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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第43話 「エニのファッションショー!!」

本日もよろしくお願いします。

 首都の朝は冷たい風が吹き始めていた。

 シルヴィアさんが"赤い目の存在"について報告してから、一週間が経った。


「あいつら、もういないですよ」とリディアさんは教えてくれた。

 あの日、エニに差別的な発言をした三人組の男たちは、冒険者資格を剥奪されたという。


 それでもエニはギルドに行きたがらない。「行かなくていいなら、行きたくない」と小さく呟いたエニの言葉に、私は何も言い返せなかった。

 

 無理もないけど、それでも旅は続く。旅してないけど。

 たぶん宿屋暮らしって旅じゃないよね?


 

 これから先、もっと寒くなるだろうし、防寒具は必需品。それに少しはエニの気分も変わるかもしれない。そう思って、私はある提案をしてみた。


「エニ、ちょっと防寒具見に行かない? これから寒くなるし、旅するにも必要でしょ」

「……とーこが行きたいなら、ついてく」

「違う違う、そうじゃなくて。今日はエニのために可愛い服、たくさん選ぶ日です!」


 そう言ってにっこり笑うと、エニは一瞬ぽかんとした。


「……あたしの服?」

「そう!」

 

 私たちは宿を出て、商店街の一角にある服飾店へ向かう。

 石造りの壁に木の看板がかかっており、ディスプレイには秋冬物のマントやコートがずらりと並んでいる。


 そして――中に入ると、紫のシャツにオレンジのスカーフを巻いた、ばっちりメイクのおしゃれな店員さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃ〜い! あら~、可愛いお客さまが二人も!」


 満面の笑みで両手を広げて近づいてくる店員。見たらわかる、オネエだ。

 私はちょっとたじろいだが、エニはその勢いに完全に飲まれていた。


「こ、こんにちは……」

「まぁまぁまぁ〜! その銀髪にその耳にしっぽっ! 最高に可愛いじゃない! 私、獣人の子に会うの初めてだわ〜!」


 店員さんはプロフェッショナルだった。少しかがんで目線を合わせながら、優しく話しかけてくれる。


「今日は、この子のための防寒具を探しに来たんです」

「なるほどなるほど〜! それなら、まずは何着か試してみましょ。試着室はこっちよ!」


 そうして連れていかれたのは、奥にある試着ブース。大きな姿見と厚手のカーテンがあり、落ち着いて着替えられる作りになっている。


「はいはい、これとか〜! これも可愛いし〜! これもイケると思うのよねぇ!」


 店員さんが次々と持ってくる服に圧倒されながらも、エニは黙って一枚を手に取った。もこもこのファー付きケープコート。それを大事そうに抱えて、カーテンの向こうに入っていく。

 私は椅子に座ってワクワクしながら待つ。


「……とーこ」


 エニがひょこっとカーテンを開けて顔を出した。


「どう、似合う……?」


 そこには、真っ白なファーのケープを肩にかけ、頬がほんのり赤くなったエニが立っていた。


「か、かわいい……!」


 反射的に口から出た言葉に、エニがちょっと目をそらす。


「……そっか」


 ――いや、そっかじゃない! もっと盛り上がるべきでしょ!


「店員さん! ほかの服もお願いします!」

「は〜い! 私に任せて! この子の魅力、最大限に引き出してみせるわ!」

 

「とーこ、どう……?」


 カーテンがめくれ、エニが一歩踏み出す。

 着ていたのは、淡いミントグレーのコート。

 内側があったか素材で、外側は防水加工が施された機能的な一着。


「う、うわ……」


 私は言葉を失った。いやもう、本当に――。


「かわいすぎるでしょ……!!」


 思わず立ち上がって叫んでしまった。


「ふふっ、でしょでしょ〜? この子のために選んだんだから、可愛いに決まってるじゃな〜い♪」


 店員さんが両手を頬に当ててうっとり。


「エニ、ちょっと回ってみて!」

「……こう?」


 くるっと小さく回るエニ。ふわりと揺れるコートの裾。か、かわいい!


「……っ!」


 店員さんが感極まって、床にひっくり返った。


「なにこれ! 私、今天使見た!?」

「ちょ、店員さん!? しっかりして!」

「だいじょうぶよ……尊さで浄化されただけよ……」


 エニはというと、顔を赤くしてそっとこちらを見る。


「……あたし、似合ってる?」

「うん、超似合ってる。エニは何着ても可愛いよ」

 

 試着が何着目かに差し掛かったころ。


「……とーこ」


 またカーテンがそっと開いて、エニが顔を出す。


「次のも着てみたんだけど……どう?」


 ひょこっと出てきたエニを見て、私は一瞬思考が停止した。


「――えっ!?」


 黒と赤の鋲がついた、重厚なレザーのロングコート。肩には金属のスパイク風飾り、足元はごついブーツで完全武装。

 まるでどこかの闇ギルドの幹部みたいだ。もしくは子供向け番組の敵キャラ。尖ったサングラスとか掛けたら、もうそれ。


「な、なんでそれ選んだの!? どうした!? さっきまで天使だったのに!!」


 私が思わず叫ぶと、エニはちょっとだけ困った顔をして、つぶやく。


「……店員さんが、これもギャップで映えるわよ〜! って……」

「ギャップありすぎ!」


 店員さんは横でうっとりと手を組んでいた。


「いや〜もう最高よね……あのあどけないお顔にこの装い……あたし鳥肌立っちゃった……!」

「ダメです!」


 エニはロングコートの裾をそっと持ち上げながら、ちょっと困ったように私を見る。


「……ちょっと重い」

「だよね!」


 勢いよくうなずいた私は、急いで店員さんに次の候補をお願いしたのだった。

 それからというもの、店員さんの全力スタイリングのもと、エニは3着、4着と次々に着替えていった。


 最終的に選ばれたのは――。


 アイスブルーのファー付きミドル丈ケープコート。薄い灰色のもこもこ帽子。

 防寒具としてバッチリの一着だった。


「……ありがと」


 エニがそっと店員さんに頭を下げる。


「どういたしまして♪ その姿で旅してたら、どこ行っても人気者間違いなしよ〜!」


 店員さんに手を振られながら、私たちは店を後にする。

 通りに出たとき、エニは私の袖をきゅっと掴んだ。


「とーこ」

「ん?」

「……この服、いいね」

「これで、寒くなっても大丈夫だね」

 

 ふと、彼女が自分の帽子を両手で軽く押さえる。


「この帽子……耳、ぴったりであったかい」

「耳の形に合わせてフィットするように、店員さんが調整してくれたんだよ」


 灰色のもこもこ帽子は、外見はシンプルなのに、エニの耳が自然な形ですっぽり収まっていた。

 しかも、耳の内側にだけ少し厚手の裏地が入っていて、風を通さないようになっている。機能性もバッチリ。


「……あったかい」


 帽子をくいっと深くかぶったエニは、ほくほくと嬉しそうだった。


「……とーこは服買わないの?」

「…………確かに! 戻るよエニ!」

「おわっ……!」


 私はエニの手を取って、再びお店の方へ引き返す。私たちは笑い声を交わしつつ、再びおしゃれな店の扉を開けた。


「あら~、戻ってきたわね~ やっぱりあたしのセンスに惚れちゃった?」

「実は私も防寒具が必要だなって」

「まぁ! そりゃそうよね~! ペアルックにしちゃう?」


 オネエ店員さんは目をキラキラさせながら、早速私用の服を次々と取り出し始めた。


 結局、私はエニとは少し違う、深い青のケープコートを選んだ。エニのアイスブルーと並べると、まるで空と海のようなグラデーションになる。


「……おそろい?」

「うん、おそろいだよ」


 エニは少し満足げに頷いた。


 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


とーこ「あのオシャレなお店にあんな服があるなんて……」

エニ「ちょっと良かった」

とーこ「……まじ?」

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