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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第77話 「ユイカ、夢の中で冒険中!?」

本日もよろしくお願いします。

 宿の玄関先で、エニとユイカをぎゅっと抱きしめたあと。

 私たちはそのまま部屋に戻り、ベッドに腰かけ、ほっとひと息。


「……なんか、ちょっと疲れた」

「そりゃあ、初めての街で初めての友達とご飯だもんね」


 そう言って笑うと、隣に座ってるエニは「うん」とそっけなく言いながらも、私に体を預けてくる。


 ユイカはもう小狐モードになって、布団の上で丸くなっている。

 その姿を見ていたエニは、ふと私に視線を移したと思ったら、鼻を私の鼻にこつんと合わせてきた。


「……なにこれ?」

「……なんでもない」

「なんでもないことないでしょ。顔、真っ赤だよ?」

「……っ!」


 まあ、これ……知ってるんだけどね。狼の愛情表現。本で読んだ。


「へぇ〜……そういうことかぁ」

「な、なにが」

「ううん、べつに〜」


 私がにやにや笑っていると、エニは焦ったように私の肩を押し――そのまま、小さく歯を立てて首筋を甘噛みしてきた。

 ちくりとした刺激のあと、いたずらっぽく舌先でなぞられて、思わず肩がぴくんと震える。


「っ……エニ!」

「……からかわないで」


 低く囁く声が耳元をくすぐる。

 そのとき、ユイカの「きゅん……」という寝ぼけた声が聞こえて、私たちは顔を見合わせ、同時に小さく吹き出した。


 朝。

 まだ部屋の中はしんと静まり返っていて、窓の外から小鳥の声だけが聞こえてくる。

 隣ではエニが、すぅ、すぅ、と規則正しい寝息を立てていた。


 長いまつげ、ゆるんだ口元。

 寝顔を見てるだけで、胸がじんわりとあったかくなる。


 足元で寝てるユイカは足をバタバタさせている。きっと夢の中で全力疾走してる。


(……昨日の夜の、あれ。狼の“好き”って気持ち)


 鼻と鼻を合わせてきたエニの顔を思い出す。

 意味を知ってる私には、あまりにもドキドキする行動だった。


 だから。


 私は、ゆっくりと身体を起こし、そっとエニに顔を近づける。

 寝息が鼻先にかかる距離まで近づいたところで、そっと鼻と鼻を合わせた。


 ほんの一瞬。

 触れるか触れないかの、やさしい感触。


「……おはよ、エニ」


 誰にも聞こえないくらいの小さな声で、そう囁く。

 エニは目を覚まさないまま、夢の中で何かいいことがあったみたいに、口元がかすかに笑ってる。


 私は慌てて少し離れて、何事もなかった顔で布団に戻った。

 うん、これで内緒。

 絶対、エニにはバレない。


 朝から、私の胸は幸せでいっぱいだった。


 足元で「もぞ、もぞ……」と気配が動く。

 小さな鼻先が布団を押し上げ、やがてユイカが頭だけひょこっと出してきた。


「きゅん……」


 まだ半分夢の中みたいな声で鳴くと、ユイカは私のお腹のあたりで丸くなる。


「ユイカ、さっき走ってた?」

「きゅん」

「誰かと競争してたの?」

「きゅ!」

「勝った?」

「きゅんっ!」

「よくやった」

 

 ユイカを撫でまわすと、しっぽをぶんぶん振って、胸に収まる小さな身体が震える。この子はいつも楽しそう。

 その様子に思わず笑っていると、隣から「……うるさい……」とエニの寝ぼけた声がして、そのまま眠りに戻っていった。


「ふふ……ごめんね」


 私はユイカを抱き上げ、胸にすっぽり収める。

 ふわふわの毛があたたかくて、なんだかもう目を開けているのがもったいなくなる。


 横を見ると、エニは相変わらず幸せそうな寝顔のまま。

 私はユイカを抱いたまま、エニの方へ身体を寄せる。


 あたたかさに包まれて、まぶたがゆるゆると閉じていく。


 まだ、起きるには早すぎるよね。

 こんな風に三人でゆっくり過ごせる朝の時間が、どれだけ貴重で、どれだけ幸せか。

 昨日のエニの友達との時間を見て、改めて実感した。この子たちとの日々を、もっと大切にしよう。

 こうして私は、もう一度まどろみへ落ちていった。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 

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