表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
54/97

第48話 「次の目的地が決まった!」

本日もよろしくお願いします。


5月になりましたね


 隣では、エニがすでに魔法を放っていた。

 電気をまとった鳥の幻影が森の中を駆け、カマキリの魔物を翻弄している。


「エニ、とっとと終わらせて――村の方、手伝いに行こう」


 自分の声が、驚くほど落ち着いていた。

 心の中で何かが定まっている。今の私は、いける。


 絶対に。


 カマキリの魔物が、金属質な脚で地を踏み、甲高い音を響かせながら身構える。


「エニ。念のため、耳、塞いでてね」


 エニがぴくりと動き、小さく頷いて耳を伏せる。

 私は、一歩前に出た。


 言霊魔法――

 それは、感情と意志が紡ぎ出す“言葉”が、現実を形作る力。


 今の私なら、届く。きっと届く。

 静かに、でもはっきりと、その一言を紡いだ。


 


 ⸻砕けて



 

 瞬間、空気がねじれる。

 魔力が言葉に乗り、空間ごと震わせていく。


 魔物が、反応する間もなく、大地から噴き出すような光の衝撃が、その体を貫いた。


 外殻が音を立てて砕け、鋼鉄のような脚が軋みを上げ、魔物の巨体が――崩れ落ちた。


「……ふう」


 エニが耳を塞いだままそっと近づいてきて、倒れた魔物の“鎌”を見下ろす。


「これ……武器になりそう」

「ほんとだね。帰ったら武器屋さんに見せてみようか」

「……?」

「もう、耳塞がなくても大丈夫だよ?」


 エニと二人で鎌をどうにか無理やり、ごり押しで切断した後、私は死体の残骸を見下ろし、軽く息を吐いた。


「……燃えて」


 呟いた瞬間、魔物の身体からふわりと炎が立ち上がる。

 乾いた音とともに、カマキリの魔物は静かに灰へと変わっていった。


「戻ろっか」


 村へ戻ると、そこはすでに平穏を取り戻していた。

 広場の中心には、子どもたちに囲まれたフェロルが花の冠を頭にのせられている。


 私はエニと並んで歩いて広場に戻る。


「おかえり! とーこちゃん! エニちゃん!」


 振り返ると、広間の端の方で魔物の後処理していたリーナとミレイが歩いてくるところだった。

 二人とも服に緑色の液体を付けたまま、でもその顔は疲れよりも安心に満ちていた。


「村、大丈夫でした?」

「うん。ほとんど小型だったから、なんとかなったよ。何より、フェロルが強いのなんのって」

 

 リーナが私に笑いかけ、ミレイも続いて頷く。


「……あなた達も無事で何よりだわ」


 エニが私の横で「ただいま」と小さく呟くと、リーナはその頭をぽんと軽く撫でた。


「とーこちゃんとエニちゃんなら大丈夫だって、最初から思ってたし~」


 軽く、あっけらかんとした口ぶり。でも、その言葉に込められた信頼がじんと胸にくる。


「……ありがとうございます。でも、結構心臓バクバクでした」

「その割には、見事な勝利だったんじゃない?」


 ミレイがそう言って、私たちの背後――エニが両手で持っていた大きなカマキリの“鎌”に目をやる。

 私が持っていこうとしたら、「とーこは無理しちゃダメ」と言って、エニが持ってくれた。前に倒れたことがある私を心配してくれたのだと思う。


「それって……あの魔物の?」

「うん。ちょっと硬かったけどなんとか切り落とせた。武器にできるかなって」

 

 そう答えた私に、リーナが目を丸くする。


「うわ、マジで? けっこう重たそうじゃない?」

「エニが引きずって運んでくれました」

「……おもかった」

「……エニちゃん力持ちだね!」

「シルバーファングの加護のおかげ」

「……出た。また言ってる」

 

 リーナが感心したように呟き、ミレイが鎌を軽く撫でる。


「……質は悪くない。鍛え直せば、武器になるかもしれないわね」

「わあ、ほんと!? 帰ったら武器屋さんに相談してみます! 無理やりちぎってきたかいがあるねエニ」

「……ん。とーこ、ちぎれてくださいって何回も言ってたもんね」

「恥ずかしいから、言わないでよ……」

 

 そんなやり取りをしていたら、近くで遊んでいた子供たちが「なになに~?」と寄ってきた。


「すごーい! これ倒したの?」

「おもそー」


 子供たちのはしゃぐ声に、エニがポツリと呟く。


「……あたしじゃなくて、とーこが倒した」


 子供たちが同時に振り向く。


「すごい!」

「どうやって倒したの?」

「意外とやるわね」


 私は苦笑しながら、でもちょっとだけ嬉しくなった。

 なんか一人だけ上から目線の子がいたな!?

 

 しばらくして、子供たちの笑い声が、広場に響いていた。


 エニはフェロルに乗って追いかけっこしていたはずが、今はすっかり子供たちの“フェロルの尻尾を触ったら勝ち”という謎ルールの鬼ごっこに巻き込まれている。

 しっぽをぶんぶん振って逃げ回るフェロルと、それを追いかける子供たち。そして、捕まりそうになると「そっち行っちゃだめ!」とエニがフェロルの背に乗り真剣に指示を出している。


 私はそれを少し離れた木陰から眺めながら、前々から気になってたことを横にいるリーナとミレイに聞いてみた。


「そういえば、この村でも、首都でもエニと同い年くらいの子って見かけないんですけど……」


 リーナが「あー」と言って、空を仰ぐ。


「フェルゼン王国では、だいたいの子は10歳になると首都よりさらに西にある学園都市に行くの。名前はヴェルナード。ちょっと山を越えた先なんだけど、普通の学校はもちろん冒険者や研究者を目指す子のための学校があってね」

「ヴェルナード……」


 初めて聞く名前だったけど、なんだかかっこいい響き。


「私とミレイも、そこで出会ったの。最初は同じクラスじゃなかったけど、同じ魔法演習でペア組んで、それからはずっと一緒」

「ふふっ。リーナが、はじめはすごい張り切っててね。私、正直ちょっと引いたわ」

「ちょ、ひどくない!?」

「でも、そのおかげで話しかけてくれたんでしょ?」

「……まぁね」


 二人のやりとりにくすっと笑って、私はエニの方に目を向ける。


(エニにも、同い年くらいの友達ができたら、もっと楽しくなるかもなあ……)


 あの子は、私とばっかり一緒にいてくれるけど――。

 

 そんなことを考えながら、ふと、あることを思い出して口にする。


「前にエニが、獣人と人間が一緒に暮らしてる国があるって……リーナに聞いたって言ってたんですけど。それってどこなんですか?」

「それはね……“東の果て”、海を越えた先にある大陸よ」


 答えたのはミレイだった。風がそよぎ、彼女の黒髪がやわらかく揺れる。


「そこでは種族の垣根が薄くて、獣人は人間と一緒に暮らしてるって話。実際に行ったことはないけど、旅人から話を聞いたわ」

「へぇ……」


 私は地図を思い浮かべようとしたけど、さすがにまだこの世界の東西南北はよくわかってない。というか世界地図をあまり見ていない。お風呂とかに貼ろうかな。


「……ってことは、学園都市は西、その国は東。真逆か〜」


 思わずぽつりと呟くと、リーナがぱちんと手を打った。


「全部行けばいいじゃん!」


 あっけらかんと笑う彼女に、思わず目を瞬く。


「……全部?」

「うん。とーこちゃんたち、旅してるんだよね?」

「……始めたてですけど」

「じゃあ、いろんなところに行って、見て、知って、いろんな人に会って――その中で、エニちゃんにとっての“居場所”が見つかるかもしれないでしょ?」


 私はその言葉を、心の中でもう一度繰り返した。


 居場所。


 そうだよね。エニにも、そういう場所が、きっと――。


「……行こうか、いろんなところ」


 息を切らせながら隣に戻ってきたエニの頭をポンポンと叩いた。


「え?」

「ううん、なんでもない。次の旅の目的地、決まってきたなーって思っただけ」

「……どこ?」

「ふふっ、それはね――」


 ぐぅ〜。


 とんでもなく間の悪い音が、エニのおなかから響いた。

 エニが目をまんまるにしてこっちを見た後、くすっと笑う。


「おなかすいた」


 そう言って、エニはお腹を押さえる。


「じゃあ、帰ろうか」


 そう言うと、エニがフェロルの方へ駆けて行った。エニが何やら話しかけるとフェロルは「モフッ」と優しく鳴いて、のんびりとこっちに向かって歩き出した。

 次の冒険の前に、美味しいご飯と、ちょっとした休憩を。

 でもその先にはきっと、私たちだけの“物語”が続いていく。


 次の目的地は決まった。


 学園都市――ヴェルナード。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


とーこ「今度オセロとかトランプでも作ってみようかな」

エニ「何それ」

とーこ「私がいた世界の遊び」

エニ「……やりたい」

とーこ「作るの手伝ってね」

エニ「ん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ