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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第4章 狼の耳としっぽ、そして出会い
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第56話 「こんな出会い方ある!?」

本日もよろしくお願いします。

 布団の中のあたたかさは、旅を忘れてしまいそうなくらいだったけど――

 私たちには旅がある。立ち上がらなきゃ、歩かなきゃ、次の景色には出会えない。ここで3度寝をするのはあまりにも旅人の自覚が無さすぎる。


「よし。そろそろ、起きますか」



 私が布団から抜け出すと、エニも目はまだ眠そうだったけど、ぴたぴたと足音を立ててついてくる。


 出発の支度を終えて、私たちは宿を出た。


 朝の空気は冗談みたいに冷たい。でも、その中で私たちは色違いのおそろいの防寒着を着て、ぴったり並んで歩き出した。


 手をつないで歩くのは、最初だけだった。


 荷物を持ち替えたり、斜面に気をつけたり、道の端で咲いていた小さな花にエニが気を取られたりして、何度も離れたけれど──気づけばまた並んで歩いている。そんな距離感。


 気張らず、素直で、自然体なふたりの時間。


 

「ちょっと走ろっか。寒いし、身体あっためよう!」


 軽く声をかけて、私は駆け出した。

 ふふ、たまには私がリードして──


 


 ──ズバァッ!!


 


 風を切る音とともに、銀色の髪が私の視界を駆け抜けた。


 


「えっ!? ちょ、えっ!? 待って待って!? 今の何!? 誰!? エニ!?!?」


 


 走ってる。

 めっちゃ速い。なんか信じられない速さでエニが走ってる。


 一点のブレもなく一直線に駆けてる。

 電気を纏ってないのに、なんなのあのスピード。



「……なんで!? 私が先に走り出したのに!? 私が置いてかれてるのなに!?!?」


 走りながら叫ぶ私の前方で、エニがぴたりと止まって、振り返る。


「とーこ、おそい……」

「いや、あたしが遅いんじゃない! エニが速すぎるの!」


 

 エニは、息一つ乱れてない。


「たのしい。走るの」

「はあ……はあ、それは……よかった」


 エニがほんのり笑った。

 防寒着の袖がふわっと揺れて、その表情が朝の光に透けた。


 私の中で何かがとけて、「もういいか……」ってなった。速さで勝とうとしたのが間違いだった。人間に獣の耳としっぽが生えたような見た目だから忘れてたけど、エニは狼だもんね。



 午前中は山に続くなだらかな丘を進み、昼すぎに小さな小川のそばで腰を下ろした。


 私が水筒に水を汲んでいる間、エニは石の上でリュックを下ろして、足をぶらぶらさせながらぼーっとしている。


「……大丈夫? つかれてない?」


 声をかけると、エニはゆっくり首を振って──ふっと笑う。


「ぜんぜん」

「普段寝てばっかりなのに体力すごいね」


 私はエニの頭をそっと撫でた。


 耳がぴくりと揺れて、それから小さく伏せられる。


 撫でる手を止めると、エニはちらっとこちらを見て、いたずらっぽく笑った。


「つづき、していいよ?」

「……エニは撫でられ慣れすぎなんよ」

「……とーこ限定」


 そんな他愛ないやり取りが、なんだかものすごく貴重なものに感じた。


 しばらくそのまま休憩してから、再び歩き出す。


 陽が傾きはじめたころ。遠くの風に、焦げたような匂いが混ざった。


 私は立ち止まって、エニに目配せする。彼女も、鼻をひくつかせていた。


「……なんか、くさいね。煙?」

「うん……何か燃えてる?」


 さらに進んでいくと、木々の向こうにちらりと赤いものが見えた。火――じゃない。火じゃないのに、赤くて、光っていて、動いていて――


 その“それ”は、突然、茂みをかき分けてこちらへ飛び出してきた。


 狐だった。

 まだ子どもみたいな、小さな体。ふわふわの尾。だけど、その瞳は恐怖に見開かれ、後ろを何度も振り返りながら走ってくる。


 よく見ると、その毛並みはただの赤ではなく、炎のように揺らめいているような色合い。耳の先は赤みがかった金色で、異様に輝いている。普通の狐とは明らかに違う、何か魔力を持った生き物のようだった。


 その向こう。森の奥で、鈍い地響きが起きた。


 ――何かが、追ってくる。


 私とエニは、顔を見合わせた。


「とーこ!」

「うん。構えて!」


 狐は、こっちに向かって真っすぐ駆けてくる。

 助けを求めるように。


 私たちが思っていたよりもずっと早く、物語は動き出した。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


エニ「しっぽは?」

とーこ「ほらもう行くよ」

エニ「……しっぽは?」

とーこ「……はいはいこっちおいで」

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