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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第71話 「目立ってる? うちの子たちが可愛すぎるだけです」

本日もよろしくお願いします。

 宿で荷解きを終えたあと、私たちは一息ついてからギルドを訪ねることにした。

 この学園都市にも、ちゃんとギルド支部があるらしい。冒険者が多い街なんだなって思う。


「案内板だと……こっちだね」

「うん。ユイカ、こっち」

「はぁい!」


 ふたりの後ろ姿を見ながら、私はほっと息を吐いた。


 エニはいつも通り。私の後ろに、ちょっと隠れるようにしながら歩いてる。

 ユイカは元気よくぴょこぴょこ歩いていて、尻尾がふわんふわんと揺れている。人型でもそれが健在なの、ずるいくらい可愛い……。


 ギルドの建物は、大通りから少し外れた石畳の坂道の先にあった。

 屋根の上にかかる大きな看板には、ちゃんと「冒険者ギルド ヴェルナード支部」と書かれている。


 ギルドに入った瞬間、空気が変わった。


 石造りの広いホールには、冒険者たちのざわめきと、紙をめくる音、剣や防具がこすれるような音が満ちている。

 首都のギルドとは少し違う雰囲気だった。ここにいる冒険者たちは、どこか学生っぽい。若い人が多くて、活気があって、でも真剣さも感じる。きっと学園との連携があるんだろうな。

 天井近くの高い棚には、魔法道具らしきものが飾られ、掲示板にはクエストや情報の張り紙がびっしりと並んでいた。


「……思ったより、にぎやかだね」


 私は小声でそう呟いてから、隣を見る。


 エニは、やや緊張した面持ちで、ぎゅっと私の袖を握っていた。

 そしてしっぽをぴょこぴょこと揺らしながら覗き込んでくるのが──ユイカ。


 エニとユイカの頭を撫でて、掲示板の方へ目を向ける


「あっ……」


 私は一枚の張り紙に目を留めた。


 【U18タッグ・マジックバウト選抜大会 出場者募集】


 ・対象:18歳以下の少年少女

 ・形式:2人1組のタッグ制

 ・会場:レインターフェル中央競技場

 ・予選通過ペアは本戦へ

 ・優勝者には豪華賞品あり

 ・※詳細は受付まで

 

「……タッグバトル?」


 思わず呟いた私の声に、ユイカがぴょこんと顔を上げた。


「なにかありましたか?」

「うん、なんかね、若い子向けの大会があるみたい」

「たいかい……?」

「戦うやつ。……エニ、見て」


 エニも少し首を傾げながら、私の指さす張り紙に目をやる。


「なにこれ?」

「魔法バトルっぽい。対象が18歳以下……」


 私がそう言うと、エニはぱちくりと目を瞬かせ――すぐにふいっと視線を逸らした。


「い、いや……そういうの、あたしは……」

「……ふふ、まだ何も言ってないよ?」

「……そういう流れだったじゃん!」

「まあまあ、せっかくだし、聞くだけ聞いてみよう」


 私は笑いながら、二人を連れてカウンターへ向かう。


 受付には、落ち着いた雰囲気の男性職員が立っていた。

 年の頃は三十代後半、すっきりとしたローブ姿で、所作が端正だ。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」

「この、U18の大会の張り紙を見たんですが、詳しく聞かせてもらえますか?」

「はい、かしこまりました。こちらの大会は、年齢制限18歳以下の方を対象にしたタッグ形式の魔法バトル大会です。予選を勝ち抜いた上位4組が、本戦に出場できる仕組みとなっております」


「へぇ……」


「競技は安全が担保された魔力場で行われ、基本的には実力と連携が評価される形式となっております。それでも、全力でぶつかり合うことになりますから、きっと忘れられない経験になるでしょう。参加費は無料ですので、ご興味があれば、ぜひご検討ください」


「ありがとうございます。もう少し考えてみます」

「承知いたしました。ごゆっくりどうぞ」


 お辞儀をして、その場をあとにする。

 私はエニとユイカの方に振り向いた。


「……だってさ」

「うぅ……」

「ユイカ、どう?」

「出たいですっ!」


 即答。満面の笑顔。

 ユイカの目がキラキラと輝いている。でも、まだあの子の本当の力を人前で見せるのはどうなんだ。

 そんなユイカを見て、エニが「えっ、出たいの!?」と目をまるくする。


 私は笑って頭を撫でた。


「考えるのはあとでもいいよ。今は、ちょっとだけ……この街のこと、もっと知りたいし」


 ギルドを出ると、夕方の街並みに光が傾き始めていた。


 陽が傾く学園都市の通りを歩いていると、人の流れが少し変わってきた。


 制服姿の子たちが、ちらほらと街中に姿を現しはじめている。

 肩にカバンを下げて、談笑しながら歩く生徒たち。

 静かに書物を読みながら通りを歩く生徒もいれば、魔法道具っぽいものをぶらさげた子もいる。


 さすが「学園都市」見渡す限り、年の近そうな少年少女が、あちこちに。


「……同年代の子、多いね〜」


 思わず呟くと、隣にいたエニがぴたりと足を止め――さっと私の後ろに隠れた。人見知り発動中。

 みんなどこか自信に満ちていて、堂々としてる。エニにとっては眩しすぎる世界かもしれない。でも、いつかは慣れてほしいな。

 しっぽがわたわたと揺れてる。可愛い。

 と思ったら──


「きゅんっ♪」


 ユイカが、エニのしっぽに手を伸ばして遊び始めた。

 ぺちぺち、ぺちぺち。

 ぴょこぴょこ上下にしっぽが揺れて、それを追ってユイカが跳ねる。


「ユイカっ、しっぽ引っ張んないでっ」

「もふもふです!」


 わちゃわちゃしてる2人を連れて、私は街を縦一列で歩くことになった。


(……なんか、某RPGのパーティみたい)


 前世でよくやったゲームを思い出す。主人公、魔法使い、そして謎の仲間キャラ。

 でも、あの時のゲームと違って、これは現実。失敗したら取り返しがつかないこともある。それでも、この二人と一緒なら、どんな冒険も乗り越えられそうな気がする。


 先頭を行く私。

 そのすぐ後ろに隠れるように歩くエニ。

 そしてそのエニのしっぽで遊びながら、ぴょこぴょこと跳ねるユイカ。逆に目立つ。


 気がつけば、街行く人たちがちらちらとこちらに視線を向けていた。

 そりゃそうだ。銀色の耳としっぽの美少女と、金の耳と尻尾の子供と一緒なんて、目立つに決まってる。

 

「ねえ、今の見た? 獣人かな……?」

「てか後ろのちっちゃい子、すっごい可愛かった!」


 聞こえる声に、エニの耳がぴこぴこ反応する。

 私はくすっと笑って、そっとエニの手を握った。


「大丈夫。可愛いから見られてるだけだよ」


 でも、ぎゅって握り返してきたその手が、少しだけ温かくて、私はちょっとだけ得意げな気持ちになった。


 そのまま私たちは、夕暮れの街を宿へと戻っていく。


 今日も、騒がしくて、でもすごく楽しい一日だった。

 明日はどうしようか。

 大会のこと、ユイカの将来のこと、エニの成長のこと。考えることがたくさんある。でも、まずは三人でこの街を楽しもう。そして、ユイカが人前で正体がバレないように、細心の注意を払わないと。ミレイの警告が、頭の隅に残ってる。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 日本に涼しい場所はもうないのかな……


 しばらくお仕事忙しくて投稿ペース落ちると思います。

 悪しからず。


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