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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第38話 「異世界転生してのんびり旅をする予定だったのに、気づけば回復魔法が万能すぎて私が一番有能になってる件ってね!」

本日もよろしくお願いします。


 南門を抜けると、雨上がりの空気がどこかひんやりとしていた。湿った土の香りが漂い、涼しげな風が心地いい。

 ちょっと奥に進めば、人の手が入らない草原が広がっている。


「ここなら、魔法の練習にはちょうどいいかな?」


 私はぐるりと辺りを見渡しながら、首都の方へ続く道を確認する。

 万が一、魔物が出てもすぐに戻れる距離だし、安全な場所を選んだつもりだった。


 エニも辺りを見回して、小さく頷く。


「……うん、ここなら」

「よし、じゃあまず私は……的でも作ろうかなー」


 私は言葉を紡ぐ。


「壁を作れ!」


 ぽん、ぽんと地面から土のまな板のような壁が現れる。

 特別大きなものではないけれど、っていうか小さすぎるけど一旦これでいいか。


 良かった〜、壁すら作れなかったらどうしようかと。


「おお……」


 エニがじっと壁を見つめる。


「じゃあ、やるよ」


 エニはそう言うと、手を前に出して魔力を込める。


 ピチッ……バチッ……!


 手のひらから弾けるように電気が生まれ、細い稲妻のように指先を走る。


「おおー! 何回みてもかっこいい!」


 私は感心しながらエニの手元を覗き込んだ。


「でも、せっかくならバリエーション増やしてみない?」

「……バリエーション?」


 エニが首を傾げる。


「ほら、前にうろゴリを倒した時みたいに電気を生き物の形にして攻撃するとか!」


 私が身振り手振りを交えながら話すと、エニはしばらく考えた後、ふっと目を細めた。


「……やってみる」


 ピチチチッ……バチバチッ!


 魔力がまとまり、小さな鳥の形を成し始める。


「おおお! いい感じじゃん!」


 エニの作った電気の鳥は、ピリピリと細かく光を散らしながら、空中をふわりと漂う。


「じゃあ、壁に向かって飛ばしてみよう!」


 私の言葉に頷き、エニが腕を振ると――


 バチンッ!


 電気の鳥が一直線に壁へ向かい、パチパチと弾けた。

 すると、私の作ったまな板が弾け飛んだ。


「すごい、すごい! 完璧じゃん!」


 エニは少し誇らしげに胸を張った。


「次……シフォン」


 バチチッという音と共にエニの頭の上に猫が生まれる。私をおばさん呼ばわりしたあの猫だ。猫はエニの頭の上から動かない。何も、そこまで再現しなくても……。


「次、たぬき」

「たぬき!?」


 なんなんだその絶妙な動物のチョイスは。

 現れたのは電気なのに何故かもふもふしてるように見えるたぬき。のそのそと私が作った的まで歩いていく。


「……遅いね?」

「ちょっと太らせて作った」

「なんで!?」


 エニは電気魔法で作られた動物達を一体ずつ壁にぶつけていく。ポン、パチン、と軽快な音が響き、土の壁がどんどん削られていく。

 

「……そういえば、私の前世の記憶によると電気を体に纏って早く移動できるようになったりしてたよ。仕組みはわかんないけどね」

「……出た。とーこの前世の話」

「1回やってみない?」


 私がワクワクしながら提案すると、エニは少しだけ目を細めてから、こくりと頷いた。


「……まあ、試すだけなら」


 そう言うと、エニは全身に魔力を込める。


 ピチチチ……バチバチッ……!


 電気の魔力がほとばしり、エニの周りに細かい稲妻が走る。銀色の髪も電気を帯びふわりと持ち上がる。


「おおお……なんか、それっぽい!」


 私は感嘆の声を上げながら、エニの動きを見守る。


「じゃあ……ちょっと走ってみる」


 エニが足を踏み出した――瞬間。


 ――バチン!

 

 青白い電光が走り、空気が弾けるような音と共に、一瞬で視界からエニの姿が消えた。


「……は?」


 私は目を瞬かせる。

 ほんの数メートル先、エニがぴたりと足を止めていた。


「え、えぇぇぇ!? できちゃったの!?」

「……うん」


 エニは軽く足踏みしながら、まだ体に纏わりつく電気を散らしている。


「……え? いや、いやいやいや!? これ、前世のアニメの話だよ!? 電気纏って移動するとか、フィクションじゃん!!」


 私は慌てて駆け寄るが、エニはきょとんとした表情のまま。


「……何、アニメって」

「作り話なの!」


 私は頭を抱える。


「……わかんない。でも、やれって言われたから、やったらできた」

「いや、できちゃダメなんだって!」


 私は混乱しながらエニの手を握り、ぺちぺちと軽く叩いた。エニが「できなーい」っていう可愛いとこ見たかっただけなんだよ!


「エニは天才なの!? 前世は大魔法使い!?」

「……とーこがやれって言ったから」

「それはそうだけども……!」


 エニの尻尾がゆらゆらと揺れる。


「……楽しい」


 そういうと、エニは何度もシュバっ、シュバっと高速移動を繰り返す。


「え、あんまりやりすぎると危な――」


 私は慌てて首を振ってエニを探す。


 ――ズサアッ!!


 と、草を薙ぎ払うような音と共に、前方の地面で何かが転がった。


「エニ!?」


 そこには、泥だらけになったエニが、うつ伏せで動かなくなっているのが見える。


(やば、痛かったかな? すごい転び方してたし)


 心臓がどきりと鳴る。エニが怪我したら私のせいだ。試させちゃうんじゃなかった。

 駆け寄ろうと思った時、エニがのそっと上体を起こし、こっちをじっと見てくる。


 そして。


 パタパタパタ……。


 ちょっと情けない顔のまま、エニが泥だらけでこっちに小走りで向かってくる。


(顔、傷ついちゃってるじゃん……。私が余計なこと言ったから……)


 私は自然と、手を広げて待った。


「……いたい」

「ごめんエニ。余計なこと言わなきゃ良かったね」


 エニは私にぺたっとくっついてくる。

 私は苦笑しながら、彼女の頭を撫でた。

 

「痛いの痛いの飛んでけ……!」


 私の言霊魔法が発動し、エニの顔や膝についた傷も綺麗に治る。


 傷まで消えた……私、これでお金稼げるのでは?


 そんなことしたら長文タイトルのラノベみたいな展開になっちゃうか……やめよう。無双したいわけじゃないんだ。いや、ちょっとしてみたいな。


「……ありがと」

「まったくもう、転ぶなら先に言ってからにしてよね」

「言ってから転ぶ……?」


 エニが小首を傾げる。真顔で考え込む様子があまりにも真剣で、

 それに、ぷっと吹き出してしまった。

 

「そうだよ、『今から転ぶよ〜』って宣言してからね」

「……そんなの、できない」

 

 エニが本気で困った表情を見せて、しっぽがぴくぴく動く。


 そんなふうに、私たちは楽しく、そして少しずつ、魔法の訓練を続けていった。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


エニに出たって言われるくらいとーこは前世の話をよくしてる。自分が転生者だよっていうのは、エニと出会った次の日くらいに言ってる。書いてないけど。


とーこ「私のいた世界のことそんなに興味無さそうだけどね!」


エニ「ご飯の話は好き」

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