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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第39話 「……逆に何ができないの?」

本日もよろしくお願いします。

「じゃあ、次は金属操作の魔法ね……。エニなら余裕でできそうだけど……」


 私は先ほど門番のラガンさんからもらったボロボロの短剣を取り出す。


「……錆びさせる以外にも試してみよっか」


 エニが短剣をじっと見つめ、魔力を込める。


 すると――じわじわと刃が輝きを取り戻していく。

 赤茶けた錆が溶けるように剥がれ、綺麗な金属の光沢が戻った。


「おお、逆に錆をとったりもできるんだ」

「……できた」

「じゃあ、形を変えてみる?」


 エニは短剣を持ち上げ、再び魔力を注ぐ。

 すると、金属が粘土のように柔らかくなり、指の間からゆっくりと滑り落ちるように形を変えていく。刃の部分が伸び、柄の部分が丸まり、まるで生き物のように少しずつ変形していく。


「何作るの?」

「……おおかみ」


 金属が滑らかに動き始め、しっぽや耳、爪の形まで細かく作られていく。

 最終的には、手のひらサイズの小さなオブジェが完成した。静かに佇む狼の姿は、まるで次の瞬間に動き出しそうな生命感に溢れていた。


「いや、クオリティ高すぎでしょ!?」


 私は狼のオブジェをまじまじと見つめながら叫んだ。


「エニ……本当に何者なの……?」


 エニは狼のオブジェをじっと見つめ、小さく微笑んだ。


「……できた」

「うん、うん……すごいね……うん……」


 私はもう何も言えなかった。

 そういえば、最初に壁作っただけで私あんまり魔法の練習してないな。


 魔法の練習がひと段落し、エニは草の上にぺたんと座り込んで、しっぽをふわふわと揺らしていた。


「……疲れた?」

「ちょっと……でも、楽しかった」


 私はエニの隣に腰を下ろし、ふぅっと息を吐いた。


「そうだ。服も結構汚れちゃったし、最後に“あれ”使ってみようか」

「あれ?」

「ふふ……見せてあげよう、私のとっておきの魔法詠唱……!」


 私は立ち上がり、前世で見た魔法アニメの主人公のように、優雅に腕を広げた。右手を天に掲げ、左手は腰に当て、足を肩幅に開き、姿勢を正す。


「エニ、見てて!」


 周囲の空気がぴりりと張りつめるイメージを持ちながら、背筋をピンと伸ばす。これが本物の魔術師のオーラってやつだ(多分)。

 言霊魔法はイメージと発声が命(多分)。前世の記憶の中から、一番かっこよかった魔法詠唱のフレーズを思い出しながら、芝居がかった動きを入れつつ深呼吸。


「――汚れを祓いし風の精霊よ、今ここに顕現し、清浄なる衣を我に与えたまえ……!」


 最後の「たまえ」を強調しながら、バッとポーズをキメる。右手から魔法陣が広がるようなイメージで、指先をキラキラさせながら(泥が付いてる)。

 風が吹いたような気もする(きっと気のせい)。


 しーん。


 エニの服は……全然きれいになっていない。むしろ風で少し砂が舞ったかもしれない。


「……あれ?」


 私はもう一度ポーズを直して、魔法陣が出るようなイメージで指先をピンと伸ばす。


「……清められし――なんとかかんとかの――たまえ!」

「……」


 エニが無言でじーっとこちらを見ていた。

 そして、ぽつり。


「……ださ」

「えっ!」


 私は心臓を撃ち抜かれたみたいに肩を落とす。


「今のかっこよくなかった!? ちょっとおしゃれにしてみたんだけど!? 最後のたまえが良くなかったか?」

「汚れ取れてない」

「うぐっ……」


 とどめを刺された気分だ。

 かっこいい魔法詠唱でちょっと本格派魔術師っぽく見せたかったのに……。

 前世で見ていた魔法ものアニメのキャラみたいに、華麗に決めるはずだったのに。まさかエニにここまで正直に言われるとは。

 

「……うるさいな、次は成功させてやるもん」


 私はぷいっと顔をそらし、手をぱっと振る。


「服、きれいになれ!」


 パァッと光が広がり、エニの服はピカピカに。ほんのりいい香りまで漂ってくる。


「……ほら、できた」

「それは、いつものやつ」

「……うん」


 私はしょんぼりしながら座り込む。

 そんな私の頭の上に、ふわっと何かが触れた。


「……?」


 見上げると、エニが無言で、優しく私の髪を撫でてくれていた。


「……いつもありがと」


 ぽつりと、そう呟く。

 ……なにそれずるい。さっきまで“ださ”って言ってたくせに!


「……どういたしまして」


 夕方、私たちは南門へと戻った。


「お、嬢ちゃんたち、戻ったか!」


 門番のラガンさんが手を振る。


「はーい、魔法の練習してきました!」


 私が言うと、エニがカバンからさっき作った狼のオブジェを取り出す。


「……これ、あげる」


 エニが差し出した小さなオブジェを、ラガンさんは驚いたように見つめた。


「……なんだこりゃ!」

「貰った短剣から、エニが作ったんです」

「……マジか」


 ラガンさんは笑顔でオブジェを受け取った。


「いやあ、こんな立派なもんをもらえるとは思わなかったぜ!」


 ラガンさんは感激したように、オブジェの細部まで眺めている。エニの耳が小さくぴくりと動く。


「ありがとな、獣人の嬢ちゃん。こいつと一緒に南門を守るよ、最強の狼がいれば、南門は安泰だな!」


 ラガンさんが豪快に笑いながらエニの頭をくしゃっと撫でると、エニは少し照れたように目を伏せる。


「今日の門番会議で自慢するぜ」


 あ、そういう会議あるんだ……。

 

「よーし、それじゃあ明日にでも簡単な魔物討伐の依頼を探してみようか!」


 私はエニの肩をぽんと叩きながら言った。


「……うん」


 エニの返事が、少しだけ誇らしげに聞こえた。


(よし。次は、ちゃんと私も頑張ろう)


 魔法も、旅も。


 この子の隣に胸を張って立てるように。

 夕焼けの空を見上げながら、私は小さく息を吐いた。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


とーこ「エニは詠唱とかいらないの?」

エニ「とーこが前に詠唱なしで魔法撃てたら、ちやほやされるからって言った」

とーこ(前世のアニメの知識、披露しすぎたか……)

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