表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第4章 狼の耳としっぽ、そして出会い
74/97

第63話 「え!?!?!?」

本日もよろしくお願いします。

 草原を駆ける風が、心地いい。

 ユイカの背に乗って、私たちはのんびりとした移動を続けていた。

 ちょっとした起伏も、もふもふ特急なら軽々越えてしまう。乗り心地は最高だった。


「とーこ、あれ……」


 エニの指差す先、遠くの丘の向こう側に、小さな点のような建物が見えた。

 だんだんと近づくにつれて、それははっきりとした街並みに変わっていく。塔のような建物、白い壁、小さな旗のはためき……。


「……街だ!」


 喜びの声を上げる私。

 だけど──


「…………ちょっと待てよ?」


 思わずユイカの背で姿勢を正して、腕を組み、私は街の方を見つめ直した。


「このまま行ったら……やばくない?」

「やばい……?」

「うん。あの街に、こんなでかいユイカが突撃したら――」


 大騒ぎになる。確実に。こちとら伝説の魔物だ。

 冒険者ギルドに通報されて、討伐隊が編成されて、ユイカが……。


 慌てて私たちは道から外れて、草原の中にぽっかり空いた林の中へと逸れた。

 木陰に入って、ユイカを降りる。


「作戦会議!」

「え、なに? どうするの?」

「ねえ、ユイカ?」


 私は自分のしっぽを追いかけて、くるくる回って遊んでいるユイカに呼びかけた。


「このまま街に入ったら……さすがにまずいんです」


 返事はなくて、代わりにユイカは小さく「きゅ?」と鳴いて首をかしげた。


「ほら、だって、めっちゃ目立つし。伝説級魔物に乗って来たヤバい人たちだって、兵士さんに止められちゃうよ、きっと……」


 するとユイカは、ふいにぴたっと動きを止めた。


「ねえ、幻影魔法で姿を変えたりとか……できたり、する?」


 私がそう尋ねた瞬間だった。


 ユイカが「きゅん」と短く鳴いた。

 その場にちょこんと座って、ふるふるとしっぽを揺らす。

 実際はどかっと座って、ブオンブオンって尻尾降ってる。やっぱりでかいなユイカ。


 次の瞬間――もふっ!


 煙のような光が一瞬はじけて、ユイカの姿が小さく、しゅるしゅると縮んでいく。


「わっ……!」



 目の前に立っていたのは、出会ったころのサイズに戻った、もふもふユイカ(ミニ)!


「……えっ、できた!? 小さくなった!? ユイカ天才じゃん!」

「きゅんっ!」


 ぴょこんと跳ねて、エニの足元へ転がるように駆け寄る。


 出会った時と同じくらいの小動物レベルのふわもこが、エニの膝に前足をのせて、尻尾をぶんぶん振り回す。


「わ、くすぐった……」


 エニが屈むと、ユイカは顔をすりすり、前足ちょいちょい。しっぽでエニの顔をぺしぺし。


 完全に構ってアピール。


「でも……小さくなっても、魔物は魔物なんだよなあ……」


 私はそのじゃれあいを見守りながら、ふと呟く。


 ふさふさのしっぽは、たしかに九本。

 これが人の目に入ったら、正体がバレるのも時間の問題。


 私が呟くと、ユイカがまた「きゅん」と鳴いた。


 すると、次の瞬間。

 ふわり、と紅い光が宙に散った。


 その中心にいたユイカの身体が、すっと立ち上がるように変化していく。


 みるみるうちに、毛並みが整い、輪郭が人のように伸びて――


 やがて現れたのは、和服のような白い衣をまとった、小柄な少女だった。


 肩で切りそろえられた赤と金の混じった髪。狐耳。ふわふわと揺れる一本のしっぽ。

 年のころは、エニよりほんの少し下に見えるくらい。


 焔幻の尾は高位の魔物だから、人型に変身する能力があってもおかしくない。

 でも、まさかユイカがこんなに上手に変身できるなんて——。

 私は改めて、この子がただの魔物じゃないことを実感した。


「……え……えええっ!?」


 私とエニが声を上げたそのとき。


「とーこ様! エニ様!」


 ぴしっと背筋を伸ばして、ユイカが満面の笑顔で、ぺこりとお辞儀した。


「しゃ、喋った!?!?」


 二人そろって叫ぶ。

 ユイカは笑顔のまま、とてとてとエニに駆け寄って――


「ちょ、ユイカ!?」


 エニのしっぽを、しれっとなでなで。


 私は思わず笑ってしまう。

 中身、ぜんぜん変わってない。


「エニ様のしっぽ気持ちいいです!」


 可愛さ、むしろ増してない?


「すごい! ユイカ! 喋れるなんて!」


 それに対して、ユイカは小首をかしげて、ほわっと微笑んだ。

 

「今までも喋っていましたよ?」


 その声は、澄んでいて、どこか無邪気。

 私とエニは顔を見合わせる。


「……うん。ずっと喋ってたよ?」

「ええっ!?」

「……あたしは結構ユイカとお話してた」

「……私は動物の言葉わかんないんだよぉ」


 そんな私たち見て、ユイカがぴょこんと私の前に立った。


「じゃあこれからは、とーこ様とも、ちゃんとお話しできますね!」


 ぴしっと胸を張って言うユイカに、私はなんかもうどうでもよくなって、思いっきり笑ってしまった。


「……うん。よろしく、ユイカ」


 頭をなでると、ユイカは嬉しそうに目を細める。

 その隣で、エニもそっと笑った。


 私たちは、ほんの少しだけ新しくなったこの旅を、また一歩、進めていく。


 小さな“家族”みたいな形で。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ