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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第76話 「うれしい、おいしい、たのしい……けど、さびしい」

本日もよろしくお願いします。


最近は書くモチベ高いから、いい感じです。

 あたしは、ドキドキしながら、エマたちと通りを歩いていた。

 まわりには、制服を着た女の子たち。

 年も、たぶん、あたしと同じくらい。


 みんな、にこにこと笑っていて、あたしに向かって、あたりまえみたいに話しかけてくる。


「エニちゃんって、どこから来たの?」


 エマが聞いてくる。

 

「……旅、してて、色んなとこ、まわってる」

「へぇー、すごい!」


 エマが目を輝かせた。

 その後ろでも、他の子たちがわいわいと声を上げる。


「じゃあ、学園都市は初めて?」

「うん」

「魔法、どんなの使うの?」

「……電気」

「え、かっこいい!」


 言われて、少しだけ照れた。

 ご飯屋さんに入った。


 木のテーブルと、素朴なランプ。

 壁には手描きのメニュー。読めない。


 エマたちは慣れた様子で席について、あたしにも「ここ座って!」って、真ん中の席を空けてくれた。

 あたしは、こくんと頷いて、そっと腰を下ろす。


「ポークソテー、美味しいよ! エニちゃん、食べたことある?」

「……ない、かも」

「じゃあ食べよ! 一緒に!」


 そんなふうに言われて、あたしはうなずいた。


 みんな、すごく自然だった。

 当たり前みたいに、あたしに話しかけてくれて、当たり前みたいに、あたしを仲間に入れてくれた。


 料理が運ばれてきた。

 大きなポークソテー。

 ジュウジュウといい匂い。


「わあ……」


 あたしは、思わず声を漏らした。


「美味しそうでしょ!」

「うん……」

「さ、食べよ!」


「「いただきます」」

 

 フォークを握って、そっとナイフを入れる。

 やわらかい肉が、簡単に切れた。

 とーこに出会う前は手づかみで食べてたけど、とーこにナイフとかフォークの使い方を教わってから、だいぶ上手に使えるようになった気がする。


 一口、ぱくっと口に運ぶ。


「おいしい」


 本当に、心から、そう思った。


 お肉のうまみと、ソースの甘さ。

 けれど、無意識に視線が空席を見てしまう。

 

(……こういう時、いつもとーこが「一口ちょうだい」って言ってくるのに)


「エニちゃん、かわいい〜! 耳ぴこぴこしてる!」

「旅って、危なくない? 魔物とか、どうしてるの?」


 まわりでみんなが楽しそうに笑って話している。

 あたしも、ぽつぽつと、答える。


 ――たしかに、楽しい。

 

 こんなふうに、にぎやかで、笑い合って。

 あたしの話に、耳を傾けてくれて。

 知らない世界のことを、たくさん、たくさん、教えてくれて。


 でも、とーこがいない。

 ふと、そんなことを思った。


 いつもなら、とーこが隣に座っていて、何か食べたら「それ美味しい?」って聞いてきて、あたしがうなずいたら嬉しそうに笑って。


 今、隣にいるのはエマたち。

 やさしくて、たのしくて、いい子たちだけど。


 でも、なんだか、とーこがいないと落ち着かない。


 

 ご飯、楽しかった。


 初めての友達たち。よかった。


「エニちゃんの宿まで送ってってあげる!」


 エマが、あたしの手を軽く叩いて言った。

 まわりのみんなも、口々に「またね!」って手を振ってくれる。


 あたしも、少しだけ笑って、手を振り返した。


「うん。……また」

「じゃあ、行こ!」


 宿の近くまで送ってもらってエマと別れて、石畳の道を歩く。

 広場の灯りが、ほんのりと街を照らしていて、遠くから、誰かの笑い声や楽器の音が聞こえてくる。


 はやく会いたい。


 宿が見えた。

 あかりのともる玄関。

 その前に、誰かが立っていた。


 ――とーこと、ユイカだ。


 とーこは、あたしに気づくと、手をひらひらと振った。

 ユイカも、ぱたぱたと飛び跳ねながら手を振って、しっぽをぶんぶん振ってる。


 ああ、待っていてくれたんだ。

 それだけで、胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられる。

 あったかくて、やさしくて、涙が出そうになった。

 

 どんなときでも、あたしがどこに行っても。

 ちゃんと待っていてくれるって、そういうふうに思わせてくれる。


 あたしはすこしだけ泥になった靴で走った。


 とーこの前で、ぴたりと止まる。

 

 そして、抱きついた。

 

  恥ずかしいとか、そんなこと考えられなかった。ただ、この人に触れていたくて、温もりを感じていたくて。

 この人がいれば、あたしは大丈夫なんだって、改めて実感したくて。


 とーこは、わたしをしっかりと受け止めてくれた。

 いつもの、やさしい匂い。


 ひんやりした夜風の中で、とーこの体温だけが、あたたかかった。


「――おかえり、エニ」


 とーこが、頭を撫でてくれた。


「とーこ様ぁ! ユイカもっ!」


 ユイカがぐりぐりと、あたしと、とーこの間に割り込んできた。


 あたしは、ユイカの頭をそっと撫でた。

 その隣で、とーこが笑ってる。


 ただいま。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 めっちゃどうでもいい情報。


 とーこはじゃんけんするとき必ずチョキから出す。本人は自覚なし。

 エニはそれに気が付いてないから、毎回いい勝負。

 ユイカはルールわかってない。後出しでエニのチョキに指三本出して「ユイカのほうが多いです!」 って言ってる。

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