第40話 「思ってたより優しい世界なのかも」
本日もよろしくお願いします。
気が付けば40話……。ずいぶん遠くにきてしまった。
三章まだまだ続きます。
翌朝、私たちはギルドへ向かった。
晴れた空の下、エニはご機嫌そうに尻尾をふりふりさせながら、いつもより少し軽やかな足取りで歩いていた。多分外出れて嬉しいんだと思う。まるで散歩を楽しみにしていた子犬みたい……。
「今日は、魔物と戦うんだよね?」
「うん。私たちが戦えるちょうどいいのあるといいなあ」
ギルドの扉を開けると、朝の時間帯のためか、受付にはまだ人が少なかった。
「おはようございます!」
私がカウンターに駆け寄ると、受付にいたのはリディアさんだった。
いつもと同じ、くるんとした赤色の髪に清潔感のある制服姿。
「おはようございます♪ 用件をお伺いします」
「私たちでも倒せそうな日帰りで行ける魔物討伐の依頼あります?」
リディアさんはカウンターの下から依頼票の束を取り出し、慣れた手つきでぱらぱらと確認する。
「そうですね……、この辺りがちょうどいいかも!」
そう言って差し出されたのは、【魔物:草原ヒビヘビ】の討伐依頼だった。
「これは、草原ヒビヘビという大型の爬虫類系魔物です」
リディアさんは依頼書の隅にある挿絵を指さした。鱗で覆われた長い胴体を持つ蛇のような姿だが、背中には草のような突起物が生えている。
「毒はありませんが、かなり巨体で家畜が丸呑みされるという被害が最近多発してます。特徴は背中の草のような突起物で、これが周囲の草原や森に完璧に溶け込むカモフラージュになるんです。突然地面から飛び出してくるので、農家の方々は本当に困っているようです」
リディアさんは地図を取り出し、指で場所を示した。
「対象は1体、南東のパープの森に巣があることを調査隊が確認しました。お二人がうろゴリを倒した森ですね。森の中でも開けた場所のあるので、巣を見つけるのはそれほど難しくないと思いますよ」
「……これほんとにちょうどいいです?」
「はい♪ とーこさんとエニさんなら大丈夫かと!」
「……エニ、いけそう?」
「………………うん」
「だいぶ、悩んだね。んー、じゃあ、これでお願いします」
「承知しました♪」
私はリディアさんから地図を受け取る。
「お菓子、準備して待ってますから、無事に帰ってきてくださいね?」
不意を突かれて、私は一瞬きょとんとした。
けれど、リディアさんはにっこりと笑っていた。
まるで何でもないことを言うかのように――けれど、そこには優しさと、何か大切な思いが込められている気がした。
「うん、もちろん」
私が頷くと、リディアさんは満足げに小さく頷いた。
「じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい♪」
「行ってきます!」
横でエニも小さく手を振る。
それを見て、リディアさんはふっと目を細めて見送ってくれた。
ギルドを後にして、私たちは南門へと向かった。
朝の光はまだ柔らかく、街は活気づく手前の静けさに包まれている。
通りにはパン屋のいい香りが漂っていて、エニがちらちらとそっちを気にしてる。帰りに買おうね。
「……ん」
門が近づくと、門番の詰所の前で見慣れた背中が見えた。
「ラガンさーん!」
私が手を振ると、振り返ったラガンさんが、がっはっはと笑いながら手を振り返してくれた。
「よお嬢ちゃんたち! 今日は依頼か?」
「はい、南東の森に行ってきます!」
「おお、気をつけろよ! あそこにはでけえ蛇が出るって噂だ」
そう言いながらラガンさんがちらりと詰所の中へ顔を向けたので、私もつられて視線を移す。
そこには――
「あ……」
詰所の木の棚の上。
昨日、エニが金属魔法で作った手のひらサイズの狼のオブジェが、ちゃんと飾られていた。
しかも、棚の周りにはちょっとした布が敷かれていて、背景に小さな旗まで立てられてる。
……なんか、祭壇っぽくなってる……!
「それ、飾ってくれてるんですね!」
「飾るに決まってんだろ! 南門の守護獣シルバーファング様だ!」
「……名前まで!?」
私は思わず笑ってしまう。
エニは隣で少しだけ耳を動かしながら、目を瞬いた。
「昨日の門番会議で自慢したらよ、朝から他の門番たちが見に来てよ、こいつ、すごいなってな! 北門担当のキッタモンなんかは譲ってくれってうるさくてよ」
ラガンさんは腰に手を当て、どっしりとした構えで胸を張る。
(北門担当のキッタモン……北門担当の……冗談じゃなくて?)
「シルバーファングが守ってるからにはな、ちょっとやそっとの魔物じゃ突破できねえよ!」
「……シルバーファング」
エニがぽつりと繰り返すように呟き、ちょっとだけ嬉しそうに尻尾を揺らした。
ラガンさんは彼女の反応を見て、口元に優しい笑みを浮かべた。
「そうさ、やっぱり名前って大事だろ? 昔、俺が冒険者だった頃はな、武器にも名前をつけてたもんだ。名があるってことは、命があるってことだからな」
エニは少し驚いたように目を見開いた。そして、小さく微笑んだ。
「ありがとな嬢ちゃん。こいつは大事にするからよ」
「……ん」
エニの尻尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れる。その姿が、何気ない日常の中の小さな幸せを感じさせていた。
そんなやり取りに、心がじんわりと温かくなる。
こうして少しずつ、エニのことをちゃんと見てくれる人が増えていくのが、本当に嬉しかった。
「じゃあ、そろそろ行ってきます!」
「ああ、気をつけてな。帰ったら、また顔見せてくれよ!」
「もちろん!」
私とエニは軽く手を振って、門を抜けた。
後ろからラガンさんの元気な声が響く。
「シルバーファングの加護があらんことを〜!」
……うん、今日はきっといい一日になる。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。
名があるってことは命があるってことだからなってセリフはまあまあ気に入ってる。
とーこもエニもあまりピンと来てないけどね。
エニ「シルバーファングの加護……」
とーこ「いつもより力出るかもね?」
エニ「帰ったらお菓子もあるし」
とーこ「そうだね。早く終わらせて帰ろうか」