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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第5章 狼の耳としっぽ、そして学園
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第68話 「ここが学園都市ヴェ、ヴェル……なんだっけ?」

本日もよろしくお願いします。


第5章学園都市編開幕!!!!!

 その街は、まるで誰かの夢の中をのぞき込んだようだった。

 前世で見た都市の景色を思い出す。でも、あの無機質なコンクリートとは違って、ここには温かさがあった。歴史と知識が積み重なった、生きている街という感じ。

 

 レンガ造りの高い建物が、階段のように緩やかに連なり、光を弾く青や緑の屋根があちこちに散らばっている。石畳の道は、迷路のように交差していて、塔のような校舎が遠くに何本も突き出ていた。


 高い尖塔には鐘が吊るされていて、どこかの時間を告げているのか、小さくカラン……と鳴っている。


 小さな旗がはためく広場、ベンチのある街路樹、学園寮らしき建物のバルコニーから干される制服。


 ここが学園都市ヴェ、ヴェル……なんだっけ?

 名前の通り、学校という学校が集まってできた特別な都市。


 教える人も、学ぶ人も、あらゆる分野の「知」がこの街に集まっている。

 剣術、商才、音楽、言語、そしてもちろん――魔法も。


 そうリディアさんに教えてもらった。


 当然魔物を連れていないただの旅人の私は検問を顔パスで通り抜ける。ちゃんと冒険者ライセンスを見せたら、すんなり通してくれた。……ちょっとだけドヤ顔した。

 今はちょうど昼下がり。

 学生たちは授業中らしく、街の中は案外静かで、観光客や買い物帰りの人がゆるやかに行き交っているくらいだった。


「わあ……」


 隣で、エニがぽつりと感嘆の声を漏らす。


「とーこ、あの建物、雲まで届きそう」って、首をぐーっと反らして見上げてる。そんなエニを見て、ユイカも真似して首を反らす。二人とも同じ角度で見上げてるのが、なんだか微笑ましい。

 

 その目は、初めて見る街の光景に釘付けで、銀色の耳がぴこぴこと揺れている。

 しっぽもふりふり、好奇心の高まりが隠しきれていない。


 エニの手を引くように歩くユイカは、人型の少女の姿になっていて、揺れる和服の裾が道端の花にふれてくすぐったそうに笑っている。


「きらきらしてます!」


 どこまでも明るくて、無邪気で――間違いなくエニとユイカが、今この街で1番注目を浴びてる。


 和服に狐耳としっぽ。

 狼の耳としっぽ、そして私。

 

 この街でもさすがに珍しいらしく、通りすがりの人たちが「おや……?」「可愛いな」と笑みを浮かべながらちらちら見ていく。


 でもユイカはそれに気づいていないのか、ただキョロキョロと街並みに夢中だった。エニは私の後ろに隠れようとするけど、ユイカにぐんぐん引っ張られていく。


 私たちは、大通りをゆっくりと下っていく。

 石畳はきれいに整備されていて、靴音が心地よく響く。

 街灯には花が飾られていて、カフェの店先からはパンとハーブの香りが流れてくる。


「いい雰囲気だね」


 私がそう呟くと、エニがふと立ち止まり、にこっと笑った。エニが急に止まるからユイカがぐいんってなっちゃってる。


 その笑顔が、なんだかすごく眩しくて、私は、少しだけ照れた。


 うん、やっぱりここに来てよかった。


「さて、とりあえず宿屋を探そうか」


 私は道端の案内板を見つけて、木彫りの地図を指差した。宿泊施設の印がいくつか並んでいて、その中の一軒、『宿屋アウローラ』という名が目に留まる。


「この『アウローラ』ってとこ、行ってみよっか。名前の響きがちょっと可愛いし」


「……うん」

「きゅん!」


 ふたり――いや、一人と一匹の返事を受けて、私は先頭を歩き出す。


 大通りを一本曲がると、空気がふっとひんやりとした。

 背の高い建物に囲まれた裏通り。石壁に囲まれたこの路地は、どこか静かで、太陽の光も細くなって落ちている。


「……なんか、秘密の場所って感じ」


 エニが嬉しそうに耳をふるふるさせる。


「わくわくです!」


 ユイカはしっぽを揺らしながら、トントンと軽やかに足を弾ませる。

 そのたびに足音がぺたぺたと響いて、路地の中に跳ね返っていった。


 角を1つ曲がると、目の前に現れたのは、温かい色合いの木造建築だった。


 玄関の上には、木彫りの看板。


『宿屋 アウローラ』


 アウローラ……確か、前世の言葉で「夜明け」を意味していたような。新しい場所での新しい始まり、なんて考えるとちょっとロマンチック。

 木の看板には柔らかい陽の光が差していて、壁に這う蔦が窓の縁を飾っている。建物自体は石と木でできた温かみのある造りで、あちこちに花の鉢植えが並んでいて、雰囲気は上々。

 ドアの前で立ち止まると、ユイカが鼻先で隙間をくんくん嗅いだ。

 エニはちょっとだけ不安そうに耳を伏せたけど、私が笑いかけると、ふわっと安心した顔になった。

 この子は本当に、私がいないとダメなんだなあ。そんな風に頼られるのが、くすぐったくて、すごく嬉しい。


「ここにしてみよっか」


 エニは「うん」と頷き、ユイカは「きゅん!」と鳴きそうになるのをぎりぎりで我慢したように口を引き結んで――でも、尻尾は全力でぱたぱたしていた。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 高い建物を見上げる田舎者のエニとユイカ

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