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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第31話 「干し肉とぬいぐるみと、おそろいと」

本日もよろしくお願いします。

 昼ごはんを食べ終え、私たちは広場のベンチに腰掛けていた。

 空は澄み渡り、柔らかな陽射しが心地いい。噴水の水がキラキラと輝き、人々の賑やかな笑い声や露店の掛け声が遠くに響いている。


「……何入れようかなぁ」


 隣でぽつりと呟いたエニは、新しく手に入れた肩掛けカバンを撫でながら、じっと考え込んでいた。


「せっかくもらったんだから、ちゃんと活用しないとね」


 私がそう言うと、エニは「うん」と小さく頷き、カバンを開けたり閉めたりを繰り返してる。


「とーこは?」

「え?」

「とーこも何か探してるでしょ?」


 エニがじっと私を覗き込んでくる。


「……バレてた?」

「うん。さっきからキョロキョロしてるし」


 さすが、いつも一緒にいるだけあって、私の行動をよく見ている。


「まぁ、ちょっとお礼をね」

「誰に?」

「リディアさん――ギルドの受付の人から誕生日プレゼントもらったし、何かお返しをしようと思って、本当はリディアさんの誕生日に返すのが1番だけど、私たちいつまでもここにいる訳じゃないしね」


 エニは何か考えるようにしばらくカバンの端をつまみながら、ふと目を輝かせた。


「じゃあ、一緒に探そう」

「そうだね。エニのカバンに入れるものも一緒にね」

「……!」


 エニの目が輝き、耳がぴょこんと立ち、満面の笑顔で立ち上がるエニにつられて、私も思わず微笑む。


「よし、買い物行こうか」

 

  商店街の賑わいの中、エニは新しい肩掛けカバンを片手で押さえながら、楽しそうにキョロキョロしていた。


「さて、エニのカバンに入れるもの何買う?」

「うーん……もうだいたい決まってる」

「もう?」

「うん」


 エニはぴょこんと跳ねるようにして、ある露店の前で立ち止まった。

 そこは干し肉専門の店で、棚いっぱいにジャーキーやスモークミートが並べられている。


 店主の無骨な男が「どれでも好きに選びな!」と腕を組んでにやりと笑った。


「これ!」


 エニは即決で、手に取ったジャーキーを店主に次々渡していく、それを素早く袋詰めしていく店主も出来るやつだ。その数、片手いっぱいどころか、両手いっぱいになるくらい。


「そんなに!?」

「だって、お腹すいたときすぐ食べれるし、旅の間も持ち歩けるし!」

「まだしばらくは首都にいるよー?」

 

 エニがすごく真剣な顔をしている。

 確かにエニのことだから、何かあるたびにお腹すいたーって言いそうだけど。


「まぁ、保存がきくし、悪くないか……」


 私が半ば呆れつつも許可すると、エニは満足げにしっぽをふりふりさせながら、しっかりとカバンの中に詰め込んだ。


「……完璧」


 大満足のエニを見て、私は思わず笑ってしまう。


「でも、エニのカバンもまだ余裕あるよね?」

「うん?」


 私がそう言うと、エニは「確かに」とカバンを開いて中を覗き込んだ。


「もう少し見て回ろ?」

 

 懐が暖かいし、エニには色々買ってあげたいなって思う。しばらく歩くとエニはある露店の棚に目を向けた。


「あ、これ……かわいい」


 エニがぽつりと呟いた。耳がぴこぴこと動き、目を輝かせている。

 私が視線を向けると、そこには小さなぬいぐるみが並んでいた。

 手のひらに乗るくらいのサイズで、動物をかたどったシンプルな作りのものばかり。

 ふわふわとした生地に、くりくりの黒いボタンの目がついていて、なんとも愛嬌がある。


「……買う?」


 私が尋ねると、エニは少しだけ迷ってから、狼のぬいぐるみをぎゅっと両手で包み込んだ。


「……うん」


 少し恥ずかしそうに頷いたエニを見て、私は自然と微笑んでしまった。まだまだ子供だな。


 ぬいぐるみをカバンにしまいながら、エニが隣の棚を見て「ん?」と首を傾げた。


 そこには、さまざまなデザインのキーホルダーが並んでいた。小さな星や月のモチーフだったり、シンプルな木製のものだったり。


「……ねぇ、とーこ」

「ん?」

「おそろい、買お?」


 エニが少し頬を赤らめながら、もじもじとした様子で言う。私はちょっと驚きながらも、エニの可愛さに心がぎゅっとなる。


「いいね。じゃあ、どれにしようか」


 私たちは少し悩んで、結局、シンプルな月のモチーフのキーホルダーを選んだ。

 おそろいのキーホルダーを購入し、それぞれのカバンにつける。


「……やったね」


 エニがしっぽをぶんぶんと振りながら笑う。

 その姿があまりにも嬉しそうで、私も自然と笑みをこぼした。


 買い物を終えて、エニのカバンには――


・大量の干し肉

・手のひらサイズの狼のぬいぐるみ


 が詰め込まれることになった。

 エニらしいものばかりだった。


 そして、ハレヤカ村で貰った私のリュックとエニのカバンにお揃いのキーホルダーがつけられた。


「さて、そろそろ宿に戻ろうか」

「うん」


 エニは頷きながら、カバンを肩に掛け直す。

 満足そうな表情に、私もなんだか安心した。


「あ! やっば!」


 私は突然立ち止まり、頭を抱えた。

 すでに数歩先を歩いていたエニが不思議そうに振り返る。

 

「リディアさんへのお返し、全然買ってない! エニ待って! 戻ろう!」

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。作者のモチベがあがります。



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