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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第37話 「もう、犬じゃん」

本日もよろしくお願いします。

 朝食も終え、朝のまったりタイムを過ごした後、エニはすっかり落ち着いたように見えた……はずだった。


 ――けど。


「…………」


 私は椅子に座りながら、ぼんやりと本を開いていたが、そのページの内容がちっとも頭に入らない。


 原因は――。


 じぃぃぃぃぃぃ。


「……なに?」


 顔を上げると、エニがこちらをじっと見つめていた。


「いや……別に」


 エニはすっと視線を逸らす。が、すぐにまたじぃぃぃぃっと私を見る。


「……なあに?」

「……ううん」


(絶対なんかあるやつだ、これ)


 しばらく私のことを見つめたあと、部屋のドアの前をうろうろし始め、私をチラチラ見る。まるで散歩を待ちわびる犬みたいに。

 

「……エニ」

「……ん」

「もしかして、外行きたい?」


 エニのしっぽがブンブン揺れだした。大正解。

 確かにここ数日は雨が続いてたし、冒険者の仕事も受けてなかったから、だいぶ宿屋でのんびりしていたのは事実。いやあお金持っちゃうと怖いね。だらけちゃう。


「……外で何しようね〜」


 せっかくだし魔法の練習でもしようかな。

 今後、魔物との戦いは避けられないだろうし、私もエニや自分の濡れた髪を乾かすことと服をきれいにすることでしか使ってなかった言霊魔法を、もっと上手く使えるようになりたい。


「……じゃあ、魔法の練習でもしにちょっと外行ってみる?」

「……!」


 エニの耳がぴくっと動く。

 そして、次の瞬間――


「行こう!」


 バッとしっぽをふりふりさせながら部屋のドアへ向かっていった。


(ほんとに犬みたいだ……)


「エニ、着替えてからー!」


 ちょっとだけ不満そうに耳を倒したエニだったが、すぐに納得して戻ってきた。私たちはタイガーベアの服に着替える。いまだに外行きの服がこれしかないのはどうしたもんか。

 まあ、今日はそこまで寒くないし、大丈夫だろう。


 着替えながら、ふと、エニの部屋着に目がいく。首都に来てから買った白のキャミソールに灰色のショートパンツ。その間からしっぽがぴょこり。


「……そういえば、その服、結構気に入ってるよね?」


 私がそう言うと、エニはキャミソールの裾を指でつまんで軽く引っ張る。


「……楽」


 そりゃあ楽だろう。布地も柔らかくて、動きやすくて、風通しもいいし。

 でも、こういう服が異世界にあるのはちょっと意外だった。


 異世界ってもっとゴワゴワした麻布とかが主流なイメージだったんだけど……。っていうかギルドにいる人たちがそういう服着てた。


「動きやすいし、涼しい」

「だよねー」


 異世界でも実用性重視の流行ってあるんだな……。


「とーこのも、おそろい」


 エニが私のキャミソールを指差して、ちょっと満足げに尻尾をふわりと揺らした。

 そっか、エニ、これお揃いだから嬉しかったのか……かわいいな。


「うん、おそろい」


 私はエニのしっぽをちょいっとつまみながら笑った。

 宿を出ると、首都の活気が肌で感じられる。


「いい天気……!」


 エニはご機嫌な様子で、ぴょんぴょんと軽い足取りで歩く。


 空は雲ひとつなく、清々しい空気が街中に広がっていた。

 首都に来てから数週間経ったけれど、相変わらずの賑わい。行商人が店の前で呼び込みをしていたり、子どもたちが駆け回っていたり、活気にあふれている。


 外へ続く門に近づくと、門番の人たちが警戒の目を向けてくる――けど、すぐに見覚えのある顔を見つけてくれたらしく、ゆるりと表情を崩した。


「お、嬢ちゃんたち、今日はどこかに出かけるのか?」


 声をかけてくれたのは、南門の門番のラガンさん。

 たくましい腕に短く刈られた黒髪、いかにもベテラン兵士といった雰囲気のおじさんだ。

 私たちが初めて首都に来た時も南門だったし、依頼で外に行くときはなんだかんだ南門を利用するよことが多く、何度か顔を合わせているから、すっかり覚えられたらしい。


「ちょっと外で魔法の練習をしようと思って」

「ほう、熱心だな!」


 ラガンさんは腕を組んで笑う。


「魔法が使えるなら、鍛えておいて損はねえな。まあ、無茶しないようにな!」

「はーい」


 そう返事しながら、私はふと思い出した。


「あ、そうだ。ラガンさん、鉄くずとか持ってないです?」

「鉄くず?」


 ラガンさんはちょっと顎をさすって考える。


「なんだ、武器の材料にでもするのか?」

「ううん……ちょっと試したいことがあって」


 私が言葉を濁していると、ラガンさんは「ああ」と思い出したように頷いた。


「そういや、最近短剣を一本処分したんだよな。刃こぼれがひどくてよ。鍛冶屋に持っていく予定だったが……」


 そう言いながら、門の近くに置いてあった箱をガサゴソと探り始める。


「お、あったあった。ほれ、これでいいか?」


 差し出されたのは、すでに刃がボロボロになった短剣だった。

 刃先は完全に欠けているし、錆びも目立つ。


 でも、試したいことには十分だった。


「ありがとうございます! これ、ちょっと使ってみる!」


 私は短剣を受け取り、エニに見せた。


「……?」


 エニは首を傾げる。なんであんたがピンと来てないのよ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「ああ、気をつけてな!」


 私たちは南門の外へと踏み出した。

 読んでくださりありがとうございます。


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