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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第33話 「その時も一緒に旅をしよう」

本日もよろしくお願いします。

 窓の外では相変わらず雨が降り続いている。


 部屋の中には、ベッドに寝転ぶ私と、その上に乗っかるエニ。

 さっきまで「お手」とか言って遊んでいたけれど、すっかり落ち着いてしまった。


「……暇だね」


 エニの柔らかい髪を撫でながら、私はぼそっと呟いた。


「ん……眠くなってきた」

「さっきまでいっぱい寝てたじゃん」


 私は苦笑しつつ、ふと、部屋の隅に置いてある地図と魔物図鑑に目をやった。

 最近、依頼をこなす中で冒険者ギルドからもらった世界地図には、この大陸だけでなく、海の向こうの島々や大陸まで描かれている。色とりどりの線で国境が引かれ、それぞれの地域の特色が小さな絵で描写されていた。


「そういえば、エニってさ」

「んー?」


 エニはまだ私にぴったりくっついたまま、眠たそうな声を出す。


「どこか行きたい場所とかある? 首都の中でも、今後どこか行くにしても」


 エニは私の胸の上に顔を埋めたまま、しばらく黙り込んだ。しっぽがゆっくりと揺れて、考え込んでいるのがわかる。

 

「……あんまり、考えたことなかったかも」

 

 ぽつりと呟いたその声は、どこか不思議そうだった。

 まるで、それを考えること自体が初めての経験みたいに。


 エニの言葉に、私はそっと彼女の髪を撫でる。

 彼女の過去を考えると、未来を考えることなんて出来なかったはずだ。


「そういえば」


 エニがぽつりと呟く。

 

「ん?」

「……海の向こうには、獣人が人間と普通に暮らしてるって、リーナが言ってた」

「確か、バルトさんも獣人は他の大陸から来たって言ってたような……」


 エニはふわりと尻尾を揺らしながら、遠くを見つめるように瞳を細める。


「………………」

 

 エニは少しだけ目を伏せた。耳も少し垂れていて、どこか物思いにふける表情だ。

 しばらく何かを考えるように、毛布の端をくしゃっと握る。まるで遠い地に思いを馳せるように。


 私は彼女の表情から、言葉にはしなくても何を考えているのか、なんとなく分かった気がした。

 生まれ育った場所ではないかもしれないけれど、同じ獣人たちが暮らす土地。誰にも怯えることなく、堂々と歩ける場所。

 そんな場所があるなんて、エニにとっては夢のような話なのかもしれない。


「……行ってみようよ!」


 私がそう言うと、エニは驚いたように顔をあげた。


「……いいの?」

「もちろん、海も見てみたいし」


 私は笑って、エニの耳をそっと撫でた。

 エニは少しだけ戸惑ったように、私の顔をじっと見つめる。その瞳には期待と、ほんの少しの不安が混ざっているように見える。でも、それ以上に、明るい何かがあった。


「行ったら、エニみたいな人、いっぱい会えるかもね」

「……緊張する」

「大丈夫、私がいるから」


 エニは小さく微笑むと、尻尾をふわりと揺らしながら、私の胸に顔をうずめる。

 

「……ありがと」

「ふふ、いいよ」


 私たちはそのまま、しばらく静かに雨音を聞いていた。


 海の向こう。獣人の国。

 未知の世界に少し怯えながらも、それでも知りたい——そんなエニの複雑な気持ちを、私は静かに受け止めた。


 いつか、エニが他にも行きたい場所を見つけたら――。

 そのときも、一緒に旅をしよう。

 ずっと一緒にいるって約束したから。

 

「なんかさ、こうやってのんびりするのもいいね」

「……普通」


 エニは無表情で言いながらも、尻尾がリズミカルに左右に振れている。

 

「じゃあなんでしっぽこんな揺れてるの〜?」


 私はエニのしっぽをガシッと掴んだ。

 

「んっ……!」

 

 エニの耳がぴこっと跳ね、頬がぷくっと膨らむ。

 

「……いじわる」

「いやいや、ほんとのことを言っただけだよ?」


 私が笑うと、エニはむすっと口を尖らせた。

 

 ガブッ――


「ぎゃあ!」


 ふにっとした感触と、軽い刺激が布越しに肌に触れる。

 何かと思えば――エニが私のおっぱいを甘噛みしていた。


「ちょっ……エニ!? そこはダメ!」

「……しっぽ触るから」

「いやいやいや、おっぱい噛むのはもっとダメでしょ!?」


 じたばたと暴れる私をよそに、エニは無表情で私を見つめたまま、


「……やわらかい」


 ぽつりと感想を述べた。


「もう!」


 思わず、ぎゅっとエニを抱きしめる。


「わっ……」


 エニの尻尾がふわっと揺れる。

 ぎゅっと抱きしめたまま、私は息を整え、ふーっとため息をついた。


「もう……ほんとに、エニは……」

「……ふふ」


 エニが、くすっと笑う。

 私もつられて、笑ってしまった。


 そのままエニは、するりと私の胸に顔をうずめる。

 そして、ぎゅっとしがみついてくる。


「……とーこ、あったかい」


 尻尾がゆっくりと揺れて、エニの呼吸が落ち着いていくのがわかる。

 私はそのまま、彼女の髪を優しく撫でた。


 外では、雨が静かに降り続いている。

 ぽつぽつと窓を叩く音が、心地よい子守唄みたいだ。


 どんな過去があっても、これからは一緒に——そう思いながら、エニの温もりに包まれる。


 エニの体温と、雨音のリズムが心地よくて――

 私は静かに目を閉じた。

 

 もうこのまま寝てしまおう。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 そろそろ、旅の目的とか、次に行く場所とか決まっていきそうですね。

 三章も後半戦!

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