第55話 「エニ成分、今日も補給中」
本日もよろしくお願いします。
3.5章にしようと思ったけど冷静に4章でよかった。
なので本日より4章狼の耳としっぽ、そして出会いスタートです!!
寒い。
最初に意識したのは、それだった。
まだ目は開けていないのに、頬に触れる空気が冷たい。
空気が乾いてて、布団からちょっとでも顔を出すと、肌がぴりっとする。
これが秋の終わりの気配で、もうすぐ本格的に寒くなっていくんだろうなって──そんなことをぼんやり思った。
首都を出て、たしかもう一週間くらい経った。
多分。
もしかしたら、もっと経ってるかも。
道中は平和そのもので、今は街道沿いの小さな町に泊まっている。この宿も、質素だけど布団はふかふかで、焚き火よりずっとあったかい。
布団の中、まだ目を開けないまま、私はそっと手を伸ばす。
布団の下で、もそもそ、もそもそ──いた。
すべすべ。ぬくぬく。やわやわ。
間違いない、エニだ。
「……んふふ、みっけ」
そう呟いて、私はその体をぎゅっと抱き寄せた。
背中に腕をまわして、ぴったりとくっつく。
脚も絡めて、自分の体ごとくるむようにして――完成。
あったかい。
これがあるから、旅って続けられるんだよな。
むしろこれがなかったら、もう旅とか無理かもしれない。
「……んえ……?」
声がした。
まだ眠たげで、うっすらくぐもった小さな声。
「おはよう……っていうか、まだ寝てていいよ」
「……寒い」
エニはそれだけ言って、またすぅっと小さくなった。
私の胸のあたりで、呼吸がゆっくりと動いている。
髪に顔を埋めると、ふわっと甘い匂いがした。
石鹸の残り香、旅の中でも失われないエニの匂い。
「すー……ん……」
鼻からゆっくり吸い込んで、胸の奥までエニを補充する。もう、朝の儀式って言ってもいいくらい、私にとっては大事なルーティン。
「……すいすぎ……」
「エニ成分が足りてないの。ごめんね、ちょっとだけだから」
「……わかんないけど……うん」
許してくれた。
控えめに、でもちゃんと受け止めてくれるところが、またたまらなく愛しい。
私が髪を触る度にエニの耳がぴくりと小さく動く。
恥ずかしがりながらも、実はこういう甘い時間が好きなんだってことが、そういう小さな反応でわかるから、私もやめられない。
「……ねえエニ、私さ……」
「……ん?」
「このまま、今日ずっと旅しないで、ここで寝てたいなーって思っちゃってるんだけど」
「それもいいかも……」
なんだこの会話。甘すぎて糖度で床が抜けそう。
でも、今だけは許してほしい。だって寒いし、ぬくもりと理性なら、ぬくもりの勝ちでしょ。圧倒的に。
そんなふうにぬくぬくしてたら、ふと思い出した。
――数日前、満月だった。
寝る前にふたりで外を見て、ちょっと寒かったけど、すごくきれいで。
そして、エニが――私のほっぺに、そっとキスをしてくれた。
月明かりの下で、彼女は何も言わずに、ただ、少しだけ私を見上げて笑った。
それはもう、不意打ちで、めちゃくちゃびっくりして、でもそれ以上に嬉しくて。
だから、私はちょっとだけからかうように言ってみた。
「ねえエニ。……おはようのチューはしてくれないの?」
「――っ!?」
わかりやすく体がびくんと跳ねた。
顔はぐいっと布団に埋まって、耳がピココって激しく動いている。
「な、な、なにそれ……っ!」
「だって前、ほっぺにしてくれたじゃん。あれ、めちゃくちゃ嬉しかったから……今日も、あるかなーって」
「それは……その……ちがうのっ……!」
くしゃっと顔を歪めて、しばらく言葉を探して……でも結局、起き上がって――がぶっ。
「いった!? 」
私は肩を押さえながら悶えた。
エニは真っ赤な顔でそっぽを向いて、「もうしらない……」とぼそっと呟いた。
ぬくもりと、甘い匂いと、満月の夜の記憶。
全部をぎゅっと抱きしめながら、私たちはもう少しだけ、朝のふとんの中にいた。
「……もうちょっとだけ、このままでいよっか」
「………………うん」
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エニ「あつい……」
とーこ「ちゅーしてくれたら離れてもいいよ」