすぎたなってときは切ろうね」

「……とーこが切る?」

「ええ? 私は切れないよ~。でも、そうだな~、練習しようかな。エニの髪ほかの人に触らせるのもったいないし」


 美容師さんでも、ちょっと嫌かも。この髪に触れていいのは、私だけでいい。そんなこと思うの、独占欲強すぎるかな。

 そう言ったら、ユイカをのんびり撫でてたエニが少しだけ振り返ってきた。

 頬はほんのり赤く、視線は泳いでいるけれど、口元は小さく笑っていた。

 指先で乾いてさらさらの髪をすくい上げる。

 耳の後ろから首筋まで、ゆっくりなぞると、エニの肩がぴくっと震えた。


「とーこ……くすぐったい」

「ふふ、我慢」


 エニは小さく息を吐いて、素直に目を閉じた。

 その姿が、なんだか子どもみたいで、でも妙に色っぽくて……私はつい、そっと額をエニの肩に預けた。


「……とーこ?」

「充電中」

「なにそれ」

「ふふ、なんでもない。ほら、ベッドいこ? ユイカが眠たそう」

「ん」


 翌朝。

 特に出かける予定もなかったから、私たちは宿の部屋でのんびりしていた。

 ユイカはいつも通り、子狐モードでベッドの端っこに丸まって二度寝中。

 窓からの光がやわらかく差し込んで、室内をゆるく暖めている。


「……ねぇエニ、ちょっといい?」

「なに?」

「座って」

「……?」


 エニを椅子に座らせ、私は机の引き出しから適当なヘアゴムを取り出す。

 昨日お風呂上がりに乾かしたばかりの銀髪が、今日もさらっさらで気持ちよさそうだ。

 その髪をふわっと持ち上げて――


「はい、ポニーテール」

「え、ちょ、なにこれ」

「ほら、こっちおいで」


 姿見の前に座らせてあげると、エニは目をぱちぱちさせた。長い銀髪が、ひとまとめに高い位置で揺れている。


「……なんか変」

「変じゃない! 可愛い!」

「ほんとに?」

「マジでかわいい! 2本目のしっぽだ!」

 

 私が真顔で断言すると、エニは苦笑しながらも耳がぴくんと動いた。


「……ま、まぁ、そう言うなら」

「よし、次は三つ編み!」

「え、次?」


 私の手はすでに動いていて、器用に髪を3つに分けて編み込み始める。

 銀の糸みたいな髪が、指の間をさらさらとすり抜けていく。完成した長い三つ編みを肩に回してあげた。


「なんか……重い」

「これで街歩いたら人気者だよ」

「……恥ずかしい」

「じゃあ、部屋でだけでもいいよ」


 そう言って笑うと、エニはちょっとだけ嬉しそうに三つ編みを撫でた。

 そこから、私たちの「髪型遊び会」が始まった。


 エニの髪をいじってる時間が、こんなに楽しいなんて。前世でも友達の髪をアレンジしたりしてたけど、エニの髪に触れる時の特別感は全然違う。エニのいろんな一面を引き出せるのが、嬉しくてたまらない。


 低めのお団子にして、うなじを見せる。

 

「大人っぽい!」って私が感想を言い、エニは顔を赤くして私の膝をぺちぺち。


 サイドテールにすると「これ……子どもみたいじゃない?」ってエニが首をかしげ、「子どもっぽいのも似合う!」と即答する私に、呆れたようでちょっと照れた笑顔。


 前髪をピンで留めておでこ全開にすると「やめてよ、変だってば!」って必死に隠そうとするけど、私は「犯罪的に可愛い!」って手を止めない。

 エニの恥ずかしがる姿も可愛いけど、本当にどの髪型も似合ってる。むしろ、新しい魅力を発見できて、私にとっては宝探しみたい。


「……とーこ、これ絶対遊んでるでしょ」

「宝探しの冒険中」

「……いみわかんない」


 笑いながら、私はふと思いついて、髪の一部を編み込みにして、花の形にまとめてみた。

 ちょっと時間はかかったけど、出来上がった瞬間、エニが姿見を見る。


「……これ、すごい」

「だよね! お祭りの日に絶対似合うやつ」

「なんでこんなことできるの?」

「前世で得意だったんだ~」


 そんなふうに、午前中いっぱい、私はエニの髪をいじり続けた。

 途中から目を覚ましたユイカが人型になって「ずるいです! ユイカも!」って割り込んできて、エニと二人並べてポニーテールにしてみたり。

 エニは白っぽい銀髪、ユイカは赤みがかった金髪。二人並ぶと、まるで姉妹みたい。並んで鏡を見る二人があまりにも可愛くて、私は「これ一生眺めてたい」って本気で思った。


「……やっぱり、エニの髪はこのままがいいな」

 

 エニは少し照れながらも「……もう、わかったから」と小さく笑った。

 隣ではユイカが「お腹すきました!」と元気いっぱいに言うので、これからちょっと遅めの朝ごはん。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

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