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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第49話 「ちょっと何言ってるかわかんないです」

本日もよろしくお願いします。

「ただいま~!」


 リーナが元気よく手を振りながらギルドの中へ入っていく。私たちもその後に続いた。

 リディアさんがカウンターの向こうでぱっと顔を上げ、満面の笑みで迎えてくれる。


「おかえりなさい♪」

「無事に帰ってきたよ〜!」


 リーナが答え、ミレイも静かに小さく頷く。


「受付しますのでこちらへどうぞ♪」


 毎度のことながら、彼女のセリフには♪が付いてるように聞こえる。

 

「今回はギガコッコ討伐、そして追加で、赤目の個体の討伐、確認しました! 本当にお疲れ様でした♪」


 リディアさんが手元の魔法石版を操作しながら、テキパキと受付作業を進める。


「報酬受取はどうします?」

「うん、私たちととーこちゃんたちで半分づつで!」

「わあ、半分も! お手伝いしただけなのにありがとうございます!」


 リーナが「当然でしょ~」とにっこり笑う。


「了解しました♪」


 リディアさんがきゅきゅっとペンを走らせながら、リーナに厚めの袋を渡す。


「こちらが討伐報酬になります。リーナさんたちの分ととーこさんたちの分ですね。それと」


 リディアさんはふっと私たちの方を見た。


「その鎌。ギルドで買い取ることもできますがどうします?」


 思わずエニと顔を見合わせる。そのあと、リーナ達の方を見る。


「あのカマキリ型を仕留めたのは、とーこちゃんとエニちゃんだもん。決めていいよ~」


 リーナがぴょいっと親指を立てる。


「んー、じゃあ一本は買取お願いします。そのお金はリーナ達に渡してください。私たちはもう一本をバルトさんから紹介してもらった武器屋にもっていきたいと思います」

「おっけ~! じゃあそれで!」


 にっこりと、嬉しそうに笑う。


「ほんとは、別にいいよ~って言いたいとこだけど……。でも、とーこちゃんたちが考えて決めたことだから、ちゃんと受け取らなきゃね!」


 リーナがウィンクする。

 隣で、ミレイも静かに頷く。


「ありがとう、とーこちゃん、エニちゃん」


 自然で、あたたかい空気が流れた。

 私たちは、お互いを思いやりながら、ちゃんとありがとうって言える。

 それだけで、なんだかすごくいい関係だなって思った。


「改めて、討伐お疲れ様でした♪ とーこさん、エニさん、またいつでも来てくださいね」


 リディアさんがぱっと笑顔を向けてくれる。


「うん、また」


 私はエニの頭を撫でた。

 もうギルドの中でエニが嫌がるようなことは起きないよと心でつぶやきながら。

 

 こうして、依頼の報告は無事に完了した。


 そして――


「ねえねえ、とーこちゃんたち、これからどうするの?」


 ギルドを出たところで、リーナがにっこり笑って聞いてきた。

 

「このまま、武器屋に行くつもりです。さすがにこれ持って宿屋に帰るのは……」


 私はエニが担いでる鎌をちらっと見る。

 

「あはは! 確かにね! じゃあ、私たちはギルドにもうちょっと用事あるから、ここでお別れね。武器、いいの作ってもらってね~!」

「またね。とーこ、エニ」

 

 ミレイも静かに微笑んで、二人はギルドに戻っていった。

 私とエニは改めて顔を見合わせる。


「武器屋、行こっか」

「……うん」


 武器屋の場所は、首都の中でも少し人気のない場所の細い裏通りにある。

 看板には《黒鋼の館》と、やたら物々しい文字が浮かんでいる。なんで普通に“武器屋〇〇”って名前にしなかったんだろう。


「え、ここ……ほんとに武器屋?」


 私は店先で一度立ち止まり、エニと顔を見合わせる。


「……鉄の匂いはする」

「……じゃあ、入ってみよっか」


 ギィ、と軋む音を立てて扉を開けた瞬間、店の奥から、


「虚空より穿たれし鉄の因果、その残響を我が槌に宿し、今、魂を打ち上げる」


 という、何言ってるかわからない詠唱みたいな声が響いた。


「…………え?」


 カァンッ! という金属を打つ音のあと、奥から現れたのは、やや年配で筋骨隆々な男。髪はぼさぼさ、頭にはバンダナ、目元にはゴーグルの跡。口元には白くなった髭の名残と、やたら自信ありげな笑み。


 そして――第一声がこれだ。


「汝ら、刃を求めし旅の放浪者よ。我が《黒鋼の館》へ導かれしこと、すなわち運命の顕現なり……!」


「…………え?」

「…………とーこ?」


 ぽかんとした顔で私を見るエニ。

 大丈夫だよエニ、私にもなんて言ってるか分からないから。


「あー……すみません、ええと、バルトさんの紹介で来たんですけど」


 私が以前バルトさんから貰った紙を渡しながらそう切り出すと、鍛冶屋の目がキラッと光った。


「バルト……あの狂犬、いや、英雄バルトの名を知るとは……。なるほど、なるほど……貴様ら、ただの小娘ではないな?」

「そう……ですね、彼にいい武器屋があるって言われて……それで、この鎌を武器にできるか見てほしくて」


 私はエニが担いできたカマキリ魔物の鎌を、武器屋の前に置く。

 すると――


「……む、これは……っ! 歪みし世界の残滓! 魔物の憤怒をそのままに封じたる残虐の曲刃か……!」

「えっと……?」

「………………」


 ああ、エニが理解することを放棄した顔してる……。

 武器屋は鎌をひとしきり眺めたあと、ごとんと腰を下ろし、両手を組んで頷いた。


「よかろう。此の鋼に眠る宿業を、我が《業火の工房》にて打ち清めよう」

「……?」

「武器、作ってくれるってことかな?」

「よかった」

 

 嬉しそうにニコパっと笑うエニを見て、私は思い出したように言った。


「その鎌から私とこの子に合った短剣、1本ずつ作れます? 1本だけしか無理なら、この子に合うやつだけお願いしたいんですけど」

「ふむ。魂は1つにして、刃は1つにして双び──よかろう! 2本の神器を打ち上げようではないか!」


 この武器屋、変なテンションだけどいい人だ。ほんとに何言ってるか分からないけど。


「お主らの名を刻むに相応しき刃……我が渾身を込めて鍛えてみせよう! ……されどその前に、この身が再び覚醒するまで――黄昏の連環を、幾つか許せ。我が創造の魂を磨く儀式が必要なのだ」

「あ、はい。つまり……数日かかるってことですよね?」


 武器屋はうむ、と大きく頷いた。


 私は苦笑してエニを見る。

 エニはぴょこんと首を傾げて、理解したのかしてないのか、ふわっと笑った。


「武器が出来上がるまでの間に、次の旅の準備もできるね」

「……たべもの買う」

「うん。地図見て計画立てなきゃ」


 エニのしっぽが小さく揺れる。期待と少しの不安が混ざったような動き。

 私も次の目的地がどんな場所か想像すると、胸がドキドキした。


「せっかくだし、ちょっと店内見てから帰ろっか」

「……うん」


 私たちは、なんかすごいもので、なんかすごい感じでつくられる短剣の完成を、今か今かと待つことになった。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


3章は予定では54話で終わる予定です。

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