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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第44話 「旅に出るなら、もふもふ必須!」

本日もよろしくお願いします。


ニケの2.5周年やらなきゃ。ヘブバンもやらなきゃ


 ――ぶるぶるぶる、ぶるぶるぶる。


 枕元で、ガラケーが震えていた。

 私はその音で目を覚ます。重たいまぶたを押し上げると、部屋には柔らかな光が差し込んでいた。


「……んぅ……だれ……」


 ガラケーに手を伸ばし、開く。画面に表示された名前は――


『リーナ』


「えっ」


 急いで通話ボタンを押す。


「もしもし! とーこです!」

「おはよう、とーこちゃん! あ、エニちゃんは起きてる?」


 明るいリーナの声が響いてきた。私は隣に視線をやる。

 エニは布団に潜り込み、耳だけちょこんと出してた。布団をめくると器用に丸くなって、スースーと寝息をたてている。


「……んー、まだ寝てる」

「え? もう昼だよ~?」


 リーナの笑い声に苦笑いを返しつつ、私はガラケーを握り直す。


「実はね、とーこちゃんたちに依頼の手伝いをお願いしたくて連絡したの」

「えっ、私たちに……?」

「うん、詳しいことはギルドで説明してくれるから。先に行ってるね~!」

「え、ちょっと待って、星4の依頼に星1の私たちが行ってもいいの……?」

 

 ぴっ。

 通話はそれだけで終わってしまった。

 私はぽかんとしながら閉じたガラケーを見つめた。


「行くしかないか〜」


 エニはあんまりギルドに行きたがらないけど、リーナのお願いだし……。

 

「エニ、起きて。エニ~、起きて~~」


 私は布団の中のエニを優しく揺さぶる。もぞもぞと動いたと思ったら、顔を出したエニがぼんやりと目をこすりながら、私を見上げてきた。


「ん……まだ寝てたい……」

「今日、リーナが依頼手伝ってって。準備してギルド行こ?」

「……えぇ~……」


 乗り気じゃないエニのしっぽをなでながら、私は朝(というか昼)の準備を始めた。

 ギルドに到着すると、すぐに受付にいたリディアさんが手を振って迎えてくれた。


「おはようございます♪ とーこさん、エニさん! リーナさんたちから聞いてますよー」

「えっと、リーナ達の依頼って私たちが行ってもいいんですか? その、難易度的に」

「もちろん大丈夫です! 難易度の高い魔物でもおふたりが対応できるってギルド内でも話題になってますし、リーナさんとミレイさんも推薦してくれてます!」

「えっ……私たちってそんなにすごかったの……?」

 

 リディアさんはにこにこしたまま、手元の書類に目を落とす。


「今回の討伐対象は、首都近くの村で目撃されたギガコッコ2体です。普段は比較的大人しい種なのですが、村の近くまで来ていて、住民の方々が不安がっているようです」

「普段は大人しい……?」

「はい。なので、凶悪な魔物に縄張りを追い出された可能性や、最近話題になっている“赤い目の厄災”の影響も考えられます。念のため、4人での対応になりました」


 赤い目の厄災。そういえば、ギルドでシルヴィアさんが焔幻の尾の討伐証明を持ち帰ったときにも、その話が出ていた。


「南門の厩舎にフェロルが用意されてます。リーナさんとミレイさんが先に行って準備しているはずです。フェロルの騎乗経験はおありですか?」

「その……フェロルって何です?」

「ふふ、じゃあ行ってみてからのお楽しみです♪」


 リディアさんに見送られギルドを後にした私たちは、南門の近くにある厩舎へと足を運んだ。

 首都に来てからというもの、何かとこの南門を利用することが多くて、なんだかもう馴染みの場所って感じすらしてきた。


「来た来た! とーこちゃーん! エニちゃーん!」


 手を振ってくれたのは、すでに準備を終えていたリーナ。その隣には、きっちりとした旅装束に身を包んだミレイもいる。


「おはようございます……って、え?」


 私の目に飛び込んできたのは――想像を軽く超える、もふもふの塊。


 体格は馬と同じくらいだけど、毛並みはもっとふさふさで、くるんと巻いた大きな尻尾が左右に揺れている。

 体毛は淡いクリーム色で、陽の光を反射してふわりと輝くように見える。ぱっちりした目は優しくて、耳はうさぎのように長く、ぴくぴくと動いていた。


「なにこれ……?」

「フェロルだよ。長距離移動用に改良された騎獣。性格はおっとりしてて人懐っこいし、こう見えて走ると速いんだよ~」


 リーナが自慢げに鼻を鳴らす。フェロルと呼ばれたその生き物は、ぬいぐるみのようにモフモフな前足を軽く地面に踏みつけて、のんびりとこちらを見つめていた。


「うわあ……かわいい……」


 エニがぽそりと呟いた。興味津々でフェロルの前に歩み寄り、そっと毛並みに触れる。指が埋まりそうなほど柔らかそうで、エニのしっぽもふわふわと揺れていた。


「初めてだから、ふたりは後ろに乗ってもらう形で行こうか。エニちゃんは私の後ろに、とーこちゃんはミレイの後ろにね」

「わ、わかった……けど、乗れるかなこれ……」

「乗るときは支えるから安心して」


 ミレイが手を差し出してくれて、私は少し照れながらそれを握る。フェロルの背中に飛び乗ると、フェロルの体毛は見た目以上に柔らかくて、思わずぎゅっと抱きつきたくなるくらい。


「とーこ、見て……!」


 隣では、リーナの後ろにちょこんと座ったエニが嬉しそうに手を振っている。ふわふわの毛にうずもれて、まるでエニまでぬいぐるみみたいだった。


「うん、いいじゃん……」


 私は思わず呟いた。


「じゃあ、行こうか!」


 リーナの号令で、フェロルたちはゆっくりと歩き出す。


「わっ!」


 私はバランスを崩して、思わずミレイの腰に腕を回して抱きついた。


「大丈夫?」

「は、はい……!」


 隣のフェロルでも、エニが同じようにリーナにしがみついている。目があった私たちは、思わず笑顔を交わした。

 

 蹄の代わりにふわふわの肉球で地面を踏みしめる音は柔らかく、移動中の揺れもとても穏やかだった。

 こんな移動手段があるなんて、やっぱりこの世界ってすごいなって思う。


 街を抜け、ラガンさんに手を振り、シルバーファングの加護を受け、南門を越えれば、すぐにのどかな草原地帯へと景色が変わっていく。

 どこまでも続く青空と草の香り。フェロルの温もりと、エニ。こうしてまた、新しい冒険が始まったのだった。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


エニ「今日寒い?」

とーこ「今日は暖かいよ」

エニ「昨日買った服いらない?」

とーこ「帽子だけでもカバンに入れてったら?」

エニ「入んない」

とーこ「え!?」

エニ「干し肉入ってる」

とーこ「ああ、じゃあ私のリュックに入れとくよ」

エニ「干し肉を?」

とーこ「エニの帽子を」

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