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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第4章 狼の耳としっぽ、そして出会い
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第67話 「あれが流れ星だよ!!」

本日もよろしくお願いします。

 ふたりでユイカをしばらく撫でまくって、ようやく気持ちが落ち着いた頃。

 エニは空を見上げた。


「……日が沈むね」

「山のてっぺんまで行こっか。そこまで行けば、たぶん……見えてくるよ学園都市」

「……ん」

「さ、もう少し頑張ろ」


 私は手を差し出す。エニは一瞬目を丸くした後、嬉しそうに手を繋いでくれた。

 指先があたたかい。

 そのぬくもりだけで、寒い山の空気さえも忘れそうになる。


 山道は少し険しい。でも、空気は澄んでいて、静かで、どこか神聖な雰囲気があった。

 小鳥の声も、風のささやきも消えていて、世界に私たちだけが取り残されたような感覚。


 ユイカも、てっこてっこと後ろをついてくる。

 その姿はやっぱりシュールで、でも可愛くて、思わず笑みがこぼれた。でっかいなあユイカ。


 空の色は、藍と金のグラデーション。

 夕焼けの朱が、山の稜線を照らしながら、だんだんと夜の帳に吸い込まれていく。

 草原に落ちる光が、金の絨毯のように波打っていた。


 そして──


「……ついた」


 山のてっぺんにたどり着いた私たちは、自然と足を止める。目の前に広がる景色に、言葉は必要なかった。


 遠く、遠くまで広がる灯りの海。

 

 高く積まれた石造りの塔、整然とした街並み。

 夜に浮かぶその都市は、まるで宝石をちりばめたように美しく、幻想的で、どこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。

 あそこで、私たちはどんな日々を過ごすのだろう。新しい出会いも、困難も、きっと待っている。でも——エニと一緒なら、大丈夫。

 

「……きれい……」と、エニがつぶやく。


 私はそっと、彼女の手を握り直した。


「あ! 見てエニ!」


 そう言って、私は空を指差した。

 紺碧に染まりきった夜空に、一筋の光が、静かに流れていく。


 ――流れ星。


「……エニ、見えた?」

「ちょっとだけ」


 すっと消えそうになったそれを、私はすぐに追いかけるように目で追って、口を開いた。


「私の世界ではね、流れ星が流れてる間にお願いごとを3回言うと……叶うんだよ?」


 エニがきょとんと、私を見上げる。


「……3回も?」

「うん。時間との勝負ってやつ。けっこう難しいよ」

「……難しそう」

 

 そう言いながらも、エニが私を見つめて笑った。

 その笑顔が、星よりも眩しくて、胸がきゅうっとなる。


 ──そのときだった。


「……あっ」


 エニが、空を指差した。


「とーこ! 来た!」


 空を駆ける、もうひとつの流れ星。


「エニ! 早く早く!」


 エニが、小さく息を吸って──


「とーこと一緒にいられますようにっ、とーこと一緒にいられますようにっ、とーこと一緒にいられますようにっ!」


 願いごと、三連発。全力で。

 私は、ぽかんと見つめていた。


 空から降り注いだ、金色の流れ星。

 それが溶けて消えていくのを見届けたあと、エニは私の方を向いて、ちょっと照れくさそうに笑った。


「……間に合った?」


 私は、ふっと目を細めて笑う。

 

「そんなの、お願いしなくても叶えてあげるよ」


 そう言って、そっとエニの頬に手を伸ばす。

 初めて出会った森で、怯えていたエニ。首都で困惑していたエニ。そして今、こうして私を真っ直ぐ見つめてくれるエニ。一緒に歩んできた時間が、愛おしくてたまらない。

 ふわふわの髪が風に揺れて、耳がぴくっと動いた。

 エニの目が、まっすぐに私を見つめる。


「何があっても、ずっと一緒にいてあげる。そう言ったでしょ?」


 たとえ世界が私たちを引き離そうとしても、どんな試練が待っていても——この気持ちだけは、絶対に変わらない。

 

「……じゃあ、一生のお願い」

 

 その言葉に、心臓が跳ねた。一生。エニが口にしたその重みに、息が止まりそうになる。


「ふふっ、了解しました」


 私は手を強く握り返す。

 心の奥からあふれてくる想いに、自然と頬が緩んでいた。


 そのとき、ユイカがふわりとあくびをした。

 伝説の魔物だなんて、全然実感がわかない。今はただ、眠そうな子供にしか見えない。

 でっかい体をゆるゆると地面に横たえて、丸まるようにして寝転がる。


「きゅん……」

「……寝よっか」

「……うん」


 ぴったりと並んで座る私とエニの頭上で、星たちが、またひとつ流れていった。

 

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


最近暑すぎる

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