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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第46話 「これが星4冒険者の実力!?」

本日もよろしくお願いします。

 ――ギガコッコが2体。


 そのうちの1体がこちらを睨みつけ、鋭く叫び声を上げる。その目つきは、普段大人しいとは思えない、荒々しく研ぎ澄まされた狩人のような威圧感に満ちていた。


「私たちに任せて〜」


 リーナとミレイが同時にフェロルから飛び降りる。


「風よ――我が名に応じて流転せよ。 旋回せし気流の刃、澄みわたる空を裂き、刃となりて我が敵を討て――蒼風剣舞!」


 風がうねり、リーナの細剣が煌めく。彼女は舞を踊るように軽やかに跳躍し、ギガコッコの側面を一閃した。


 次の瞬間、ギガコッコの片翼が吹き飛び、バランスを崩して地面に転がった。


「ミレイ!」

「……ええ」


 ミレイは、そっとリーナの背中を一瞥し、詠唱を始める。


「焔よ――我が祈りに応えよ。 太陽より生まれし紅蓮の揺らめき、万象を焦がし、命を焼く裁きの鎖となれ――紅蓮断罪陣!」


 魔法陣が輝きを放ち、そこから爆発的な火柱がギガコッコに向かって解き放たれる。


 轟音。爆風。魔物の影が火の中に沈んでいく。


 もう一体のギガコッコが、鋭い鳴き声を上げて地を蹴った。


 その動きに合わせるように、ミレイが一歩前に出る。服の裾がふわりと揺れ、彼女の前に魔法陣が浮かぶ。


 その瞳に宿るのは、炎と――隣にいる相棒への信頼。


「焔よ――我が祈りに応えよ。誓いの熱は絶えることなく、魂を焦がす焔とならん――この想いに応じ、紅蓮よ刃を抱け!」


 彼女の手から放たれた紅い炎が、まるで恋人に手を伸ばすかのように、リーナの剣に吸い込まれる。


 ぱあっと、剣が紅蓮の輝きを放つ。


 リーナは、その光に目を細めながら微笑むと、すっと剣を構えた。


「……ありがと! ミレイ」


 そして、一歩、彼女も前に出る。

 剣を天に掲げ、リーナが口を開いた。


「風よ――我が名に応じて流転せよ。天を駆け、地を翔け、刃と踊る舞となれ。共に燃え、共に裂き、共に進む力を――この紅蓮の刃に宿りて、嵐と共に斬り裂け……!」


 空気が震えた。

 風が吠える。


 炎に包まれた剣に、今度は風が絡みつく。

 赤と青、炎と風――相反する2つの力が、彼女たちの手の中で完璧に調和する。


「双刻剣・烈風焔舞――!!」


 その瞬間、リーナの姿が消えたかと思うほどの速度で跳躍。風に乗り、炎に導かれ、剣がギガコッコを一直線に貫いた。


 ――ドンッ!!


 爆風と轟音。舞い上がる羽毛と火の粉。


 すべてが静まり返ったあと、地面に残されたのは、黒焦げになったギガコッコの巨体だけだった。


 しん――と静まり返った空気の中、リーナは剣を納め、ミレイの方に小さく手を振る。


「ナイス、ミレイ」

「当然でしょ?」


 二人の目が合い、にこっと微笑み合う。

 並んで立つふたりの間には、言葉では表せない絆のようなものがあった。


 私とエニは――


「ぽかん……」

「……ぽかん」

「モフン」

 

 ついでにフェロルも同じリアクションをしていた。


(これが、星4冒険者……!?)


 さすがに、ちょっと次元が違うというか……いや、エニもすごいけど、これは本気でスゴいやつ!

 映画を見たあとみたいな余韻に浸りながら、私たちは村に入り、ギガコッコの討伐を報告した。


「おお! 旅人の嬢ちゃん達久しぶりだな」


 前に私たちが村を出る時にパンをくれたおじさんがうんうんと頷く。この人がどうやら村長らしい。言われてみれば貫禄がある。

 

「おかげさまで無事に首都に着きました」

「え!? とーこちゃん達来たことあるの?」

「首都に来る途中に魚とりすぎて、この村で買い取って貰ったんです」


 あとは、エニの甘噛みする理由を知ったのもこの村。言わないけど。

 

「ギガコッコ……家畜として飼ってるところもあるってほど普段は大人しい魔物なんだが……縄張りを追われたのかもしれねぇな」

「明日、周辺を見回りしてみます」

「そうしてくれると助かる」


 リーナの言葉に村長はふっと表情を緩めた。

 私は広場にいるエニに視線を向ける。

 

 子供たちに追いかけられているエニ。しっぽをひらひらさせながら、笑顔で逃げている――というか、ほぼ捕まってる。

 そのすぐ後ろを、ふさふさのフェロル2頭がぽふぽふと走っていた。大きな体を揺らしながら、子供たちの後ろをぴょこぴょこと跳ねるように追いかける姿は、まるで大きなぬいぐるみ。子供たちも「フェロルー!」と名前を呼んで、尻尾を掴もうとしたり、お腹に抱きついたりと大はしゃぎ。


 フェロルはそれがまんざらでもないらしく、「モフ」と鳴きながら、たまに軽く前足で地面をトントンして遊びのリズムを取っていた。

 エニが振り返って「つかまっちゃうよ〜」と笑えば、フェロルはわざと子供たちの前に立ちふさがって止まってみせたり、エニの逃げ道を作ってあげたりと、完全に遊びの輪に入っていた。


 もう、可愛いが渋滞してる。


「エニー! ご飯だよー!」


 エニに声をかけると子供たちから「えー」と抗議の声が上がる。エニが子供たちに向けて何かを言うと子供たちが納得したらしい、それぞれが家に戻っていった。


「なんて言ったの?」

「……また明日ねって」

「……そっか」


 私はエニの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「わっ! なに」

「んーん、なんでもない」


 なんでもない、けど――


 子供たちに囲まれてるエニの姿を見て、なんだか、ほっとした。

 あの日ギルドで傷ついて、しばらく無理をさせてしまった気がしてたから。

 でもエニは、ちゃんと自分の言葉で、ちゃんと周りと関われてる。

 それが、嬉しくて、ちょっとだけ誇らしくて。

 なのに、どうしてだろう。

 胸の奥が、きゅってなる。

 考えるのは後にしよう。今はご飯食べなきゃ!


 私たちはそのまま宿屋に案内された。

 広間には大きなテーブルが用意されていて、すでにギガコッコの肉を使った料理が並んでいる。

 焼きたての香ばしい匂いが広がって、思わずお腹が鳴った。


 エニがギガコッコの肉に夢中になっている中、ふと顔を上げると、リーナが自分のスプーンをミレイに差し出していた。


「ほら、ここの味付け、ちょっと変わってて美味しいよ。食べてみて?」

「ん、ありがと」


 ミレイはためらいもなく、そのままぱくりと一口。リーナはそれを嬉しそうに見つめていて、ミレイの口元を指先でそっと拭う。


「ソース、ついてた」

「……ありがと」


 二人の間には、言葉以上の空気があった。目と目で通じ合ってて、しかもそれを当たり前にやってる感じ。あれは確実に、長く一緒にいる人同士じゃないとできない距離感だ。

 

「ね、リーナとミレイって」

「ん〜?」

「付き合ってるの?」


 リーナは少し照れたように微笑む。


「やっぱりわかっちゃうか〜」

「隠すつもりなかったけど、言われるとちょっと照れるわね……」


 二人は肩を寄せ合って、微笑みあっている。


「え! やっぱり! どっちから告白したんですか!? 私、そういうの気になります!」


 勢いよく身を乗り出す私に、エニがちょいちょいっと服のすそを引っ張ってくる。


「とーこ、ちかい……」

「……でも、気になるじゃん!」


 リーナが照れくさそうに笑いながら、ぽつりと呟いた。


「……私から、ね?」

「ええ。その時は、少し驚いたけど、でも嬉しかったの」


「……うわぁぁ~~~~、いい~~~!!!」


 完全にテンション爆発して、私は思わずエニの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 エニは困ったように笑っていたけれど、その尻尾はぴょこぴょこ揺れていて、なんだかちょっと嬉しそうだった。


「今日は夜遅くまで恋バナ付き合ってもらいますよ!」


 エニは呆れたようにギガコッコの肉を頬張る。


(あ、それ私のお肉)

 

 エニはこういう時、言葉じゃなくて態度に出る。

 私がリーナたちと盛り上がってたから、ちょっとだけ、自分の方を向いてほしかっただけなんだろう。


 さっきまでゆらゆら揺れてたエニのしっぽがわかりやすくピタリと静止している。


(……エニ、さっきからちょっと静かだったもんね)

 

 私はそっとテーブルの下で、エニの手を探した。

 ちょっと硬く握られてる拳。そっと指先でなでると、エニはちらりと私を見上げた。

 目が合った瞬間、彼女の耳がぴくりと動く。


「なに?」

「ん~、このお肉、エニのも食べたい」


 エニは少し驚いたように目を丸くした後、自分の皿から一番いい部分を私のために取り分けてくれた。


「……どうぞ」

「ありがと」


 私はエニが選んでくれた肉を口に入れると、大げさに「美味しい!」とリアクション。彼女の顔に小さな笑みが戻ってきた。


 私は笑って手をエニの頭にぽんっとおくと、彼女はほんの少しだけ、口元をゆるめた。

 彼女のしっぽが、また少しずつ動き始める。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 魔法の詠唱考えてるとき、だいぶ楽しいです。

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