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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第1章 狼の耳としっぽ、そして旅立ち
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第4話 「こういう時は宴って相場が決まってるんだよ」

本日もよろしくお願いします。

 村の中央で、巨大な焚き火が勢いよく燃え上がっていた。炎は赤から橙へとゆらめき、夜空へと昇っていく。

 焚き火を囲むように村人たちが集まり、笑い声と賑やかな話し声が絶えなかった。


「……すっごい光景だね」


 私は焚き火の中心に豪快に吊るされたタイガーベアの丸焼きを見上げる。

 昼間、思いのほか吹き飛ばしてしまったやつだ。

 ジュウジュウと脂の落ちる音が響き、香ばしい匂いが辺りに漂っていた。


「とーこ、もう大丈夫なの?」


 エニがタイガーベアの串焼きを両手に持ち、私の隣にちょこんと座り込む。

 彼女の銀色の耳がピコピコと動き、ふわふわの尻尾も元気を取り戻していた。

 その仕草は、まるで子猫のように自然で愛らしい。

 

「……なんとかね。それよりもさ、この世界に魔物がいるなんて聞いてないんですけど?」


 私は焚き火に当たりながら、苦笑する。

 村人たちが「本当にありがとう!」と何度も声をかけてくれるのが、なんだかくすぐったい。


「あんなに大きいの、あたしも初めて見た」


 エニは、もっちゃもっちゃと串焼きを頬張る。

 尻尾がゆらゆら揺れていて、完全にリラックスモードだ。


「昼にご飯食べたばっかりなのに、よくそんなに食べられるね……」

「……別腹」


 エニが真顔で即答する。

 どこで覚えたの、その概念。



「まさかこんな大きい魔物を吹き飛ばすなんて……!」

「すごい魔法だったなあ」

「今まで出た魔物なんて、せいぜいウサギくらいのサイズだったのに……」


 村人たちが口々に驚きの声を上げる。


「……エニも頑張ったね。ありがと」


 私は彼女の頭をそっと撫でる。

 さっき聞いた話では、私がタイガーベアに向かっている間、村には小型の魔物も入り込んでいたらしい。

 エニははぐれて泣いていた子供を抱えて、一緒に逃げ回っていたんだとか。


「……うん」


 エニは小さく頷き、平静を装っている。

 けれど、ぶんぶん揺れる尻尾は実に正直だった。


「あんたたち、ここにいたのかい!」

 

 突然の大きな声に、私は顔を上げる。

 昼間、村の広間で野菜を売っていたおばさんが満面の笑みを浮かべながら駆け寄ってくる。


「あんたたちのおかげで村が救われたよ  村長として改めて礼を言わせてくれ。ありがとうね!」

「えっ、村長?」

「そうさ。ただの野菜を売ってるおばさんじゃないってことさ。マーサって呼んでおくれ!」


 私が驚いていると、マーサさんは豪快に笑い、腰に手を当てて堂々と立っている。


「……村長が広場で野菜を売ってるって、普通なの?」

「……村によるんじゃない?」


 エニはもぐもぐとタイガーベアを頬張りながら、あっさり言った。

 

「それでね、あんたたちにぜひお礼がしたいんだよ!」

「お礼?」

「ほら、この魔物の毛皮が余ってるのさ。あんたたちの服を作ってあげるよ!」


 マーサさんは焚き火のそばに積まれた黒々とした毛皮を指差した。


「丈夫で温かくて最高の服になるよ!」

「……非常にありがたい話なんですけど、私たち、服を買うお金も宿に泊まるお金もなくてですね……」

「何を言ってるんだい、村を救ってくれた人からお金を取るわけないだろ!」

「そんな、良いんですか?」

「良いに決まってるよ!」

 

 マーサさんが豪快に笑いながら、私たちの服をじろりと見て言った。


「それに、あんたたちの服、ボロボロじゃないか!」


 改めて自分たちの服を見下ろす。

 確かに、汚れや傷が目立ち、生地もところどころほつれている。


「ま、言われてみれば確かに……」

「服は1週間くらいでできるから、その間、この村でゆっくりしていきな。代わりの服も準備しておくし、宿もタダで泊まれるように、宿屋の店主に言っておくからね!」


 マーサさんが豪快に笑うと、周りの村人たちも口々に同意の声を上げた。

 私の袖をちょんちょんと引くエニ。


「……いいの?」

「いいって言ってくれてるんだし、甘えておこう?」


 私が笑いながら言うと、エニは少しだけ考え込んでから、こくんと小さく頷いた。


「服のことだけどね、どんなデザインがいい?」

「えっ、デザイン?」


 私は思わずエニの方を見る。エニは串焼きを食べる手を止め、真剣に考え込んでいる。


「……動きやすいのがいい。あと……尻尾をちゃんと出せる穴があると……いい」

「おお、それは良いアイデアだ!」


 マーサさんは楽しそうに手を打つ。


「じゃあ、エニちゃんのは獣人仕様の服にして、塔子ちゃんのは……」


「私も動きやすいのが良いです」

「尻尾を出せる穴は必要かい?」

「いらないです!!」


 村人たちの笑い声が焚き火の熱とともに広がる。

 エニの耳がピココと動き、尻尾が楽しそうに揺れる。

 

「……なんだか、いい村だね」


 エニがぽつりと呟く。

 その声には、かすかな安堵が混ざっていた。

 

「うん、本当に」


 焚き火の温もりが、私たちの心までじんわりと温めていく。

 こうして、私たちはしばらくこの村で過ごすことになった。

 でも、私たちの旅はまだ始まったばかり。いや、旅は始まってすらいないか――

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

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