第50話 「……エニ?」
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50話!!!
武器屋が「我が心火を研ぎ澄まさん」とか言いながら奥に引っ込んでいったので、私たちは店内を見て回ることにした。
内装はごつい石造りで、棚や壁にはずらりと武器が並んでいる。剣、斧、槍、短剣、ハンマー、見たことない形の刃物……ひとつひとつが重厚で、どれも使い込まれているような鈍い光を放っていた。
「……すごい、武器、いっぱい……!」
エニが目を輝かせながら、きょろきょろと見渡している。耳がぴくぴくと動いて、しっぽがふわふわと揺れている。明らかにテンションが上がってる。
「とーこ、見てこれ……でかっ!」
エニが指差したのは、私の身長くらいある大きな大剣。刃には炎のような文様が刻まれていて、いかにも厨二心をくすぐるデザインだ。
「わあ……重そうだね」
「かっこいい……これ振れるようになったら最強だよね……」
しっぽがぶん、と勢いよく左右に揺れる。やめて、かわいい。
「それよりこっち見てエニ、なんかすごい細かい細工のされた剣が――」
「わっ、この槍、ピカピカ!」
……全然聞いてない。
エニは槍の先端をまじまじと見つめ、両耳をぴんと立てながらしげしげと観察していた。子犬のような好奇心全開で、目をきらきらさせている。
「……なにこれ?」
「どれ?」
エニはふと足を止めて、ある展示台の前に立ち止まる。
棚には、まるでファンタジーゲームで見たような、光沢のある扇が飾られていた。
「これは扇かな」
「……おうぎ?」
「こうやって仰いで涼むんだよ」
私は手をパタパタさせて見せる。
「……それって武器なの?」
「…………そう、なのかな?」
ゲームとかでは扇の武器とかあったけどね。
「前にとーこが魔法で出した武器はないんだね?」
「ん?」
突然の質問に、私はきょとんとする。
エニは棚を眺めながら、ちらっと私に視線を向けた。
「あのすごい音がするやつ」
「ああ、銃ね。確かに。あれは私が前にいた世界のものだったし、この世界にはないのかもね」
私が笑いながら答えると、エニは「ふぅん……」と呟いて、また視線を彷徨わせる。
「……かっこいいね」
「そうかな?」
私はエニの頭を撫でる。
さらに進むと、壁にずらりと並んだ槍の列の中に、やけに錆びついた一本が混じっていた。よく見れば、値札がついている。値段は――
「に、におくえん……?」
私は絶句した。
それを見たエニが「……なにこれ」と興味津々に手を伸ばしかけたので、あわててその腕をひっつかむ。
「だーめ! これ、壊したら、弁償できないよ!」
その隣には「神器再生中・触れるな」と札が下がっていて、もはや何が何だか分からない。
エニはおろおろと手を引っ込め、耳がぺたりと伏せられ、しっぽもしゅんと垂れていた。
「……なんか、細くて持ちやすそうだったから……」
「気持ちはすんごいわかる」
私はエニの頭を軽くぽんぽんと叩いた。
それから、エニの耳をちょっと指先で撫でて、整える。
「……むぅ」
エニはむくれたように口をとがらせたけど、しっぽはふにゃっと揺れている。機嫌は、たぶん、悪くない。
あれこれ見て回って、さすがに疲れてきた頃だった。
エニがぽつりと呟く。
「……おなかすいた」
「だよね」
私は思わず吹き出した。
「じゃあ、帰ろっか。晩ご飯、ちゃんと食べなきゃね」
「……うん」
エニはふわりと笑って、トコトコと私の後ろについてきた。
路地裏は、すっかり夕闇に包まれていた。近くに屋台があるのだろうか、すきっ腹に響くいいにおいが漂っている。
静かな石畳を踏みしめながら、私は前を歩く。
ふと、背後の気配が薄れたような違和感を覚えた。でも、エニの軽い足音が聞こえるから気のせいだろう。
「ねえ、エニ」
振り返らずに話しかける。
「今日、頑張ったしさ。報酬も入ったし。好きなもの食べに行こ?」
ちょっと楽しそうに言った。
なのに――
返事がない。
ぴたり、と私は足を止める。
振り返る。
そこに――エニの姿はなかった。
「……エニ?」
誰もいない、静かな裏通り。
私の呼びかけだけが、虚しく空に溶けていった。
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