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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第50話 「……エニ?」

本日もよろしくお願いします。


50話!!!

 武器屋が「我が心火を研ぎ澄まさん」とか言いながら奥に引っ込んでいったので、私たちは店内を見て回ることにした。


 内装はごつい石造りで、棚や壁にはずらりと武器が並んでいる。剣、斧、槍、短剣、ハンマー、見たことない形の刃物……ひとつひとつが重厚で、どれも使い込まれているような鈍い光を放っていた。


「……すごい、武器、いっぱい……!」


 エニが目を輝かせながら、きょろきょろと見渡している。耳がぴくぴくと動いて、しっぽがふわふわと揺れている。明らかにテンションが上がってる。


「とーこ、見てこれ……でかっ!」


 エニが指差したのは、私の身長くらいある大きな大剣。刃には炎のような文様が刻まれていて、いかにも厨二心をくすぐるデザインだ。


「わあ……重そうだね」

「かっこいい……これ振れるようになったら最強だよね……」


 しっぽがぶん、と勢いよく左右に揺れる。やめて、かわいい。


「それよりこっち見てエニ、なんかすごい細かい細工のされた剣が――」

「わっ、この槍、ピカピカ!」


 ……全然聞いてない。


 エニは槍の先端をまじまじと見つめ、両耳をぴんと立てながらしげしげと観察していた。子犬のような好奇心全開で、目をきらきらさせている。


「……なにこれ?」

「どれ?」


 エニはふと足を止めて、ある展示台の前に立ち止まる。

 棚には、まるでファンタジーゲームで見たような、光沢のある扇が飾られていた。


「これは扇かな」

「……おうぎ?」

「こうやって仰いで涼むんだよ」


 私は手をパタパタさせて見せる。

 

「……それって武器なの?」

「…………そう、なのかな?」


 ゲームとかでは扇の武器とかあったけどね。

 

「前にとーこが魔法で出した武器はないんだね?」

「ん?」


 突然の質問に、私はきょとんとする。

 エニは棚を眺めながら、ちらっと私に視線を向けた。

 

「あのすごい音がするやつ」

「ああ、銃ね。確かに。あれは私が前にいた世界のものだったし、この世界にはないのかもね」


 私が笑いながら答えると、エニは「ふぅん……」と呟いて、また視線を彷徨わせる。

 

「……かっこいいね」

「そうかな?」


 私はエニの頭を撫でる。

 さらに進むと、壁にずらりと並んだ槍の列の中に、やけに錆びついた一本が混じっていた。よく見れば、値札がついている。値段は――


「に、におくえん……?」


 私は絶句した。

 それを見たエニが「……なにこれ」と興味津々に手を伸ばしかけたので、あわててその腕をひっつかむ。


「だーめ! これ、壊したら、弁償できないよ!」

 

 その隣には「神器再生中・触れるな」と札が下がっていて、もはや何が何だか分からない。

 エニはおろおろと手を引っ込め、耳がぺたりと伏せられ、しっぽもしゅんと垂れていた。


「……なんか、細くて持ちやすそうだったから……」

「気持ちはすんごいわかる」


 私はエニの頭を軽くぽんぽんと叩いた。

 それから、エニの耳をちょっと指先で撫でて、整える。


「……むぅ」


 エニはむくれたように口をとがらせたけど、しっぽはふにゃっと揺れている。機嫌は、たぶん、悪くない。

 あれこれ見て回って、さすがに疲れてきた頃だった。

 エニがぽつりと呟く。


「……おなかすいた」

「だよね」


 私は思わず吹き出した。


「じゃあ、帰ろっか。晩ご飯、ちゃんと食べなきゃね」

「……うん」


 エニはふわりと笑って、トコトコと私の後ろについてきた。

 路地裏は、すっかり夕闇に包まれていた。近くに屋台があるのだろうか、すきっ腹に響くいいにおいが漂っている。

 

 静かな石畳を踏みしめながら、私は前を歩く。

 ふと、背後の気配が薄れたような違和感を覚えた。でも、エニの軽い足音が聞こえるから気のせいだろう。


「ねえ、エニ」


 振り返らずに話しかける。


「今日、頑張ったしさ。報酬も入ったし。好きなもの食べに行こ?」


 ちょっと楽しそうに言った。

 なのに――


 返事がない。


 ぴたり、と私は足を止める。


 振り返る。


 そこに――エニの姿はなかった。


「……エニ?」


 誰もいない、静かな裏通り。

 私の呼びかけだけが、虚しく空に溶けていった。

 読んでくださりありがとうございます。

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