第71話 「目立ってる? うちの子たちが可愛すぎるだけです」
本日もよろしくお願いします。
宿で荷解きを終えたあと、私たちは一息ついてからギルドを訪ねることにした。
この学園都市にも、ちゃんとギルド支部があるらしい。冒険者が多い街なんだなって思う。
「案内板だと……こっちだね」
「うん。ユイカ、こっち」
「はぁい!」
ふたりの後ろ姿を見ながら、私はほっと息を吐いた。
エニはいつも通り。私の後ろに、ちょっと隠れるようにしながら歩いてる。
ユイカは元気よくぴょこぴょこ歩いていて、尻尾がふわんふわんと揺れている。人型でもそれが健在なの、ずるいくらい可愛い……。
ギルドの建物は、大通りから少し外れた石畳の坂道の先にあった。
屋根の上にかかる大きな看板には、ちゃんと「冒険者ギルド ヴェルナード支部」と書かれている。
ギルドに入った瞬間、空気が変わった。
石造りの広いホールには、冒険者たちのざわめきと、紙をめくる音、剣や防具がこすれるような音が満ちている。
首都のギルドとは少し違う雰囲気だった。ここにいる冒険者たちは、どこか学生っぽい。若い人が多くて、活気があって、でも真剣さも感じる。きっと学園との連携があるんだろうな。
天井近くの高い棚には、魔法道具らしきものが飾られ、掲示板にはクエストや情報の張り紙がびっしりと並んでいた。
「……思ったより、にぎやかだね」
私は小声でそう呟いてから、隣を見る。
エニは、やや緊張した面持ちで、ぎゅっと私の袖を握っていた。
そしてしっぽをぴょこぴょこと揺らしながら覗き込んでくるのが──ユイカ。
エニとユイカの頭を撫でて、掲示板の方へ目を向ける
「あっ……」
私は一枚の張り紙に目を留めた。
【U18タッグ・マジックバウト選抜大会 出場者募集】
・対象:18歳以下の少年少女
・形式:2人1組のタッグ制
・会場:レインターフェル中央競技場
・予選通過ペアは本戦へ
・優勝者には豪華賞品あり
・※詳細は受付まで
「……タッグバトル?」
思わず呟いた私の声に、ユイカがぴょこんと顔を上げた。
「なにかありましたか?」
「うん、なんかね、若い子向けの大会があるみたい」
「たいかい……?」
「戦うやつ。……エニ、見て」
エニも少し首を傾げながら、私の指さす張り紙に目をやる。
「なにこれ?」
「魔法バトルっぽい。対象が18歳以下……」
私がそう言うと、エニはぱちくりと目を瞬かせ――すぐにふいっと視線を逸らした。
「い、いや……そういうの、あたしは……」
「……ふふ、まだ何も言ってないよ?」
「……そういう流れだったじゃん!」
「まあまあ、せっかくだし、聞くだけ聞いてみよう」
私は笑いながら、二人を連れてカウンターへ向かう。
受付には、落ち着いた雰囲気の男性職員が立っていた。
年の頃は三十代後半、すっきりとしたローブ姿で、所作が端正だ。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「この、U18の大会の張り紙を見たんですが、詳しく聞かせてもらえますか?」
「はい、かしこまりました。こちらの大会は、年齢制限18歳以下の方を対象にしたタッグ形式の魔法バトル大会です。予選を勝ち抜いた上位4組が、本戦に出場できる仕組みとなっております」
「へぇ……」
「競技は安全が担保された魔力場で行われ、基本的には実力と連携が評価される形式となっております。それでも、全力でぶつかり合うことになりますから、きっと忘れられない経験になるでしょう。参加費は無料ですので、ご興味があれば、ぜひご検討ください」
「ありがとうございます。もう少し考えてみます」
「承知いたしました。ごゆっくりどうぞ」
お辞儀をして、その場をあとにする。
私はエニとユイカの方に振り向いた。
「……だってさ」
「うぅ……」
「ユイカ、どう?」
「出たいですっ!」
即答。満面の笑顔。
ユイカの目がキラキラと輝いている。でも、まだあの子の本当の力を人前で見せるのはどうなんだ。
そんなユイカを見て、エニが「えっ、出たいの!?」と目をまるくする。
私は笑って頭を撫でた。
「考えるのはあとでもいいよ。今は、ちょっとだけ……この街のこと、もっと知りたいし」
ギルドを出ると、夕方の街並みに光が傾き始めていた。
陽が傾く学園都市の通りを歩いていると、人の流れが少し変わってきた。
制服姿の子たちが、ちらほらと街中に姿を現しはじめている。
肩にカバンを下げて、談笑しながら歩く生徒たち。
静かに書物を読みながら通りを歩く生徒もいれば、魔法道具っぽいものをぶらさげた子もいる。
さすが「学園都市」見渡す限り、年の近そうな少年少女が、あちこちに。
「……同年代の子、多いね〜」
思わず呟くと、隣にいたエニがぴたりと足を止め――さっと私の後ろに隠れた。人見知り発動中。
みんなどこか自信に満ちていて、堂々としてる。エニにとっては眩しすぎる世界かもしれない。でも、いつかは慣れてほしいな。
しっぽがわたわたと揺れてる。可愛い。
と思ったら──
「きゅんっ♪」
ユイカが、エニのしっぽに手を伸ばして遊び始めた。
ぺちぺち、ぺちぺち。
ぴょこぴょこ上下にしっぽが揺れて、それを追ってユイカが跳ねる。
「ユイカっ、しっぽ引っ張んないでっ」
「もふもふです!」
わちゃわちゃしてる2人を連れて、私は街を縦一列で歩くことになった。
(……なんか、某RPGのパーティみたい)
前世でよくやったゲームを思い出す。主人公、魔法使い、そして謎の仲間キャラ。
でも、あの時のゲームと違って、これは現実。失敗したら取り返しがつかないこともある。それでも、この二人と一緒なら、どんな冒険も乗り越えられそうな気がする。
先頭を行く私。
そのすぐ後ろに隠れるように歩くエニ。
そしてそのエニのしっぽで遊びながら、ぴょこぴょこと跳ねるユイカ。逆に目立つ。
気がつけば、街行く人たちがちらちらとこちらに視線を向けていた。
そりゃそうだ。銀色の耳としっぽの美少女と、金の耳と尻尾の子供と一緒なんて、目立つに決まってる。
「ねえ、今の見た? 獣人かな……?」
「てか後ろのちっちゃい子、すっごい可愛かった!」
聞こえる声に、エニの耳がぴこぴこ反応する。
私はくすっと笑って、そっとエニの手を握った。
「大丈夫。可愛いから見られてるだけだよ」
でも、ぎゅって握り返してきたその手が、少しだけ温かくて、私はちょっとだけ得意げな気持ちになった。
そのまま私たちは、夕暮れの街を宿へと戻っていく。
今日も、騒がしくて、でもすごく楽しい一日だった。
明日はどうしようか。
大会のこと、ユイカの将来のこと、エニの成長のこと。考えることがたくさんある。でも、まずは三人でこの街を楽しもう。そして、ユイカが人前で正体がバレないように、細心の注意を払わないと。ミレイの警告が、頭の隅に残ってる。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。
日本に涼しい場所はもうないのかな……
しばらくお仕事忙しくて投稿ペース落ちると思います。
悪しからず。