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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第45話 「牧歌的な旅、終了のお知らせ」

本日もよろしくお願いします。


ちょっと文字数多いです。

 フェロルの背中に揺られながら、私は何度も深呼吸をした。草原を吹き抜ける風がほんのり甘く感じる。

 見上げれば、雲1つない青空がどこまでも広がっている。遠くで鳥の鳴き声がして、フェロルの足音はぽふぽふと土を踏みしめる。まるで夢の中にいるみたいで、私はなんだかふわふわとした気持ちになっていた。


 エニは、リーナの背中じゃなくて、フェロルの体毛にしがみつくようにぴったりと抱きついていた。身体がまるごと毛の中にうずもれていて、たまにぴくりと揺れる尻尾だけが見えている。


 その後ろ姿が、あまりに愛おしくて。

 まるで、もふもふに包まれて安心しきった子どものように見えた。


 どんなに強くても、どんな魔法を使えても。

 エニは――私の、大事な相棒で、大切な女の子なんだって。今の抱きついてる感じはちょっとだけ女の子っぽくないけども。


「ふわぁ……なんか、眠くなる……」

「寝ちゃだめよ、リーナはそれでフェロルから落ちたことあるんだから」

「ちょっとミレイ!」

 

 少し前を行くリーナが振り返った。


「ホントのことでしょ?」

「たしかにこれは眠くなっちゃいますねー」


 笑いながらリーナに突っ込むと、ミレイは「私は絶対に寝ないから安心して」ときっぱり断言していて、妙に真面目なその姿勢にちょっと笑ってしまった。


「エニは大丈夫ー? 眠くない?」

「……………………」


 あれ?


「エニちゃん寝てる〜」


 リーナが後ろに乗ってるエニを見てケラケラと笑う。昼に起きたのにまだ寝るの!?

 さすがに途中で休憩を入れることになり、私たちは柔らかい草の上に腰を下ろした。

 

 おやつがあるよと、リーナに起こされたエニはフェロルの横にぺたんと座り込み、ふわふわの体毛を撫でている。


「モフ~」


 フェロルが小さく鳴いた。

 いや、鳴き声「モフ」なの!? かわいすぎるんだけど……。


 私は感動していたが、エニはそれどころではないらしい。


「……え? どこ? こっち?」

「モフ」

 

 エニがフェロルのお腹の周りを撫で回し始めた。


「エニ、今……フェロルと話してるの?」

「……うん。ちょっとお腹のとこに草が入ってて、かゆいって」

「え!? エニちゃんフェロルとお話出来るの?」


 リーナが素で驚いた声を上げる。

 ミレイも目を丸くし、フェロルの前にそっとしゃがみ込み、わしゃわしゃと撫でる。


「モフ」

「……なかなか撫でるの上手いねって言ってる」

「ふふっ、だいぶ上からね」

「よーし私も!」


 リーナはもう1頭のフェロルのほうへ向かいわしゃわしゃと撫でた。


「……モフー」

「エニちゃん、なんて?」

「全然なってないって」

「がーん!」


 うなだれてるリーナを見て、すんごいどや顔のミレイ。


「まだまだねリーナ」

「くっそー」

 

 エニはフェロルの前足をやさしくなでながら、小さく笑っている。

 ギルドでの出来事以来、少し元気がなかったから、笑ってるところ見ると、少し安心する。


「モフ」

「……だいじょうぶ。しばらくしたらまた歩くけど、今は休憩中」

「……モフ」

「うん……うん、こっちの人はみんな優しいよ」

「モフモフ」

「え? 別にいいよ」


 まるで、親しい友だちと他愛もない会話をしているみたいだった。けれど、その姿があまりに自然で、思わず胸がじんわりとあたたかくなる。

 なぜかフェロルがエニの尻尾をそっと触ってる。そんな会話してたのかな?


「エニ、何話してるの?」

「……尻尾触っていい? って聞いてきた」

「へえ」


 私はエニの隣に座り、彼女の尻尾をそっと指でなぞる。

 

「私も触っていい?」


 柔らかい銀色の毛並みが指先を通り抜ける感触。エニのしっぽが私の手のひらにそっと巻き付くような感覚。


「くすぐったい?」

「……ちょっと」


 エニの尻尾と私の指が絡み合う。そんな何気ない触れ合いが、心地よくてたまらなかった。

 そのあと、私たちはリーナからもらったおやつを片手に草の上でひと休み。フェロルはエニのそばでのんびりと毛繕いをしている。


「フェロルに荷車をつけて引いてもらうこともできるのよ。専用のハーネスがあって、負担が少ない構造になってるの」

「へえ……旅が本格化したら、そういうことも考えなきゃかも」

「モフ」

「……背中に乗ってもらうほうが好きだって」

「やだ……フェロルかわいい……!」


 リーナが両手を合わせてうっとりとした目でフェロルを見つめる。

 そんなリーナを見てたミレイの顔が一瞬曇ったような……?



 わいわいと話す空気の中、私はふと草の上に寝転んだ。青空はどこまでも広がっていて、雲がすぅっと流れていく。

 私は目を細めながら、フェロルとエニの様子をちらりと見る。


(こういう移動手段もありなんだな……)


 今は首都でのんびりしてるけど、いずれ旅を再開したら、装備や食料を積める手段も必要になる。

 荷車を引けて、背中にも人を乗せられて、おまけに癒し系で。フェロル、めっちゃ優秀じゃない……?


「一緒に旅したいくらいだよ、ね、エニ?」

「……ねえ、旅したい?」


 エニはフェロルに向かって話しかける。


「モフ」

「嫌だって」

「え!? なんでさ!」

「……モフ」

「仲間が寂しがるから、旅には出たくないって」

「優しっ……!」


 私は思わず、フェロルに抱き着く。

 

「さてさて! おやつも食べたし、そろそろ出発しますか!」

「……おやつ、食べてない」

「えっ!? エニちゃん!? さっきのクッキーどこいったの!?」

「……この子たちに半分ずつあげた」

「エニはいい子ね」


 リーナとミレイにもう1つクッキーをもらってるエニを見て、私は呆れながらも笑ってしまう。エニ、カバンの中に大量に干し肉入れてるのに……。


 私たちは再びフェロルに乗る準備を始めた。


「今度は、とーこちゃんが前で、エニちゃんが後ろに乗ってみる?」


 リーナの提案に、私はちょっと驚いた。


「え、私が前?」

「とーこちゃんなら大丈夫!」

「リーナと違って寝ないしね」

「まだ言うか……ミレイ〜……!」


 2人はどっちが前に乗るかギャーギャー言い争いながら、もう1頭のフェロルに向かった。どうやらリーナが前らしい。

 

「……大丈夫、あたし、落ちない」


 エニがぼそりと呟いたけど、しっかりと私の服のすそを掴んでいた。


「じゃあ……やってみよっか」


 私はフェロルのふわふわな体を前にして、ちょっとだけ首を傾げた。


「……えっと、フェロル? 乗りたいんだけど、ちょっと高くて……もう少し、かがんでもらえると嬉しいんだけどな〜……」


 フェロルに人間の言葉が通じるかわからない。でも、もしかしたら、って期待しながらお願いしてみた。

 そのとき。


「……モフ」


 フェロルが小さく鳴いた。


「……いいよって。ちょっと待ってねって言ってる」


 すぐ隣でエニがぽつりと訳してくれた。


「え、通じた!? すごっ!」


 私が驚いてる間に、フェロルはふわりと前足を曲げて、地面にぐっと体を沈め「モッフ」と鳴いた。まるで優雅なお辞儀みたいな動作だった。


「うわ……やさしい……!」

「……乗っていいって」

「ありがとう、フェロル……!」


 私はもふもふの体毛に手を添えて、そっとよじ登る。乗った瞬間、ふわっとした安心感に包まれた。


「じゃあ、エニ、次は後ろね」

「うん」


 エニが私の後ろに乗り込むと、すっと両腕が私の腰に回される。背中にぴったりくっつく感触がちょっとだけくすぐったくて、ちょっとだけ嬉しかった。

 

「大丈夫? しっかりつかまってね」


 エニの体温が背中から伝わってくる。フェロルが動き出すと、彼女の腕がぎゅっと私の腰を締め付けた。その感触に、なんだか安心感と同時に、胸がドキドキする感覚。


「行こう、フェロル」


 私がそう言うと、フェロルはゆっくりと歩み始めた。揺れる度に、エニの頬が私の肩に触れる。彼女の銀色の髪が風になびいて、時折私の首筋をくすぐる。


 旅の景色よりも、背中のぬくもりの方が何倍も感じられた。


 

「おーい、そろそろ村が見えてきたよー!」


 前を行くリーナが手をかざして、木立の向こうを指差す。私も思わず顔を上げ、まばゆい日差しの中に目を凝らす。


 木々の隙間から、こじんまりとした屋根がちらちらと見えていた。

 茶色い瓦と白い壁、煙突からは薄く煙が上がっていて、どこかのんびりとした空気が漂っている。


「あ……あそこ……」


 見覚えのある風景。懐かしいあの道、あの森――


「エニ、覚えてる? 首都に向かう前に寄った、あの村だよ」

「……うん。覚えてる。子どもたちが……いっぱい走ってきた」


 エニは、前の道をじっと見つめたまま、しっぽをふわりと揺らす。

 その揺れ方が、あの時の楽しさを思い出してるみたい。


「あのとき、エニが疲れて動けなくなってたの覚えてる?」

「……子供たちの体力凄かった」


 そんな他愛もない会話を交わしながら、フェロルの歩みはゆっくりと森を越えていく。

 穏やかで、のどかで――ほんの少し、安心する景色。


 ……だったのに。


「ケエェェェッ!!」


 突然、鋭い鳴き声が空気を裂いた。

 全員の体がぴたりと止まる。風の音すら止まったような、静寂が落ちる。


 音のした方向――草むらの奥から、ばさばさと羽音が響いてくる。

 地面を踏みしめる音。けれど、それは“飛んでくる”のではなく、“走ってくる”音だった。


「あれ……! 鳥? いや……でっか……」


 次の瞬間、姿を現したのは、羽を大きく広げた――巨大な鳥型の魔物。


 だが、それはただの鳥ではなかった。

 羽根の隙間から覗く筋肉質な足、地面を蹴る力強さ、そのスピード。


「ギガコッコ……!」

 

 ミレイが呟いた。

 私は思わず叫びそうになるのを必死で飲み込む。


 でけえニワトリだ――!!!

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 三章も終盤に差し掛かってきましたね。

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