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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第53話 「生きててくれて、ありがとう」

本日もよろしくお願いします。


次話で3章最終回

「エニ!!」


 声を張り上げて、倉庫の奥へ駆ける。

 薄暗い中、目を凝らせば、縛られた姿が見えた。


 エニだ。間違いない。


 ……でも、その前に人影が見えた。


 何となく予感はしていた。

 前にギルドでエニに絡んできた3人組の男たちだ。


「チッ、来やがったか。どこで気づきやがった」

「おい、落ち着け。女一人だぞ? どうとでも――」


「――うるさい」


 私がそう言った瞬間。

 その男の口が、ぴたりと閉じた。まるで、糊で封をされたみたいに。


「っ、あ……!? っ……!!」


 男は喉を押さえてパニックになっているが、声は一切出ない。


 その横で、別の男がエニに刃物を向けていた。


「おい、動くなよ! それ以上動いたら、こいつがどうなるか――」


「エニに触るなっ!!」


 叫んだその瞬間、男の腕が、ぐにゃりと不自然に折れた。男は悲鳴をあげて、息を荒らげる。


 怒りが止まらない。許せなかった。

 言葉が魔法になる。制御なんてきかない。


「くそっ! 痛え……。星1じゃなかったのかよ! なんだよこいつの魔法!」

「クソガキが……調子に乗ってんじゃねぇ!」


 男たちはナイフを手にして襲いかかってきた。

 私の目の前で、凶器が振り上げられ――


「邪魔!」


 轟音とともに、3人の男たちは弾き飛ばされ、倉庫の壁に激突した。


 静寂。


 埃の舞う倉庫に、私の荒い息だけが響いた。


 ――と、その外から、軽い足音とともに、人影が現れる。


「間に合っては……ないのかな?」


 銀色の長髪が揺れる。

 シルヴィアさん――星5冒険者。この国の最高戦力の1人。

 いつの間にか、現場に駆けつけてくれていた。


 吹き飛ばされた男たちの中で、まだ何かを喚こうとした一人がいた。


「……もういいよ。寝てな」


 その言葉と同時に大剣をひと振り。

 男たちは完全に気絶して転がった。


「とーこちゃん! エニちゃん!」

「大丈夫!?」


 そこに、リーナとミレイが息を切らせながら入ってくる。

 

「リーナ、ミレイ。丁度よかった。こいつら外に運ぶの手伝ってよ」

「え? あ、あ! 2人とも無事なのね! 良かった〜!」


 リーナたちはシルヴィアさんと一緒に男たちを引きずるように倉庫の外に出ていった。


 私は、気が緩んだ途端、膝が震えそうになるのをこらえながら、エニの元に駆け寄った。


 縄で縛られた身体。

 血の気が失せたかのように冷たく見えるその顔。


 喉が詰まる。

 手が震える。

 

「エニ……! ごめん、ごめんね……っ! 私、目を離して、ほんの一瞬だったのに……」


 縄を解きながら、布を外しながら、何度も謝って、頭が上がらない。


「……大丈夫。とーこが、来てくれたから……だから、謝んないで。あたしが離れちゃったのが悪かったの。ごめんなさい」


 優しくて、泣きそうな声。

 それでも私は、泣きながら首を振った。


「ごめん……本当に、ごめん……っ」


 私は、何度も頭を下げながら、その言葉を繰り返していた。


「ごめんね、怖かったよね……ごめん、私が……」

「……とーこ」

「絶対に守るって言ってたのに……ごめんね」

「とーこ!」


 優しい声が聞こえた。

 強くて、温かい声だった。


 顔を上げた瞬間。


 エニの唇が、私の口に重なった。


 涙と一緒に流れ出していた謝罪の言葉が、その柔らかな感触に塞がれた。


 ふわりとしたエニの匂い。濡れた瞳。

 それでも、エニの気持ちは、確かに伝わってきた。


 ――もう、十分だよって。

 ――とーこが来てくれた、それだけで、救われたって。


 やさしく離れて、エニがちょっとだけ照れた顔で言った。


「……頭、撫でて?」

「……え?」

「それで、許してあげる」


 ちょっとわがままそうに、だけど確かに甘えるように。そう言ったエニの声が、心の奥まで、あったかく染み渡った。


 私は震える手で、エニの頭に触れる。

 その髪は、少し乱れていて、でもちゃんとあたたかい。


「……よかった。ほんと、よかった……」


 震える声で呟きながら、私は何度も、何度も、エニの頭を撫でた。


 ぎゅっと、エニが抱きついてくる。


「っ……!」


 小さな手が、私の服をぎゅっと掴む。

 震えながら、必死にしがみついてくる。


 私も――抱きしめた。


 何もかも、壊れそうなほどに、強く、強く。


 あたたかかった。

 生きてる。

 ここにいる。


 それだけで――もう、十分だった。


「ありがとう、エニ……生きていてくれて、ありがとう……」


 私は、エニを抱きしめながら、心に誓った。


 もう離さない。絶対に。

 

 どんな世界でも――エニと一緒に、乗り越えていく。


 守るだけじゃない。


 エニと、支え合って、生きていく。


 それが、私の――私たちのこれからだ。


 私はもう一度、エニの頭に額を寄せて、そっと囁いた。


「大好きだよ、エニ」


 エニが、ふわっと、安心したように笑った。

 涙のあとに浮かんだその笑顔が、何よりもあたたかくて、かけがえのない宝物だった。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


3章終わりましたら、4話ほど挟んで、3.5章に入ります


お楽しみに

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