やっぱり大好き
本日もよろしくお願いします。
次話から学園都市編!
とーこと、ユイカと、あたし。
三人で旅をするようになって、少し時間が経った。
もふもふの大きなユイカに乗って、草原を越えたり、森で遊んだ。
今までふたりだった旅が、気づけば、ふたりと一匹になっていた。
楽しい。
ほんとうに、楽しい。
ユイカは無邪気で、時々笑っちゃうくらい愛らしくて、なんだか放っておけない子で。
最初はそれでよかった。
三人の旅は楽しくて、ユイカがいることで、とーこがもっと笑顔になって。
でも、とーこの視線が、ユイカに向いている時間が、あたしに向いている時間より長いような気がする。
ユイカがじゃれついて、とーこが「こら、やめなさい」って笑いながら頭を撫でるとき。
寝るときに、とーこがユイカを抱いて「ぬくい……最高……」ってとろけてるとき。
あたしは、なんていうか――胸のあたりが、少しだけぎゅっとなる。
(ううん、いいの。ユイカは、守ってあげたい存在で……その気持ちは、とーこも同じで……)
わかってる、ちゃんとわかってる。
でも、その「わかってる」が、ぜんぜん心のモヤモヤに効いてくれない。
たとえば、昼間。
落ち葉の中でユイカが「きゅん!」と跳ねて、転げまわってるのをみて、とーこは私も混ぜてってユイカの方へ走ってく。
あたしはそれを横目で見てた。あたしにも構って欲しい……。そんなことを思ってた。
でも、ユイカが自分のしっぽを追いかけてくるくる回ってるのを見て、「可愛い~」って笑うとーこを見て結局あたしも、くすって笑ってしまった。
(……とーこが、楽しそうなら、それでいいけど)
なのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
――とーこが、ユイカばっかり見てる。
それはきっと、あたしの気のせいなんだと思う。
気のせいに決まってる。
だってユイカは、可愛いし、一生懸命で、とーこの魔法で助けた子で。
でも……。
お風呂の時、真っ先にとーこの腕に抱きかかえられて、「ちゃんと洗おうね」って言った時。
ぴくって耳が動いたの、自分でもわかってた。
それからの時間。
湯気がほわんと立ちこめる中で、泡のはじける音が耳に残っていた。
しっぽを一本ずつ丁寧に洗う、とーこの手。
ユイカがとろけた顔で目を細めるたび、湯気の向こうでとーこがふふっと笑ってた。
あたし、見てた。
ずっと見てた。
湯船の縁に座って、ぼーっとその様子を見てる自分。
手をぎゅって握りしめて、ふくらんだ頬が冷めなくて。
――ずるいなぁ、ユイカばっかり……。
あたしだって、とーこに撫でられたい。
あたしだって、「可愛い」って言われたい。
そんな気持ちが、胸の奥でむくむくと膨らんでいく。
そう思ったら、胸がきゅってして、なんだか泣きそうになった。
とーこは悪くない。
ユイカも悪くない。
それはわかってる、わかってるのに。
とーこの手が、ユイカの体に触れているのが、羨ましくて、たまらなかった。
でも。
そんなあたしに、とーこが声をかけてくれた。
「エニも、おいで」
たった、それだけの一言なのに。
心が、じわって、ほどけていくような気がした。
とーこのそばに歩いていく。
……まるで、子供みたいだなって、自分でも思う。
でも、それでよかった。
髪に、とーこの手が触れた瞬間。
それまで張りつめてた何かが、ふっと溶けた。
やさしい指の動き。泡立てた石鹸の香り。
髪を撫でるたびに、ぴくって動く自分の耳が恥ずかしくて、でもうれしくて。
とーこが、あたしの髪を、背中を、しっぽを洗ってくれる。
――ちゃんと、私のこと見てくれてるんだ。
そんな当たり前のことに、安心して、胸があったかくなった。
それでも、すぐには素直になれなくて。
目を見れなかったし、声もちっちゃくなっちゃって。
それでも、とーこは何も言わずに、やさしく笑ってくれて。
……ああ、好きだなあ。
お風呂を出て、魔法でさらふわにしてもらって。
それだけで、ちょっと機嫌が直っちゃうの、ほんとちょろいって思う。
そのあと、ユイカが先にふかふかの布団にダイブして、すぐに眠りについちゃった時、とーこが、布団の前でぽつんと座っていたのを見て。
あたしは、何も考えずに動いてた。
無言で、とーこのもとに近づいた。
ただ、隣に行って、そっと、寄りかかった。
さっきまで、モヤモヤしてた気持ちが嘘みたいに、消えていく。
とーこの腕が私の肩をそっと抱いて、ぎゅってしてくれる。
まるで、抱き枕みたいに。
嬉しくて、安心して、でもそれだけじゃ足りなくて。
私は、そっと肩に歯を当てた。
とーこだけのものになりたくて。ユイカには真似できない、あたしだけの愛情表現で、この人を独占したくて。
怒られるかと思ったけど――とーこは、何も言わずに、ぎゅうってもっと強く抱きしめてくれた。
……ああ、やっぱり好きだ。
さっきまでの嫉妬が馬鹿らしくなるくらい、この人が好きだ。ユイカのことも大切に思ってる。でも、やっぱり私は、とーこを独占したい気持ちもある。
心の中で、何度もそう思いながら。
とーこの匂いと、ぬくもりに包まれて、体がぽかぽかしていく。
私はそっと、頬を寄せた。
なにも言わないで、ただ、そっとくっついて。
少しだけ動いた、とーこの手が、私の頭を撫でてくれる。
安心する。
心から落ち着く。
とーこは、小さく「おやすみ、エニ」って言ってくれて。
言葉の代わりに、背中に手を添えて、あたしはゆっくりと、眠りに落ちていった。
今夜も、世界でいちばん大好きな人のぬくもりに包まれながら。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。
エニ可愛すぎると思いながら書いてた