第31話 「干し肉とぬいぐるみと、おそろいと」
本日もよろしくお願いします。
昼ごはんを食べ終え、私たちは広場のベンチに腰掛けていた。
空は澄み渡り、柔らかな陽射しが心地いい。噴水の水がキラキラと輝き、人々の賑やかな笑い声や露店の掛け声が遠くに響いている。
「……何入れようかなぁ」
隣でぽつりと呟いたエニは、新しく手に入れた肩掛けカバンを撫でながら、じっと考え込んでいた。
「せっかくもらったんだから、ちゃんと活用しないとね」
私がそう言うと、エニは「うん」と小さく頷き、カバンを開けたり閉めたりを繰り返してる。
「とーこは?」
「え?」
「とーこも何か探してるでしょ?」
エニがじっと私を覗き込んでくる。
「……バレてた?」
「うん。さっきからキョロキョロしてるし」
さすが、いつも一緒にいるだけあって、私の行動をよく見ている。
「まぁ、ちょっとお礼をね」
「誰に?」
「リディアさん――ギルドの受付の人から誕生日プレゼントもらったし、何かお返しをしようと思って、本当はリディアさんの誕生日に返すのが1番だけど、私たちいつまでもここにいる訳じゃないしね」
エニは何か考えるようにしばらくカバンの端をつまみながら、ふと目を輝かせた。
「じゃあ、一緒に探そう」
「そうだね。エニのカバンに入れるものも一緒にね」
「……!」
エニの目が輝き、耳がぴょこんと立ち、満面の笑顔で立ち上がるエニにつられて、私も思わず微笑む。
「よし、買い物行こうか」
商店街の賑わいの中、エニは新しい肩掛けカバンを片手で押さえながら、楽しそうにキョロキョロしていた。
「さて、エニのカバンに入れるもの何買う?」
「うーん……もうだいたい決まってる」
「もう?」
「うん」
エニはぴょこんと跳ねるようにして、ある露店の前で立ち止まった。
そこは干し肉専門の店で、棚いっぱいにジャーキーやスモークミートが並べられている。
店主の無骨な男が「どれでも好きに選びな!」と腕を組んでにやりと笑った。
「これ!」
エニは即決で、手に取ったジャーキーを店主に次々渡していく、それを素早く袋詰めしていく店主も出来るやつだ。その数、片手いっぱいどころか、両手いっぱいになるくらい。
「そんなに!?」
「だって、お腹すいたときすぐ食べれるし、旅の間も持ち歩けるし!」
「まだしばらくは首都にいるよー?」
エニがすごく真剣な顔をしている。
確かにエニのことだから、何かあるたびにお腹すいたーって言いそうだけど。
「まぁ、保存がきくし、悪くないか……」
私が半ば呆れつつも許可すると、エニは満足げにしっぽをふりふりさせながら、しっかりとカバンの中に詰め込んだ。
「……完璧」
大満足のエニを見て、私は思わず笑ってしまう。
「でも、エニのカバンもまだ余裕あるよね?」
「うん?」
私がそう言うと、エニは「確かに」とカバンを開いて中を覗き込んだ。
「もう少し見て回ろ?」
懐が暖かいし、エニには色々買ってあげたいなって思う。しばらく歩くとエニはある露店の棚に目を向けた。
「あ、これ……かわいい」
エニがぽつりと呟いた。耳がぴこぴこと動き、目を輝かせている。
私が視線を向けると、そこには小さなぬいぐるみが並んでいた。
手のひらに乗るくらいのサイズで、動物をかたどったシンプルな作りのものばかり。
ふわふわとした生地に、くりくりの黒いボタンの目がついていて、なんとも愛嬌がある。
「……買う?」
私が尋ねると、エニは少しだけ迷ってから、狼のぬいぐるみをぎゅっと両手で包み込んだ。
「……うん」
少し恥ずかしそうに頷いたエニを見て、私は自然と微笑んでしまった。まだまだ子供だな。
ぬいぐるみをカバンにしまいながら、エニが隣の棚を見て「ん?」と首を傾げた。
そこには、さまざまなデザインのキーホルダーが並んでいた。小さな星や月のモチーフだったり、シンプルな木製のものだったり。
「……ねぇ、とーこ」
「ん?」
「おそろい、買お?」
エニが少し頬を赤らめながら、もじもじとした様子で言う。私はちょっと驚きながらも、エニの可愛さに心がぎゅっとなる。
「いいね。じゃあ、どれにしようか」
私たちは少し悩んで、結局、シンプルな月のモチーフのキーホルダーを選んだ。
おそろいのキーホルダーを購入し、それぞれのカバンにつける。
「……やったね」
エニがしっぽをぶんぶんと振りながら笑う。
その姿があまりにも嬉しそうで、私も自然と笑みをこぼした。
買い物を終えて、エニのカバンには――
・大量の干し肉
・手のひらサイズの狼のぬいぐるみ
が詰め込まれることになった。
エニらしいものばかりだった。
そして、ハレヤカ村で貰った私のリュックとエニのカバンにお揃いのキーホルダーがつけられた。
「さて、そろそろ宿に戻ろうか」
「うん」
エニは頷きながら、カバンを肩に掛け直す。
満足そうな表情に、私もなんだか安心した。
「あ! やっば!」
私は突然立ち止まり、頭を抱えた。
すでに数歩先を歩いていたエニが不思議そうに振り返る。
「リディアさんへのお返し、全然買ってない! エニ待って! 戻ろう!」
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