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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
36/97

第30話 「エニの名前のとおり」

本日もよろしくお願いします。


予約投稿忘れてました

「バルトさーん!」


 バルトさんの家の前で呼びかけると、扉がガチャリと開いた。


「おお! こいつ……!」


 エニの頭からシフォンを抱き上げると、バルトさんは困ったように笑った。その表情はとても安堵しているように見えた。


「バルトさん、最近餌変えました?」

「んあ? ああ、最近少し良いやつに変えたんだ」

「それが嫌だったみたいですよ」

「……マジか?」


 バルトさんは目を丸くして、シフォンと視線を交わす。


「……にゃー」

「お前……バカだなぁ……」


 そう言いながらも、バルトはシフォンの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「まあ、無事でよかった」


 バルトさんは依頼達成の証明書にサインをしてくれた。


「これでギルドに報告すればいい。助かったぜ」

「いえいえ!」


 バルトはふと私たちを見て、腕を組んだ。


「……あんたら、冒険者なり立てか?」

「まあ、そんなところですね」

「なるほどな。だったら、今後武器を扱うことも増えるだろう」

「武器……?」

「ああ、ちょっとついてこい」

 

 バルトはそう言いながら、家の中に私たちを招いた。


「戦闘中はもちろん、素材の剥ぎ取りとか、罠の設置にも使える。持っておいて損はない」


(たしかに……私は魔法で武器を作れるけど、魔力消費もあるし、普通の武器を持ち歩くのもアリかも)


「良い店があるんだ」


 バルトさんは引き出しから一枚の紙を取り出し、サラサラと何かを書くと私に手渡した。


「俺の冒険者時代の仲間が武器屋をやってる。腕は確かだ。あいつには腐るほど貸しがある」

「はあ」

「お前らがそこで買い物するなら、俺の名前を出せば安くしてくれるぜ」

「ほんとですか!」


 私が手渡された紙を見ると、武器屋の地図が描かれていた。裏にはバルトの直筆の署名が書かれている。


「冒険者なり立てじゃ、報酬3000円じゃ足りないだろ? だからギルドに3万円にしろって言ったんだが、さすがに猫探しでその額は高すぎるってな。結局、引き上げは無理だった。でも、冒険者には装備がいる。だったら武器屋くらい紹介してやるのが筋ってもんだろ?」

「ありがとうございます!」

「……ありがと」


 そこが気に入ったのか、シフォンがずっとエニの頭の上に乗っかっている。エニはなるべく動かないように体を硬直させていて、微笑ましい。


「いやあ、今日はほんとに助かった。しかし、どうやって見つけたんだ?」


 バルトさんはエニの頭の上から、シフォンを回収する。「にゃー」と抗議の声が聞こえる。


「……あたし、鼻がいいから」

「嬢ちゃん、犬か何かの獣人か?」

「……おおかみ」

「なるほどな、そりゃこんな短時間で見つけられるわけだ」

 

 バルトさんは感心したように頷き、椅子に深く腰掛ける。

 そして、狼の獣人という言葉がきっかけになったのか、まるで昔を思い出すように、視線を天井へと向けた。

 

「獣人なあ……そういや、昔はちょくちょく見かけたな。もっとも、あいつらが自由にしてたわけじゃねえが」


 シフォンがバルトさんの腕から脱走する。


「獣人っちゃあ、この大陸には元々いなかったんだよ。遠い大陸から連れてこられて、労働力として使われてた。遠征の荷物持ちだの、戦場の雑用だの、まぁ、ろくな扱いじゃなかったな。今は法が変わって、もう表立ってはなくなった。けどよ、完全になくなったわけじゃねえ。裏ではまだ……って話も聞く」


 シフォンがエニの頭に上ってくる。


「っと、悪ぃな。おっさんになると来客はねえし、ついおしゃべりになっちまってな! ハハッ!」


 そう言ってバルトは頭をかきながら、へらっと笑う。


「……」


 エニの表情がほんの少しだけ曇る。


「ま、だからって萎縮するこたぁねえ。今の時代、国やギルドが守ってくれる。だから、嬢ちゃんも堂々としてりゃいいんだよ」


 バルトさんは豪快に笑いながら、シフォンを剥がして、エニの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「わっ……!」

「そう気にするな。……嬢ちゃんにはいい相棒がいるんだろ?」

「……うん」

 

 こういう時、どういう表情してればいいんだろ、ちょっと恥ずかしい。

 

「また、こいつが家出したら、あんたら指名で依頼を出すよ」

「ありがたいですけど、それは依頼が来ないほうがいいですね」

「ガハハハッ、それもそうだな! でも、その時は嬢ちゃん、また鼻を利かせてくれ」

「……わかった」


 エニから離れたくなさそうなシフォンをようやく引きはがし、私たちはギルドへ向かうことにした。


「はい、依頼達成を確かに確認しました。それではライセンスをここにかざしてください」


 くるんとした赤髪の受付嬢――私たちの冒険者登録をしてくれた受付嬢が魔法石版を差し出した。

 石板にライセンスをかざすと、実績の欄に迷い猫探しが追加されていた。


「しかし、よくこの依頼受けようと思いましたね?」

「へ?」

「元ギルドマスターの依頼なんて誰も受けたがらないんですよ~、怖いから」


 私たちの冒険者登録をしてくれたときと同じ受付嬢が苦笑いを浮かべて、報酬を準備してくれてる。


「え!? 元ギルドマスター?」


 元冒険者って言ってたけど、まさかギルドマスターだったなんて。

 

「そうなんです。ここだけの話。依頼の報酬をもっと上げろってごねられたんですよ。依頼主が値上げ要求することなんてふつうないですからね」

「駆け出しの冒険者にこの報酬は安すぎるから武器屋紹介してもらいました」

「え!? それはよかったですね。ギルドとしても、猫探しの依頼に3万円は設定できなかったのでどうしようと悩んでたんですよー」

 

 受付嬢はケラケラ笑いながら、報酬を手渡してくれた。


「まあ、とーこさんとエニさんはお金持ちですけどねー」

「バルトさんと報酬の話してるとき、お金持ってるって事黙ってましたもん」

「あはは! いい判断でしたねー、おかげで元ギルマス御用達の武器屋と縁ができたってことでお金より価値がありますよ!」


 受付嬢との会話が妙に楽しい。たぶん、年が近いせいかもしれない。

 

 ギルドの受付って、事務的で淡々としてるイメージだったけど、この人は違う。

 なんというか、話してると気持ちが軽くなる。

 こういうのが、受付のプロの会話術ってやつなのか……?

 

「そうだ! 昨日エニさんのお誕生日でしたよね? 次会ったら渡そうと思ってプレゼント用意してました!」

「え? なんで?」


 冒険者ライセンスをいじいじしてたエニがびくっと顔をあげた。

 

「私が冒険者登録しましたからねー、覚えてたんですよ」


 受付嬢はカウンターの下から、小包を取り出した。

 リボンが結ばれた可愛らしい包装。まさか、ここまで用意してくれるなんて。


「エニさん、お誕生日おめでとうございます!」

「……あ、ありがと」


 エニは少し戸惑いながら、そっとプレゼントを受け取った。

 包装を丁寧に解くと、中から出てきたのは革の肩掛けのカバンだった。


「……可愛い」


 カバンの表面には精巧な動物の刻印が彫られていた。

 月明かりの下で佇む狼のシルエット。銀色の模様がほんのりと光を反射して、エニによく似合っている。


「冒険者ライセンスとかエニさんの私物、とーこさんのリュックに入ってますよね? それを入れるのにちょうどいいかなーって」

「……っ!」


 エニの耳がぴょこっと動いた。

 

「これね、肩にかけるんだよ」


 エニの肩にカバンをかけてあげたら、彼女はさっそく冒険者ライセンスを中にしまった。

 

「……」


 しっぽがぶんぶん揺れている。


「ふふっ、気に入ってくれたならよかったです」


 受付嬢は満足そうに微笑んだ。

 その表情を見て、私はふと思った。


(お礼がしたいな……)


 私はエニに聞こえないように、小さく声を落として受付嬢に話しかけた。


「あの」

「はい?」

「お礼がしたいので、良かったら名前と……ガラケーの連絡先、教えてもらえませんか?」

「連絡先!? え、デートのお誘いですか!?」

「ち、違います! そんなんじゃなくて……!」

「あはは、冗談ですって♪ でも嬉しいですね、そんな風に言ってもらえるの」


 受付嬢はくすくす笑いながら、カウンターの奥から名刺を取り出して、その裏にガラケーの番号を書いてくれた。

 白い紙には、整った文字で 「リディア・メイヴァース」 と書かれている。


「個人用のガラケーの番号を教えるの、本当はしないんですけど……ま、いいでしょう!」

「ありがとうございます」

「次に会った時にでも、お返し期待してますね?」

「はい。エニへのプレゼント、本当にありがとうございます」

「楽しみです♪」


 リディアさんがいたずらっぽく笑う。

 受付嬢らしい、でも、ちょっとフレンドリーな彼女の距離感が心地よかった。


 こうして、また1つ縁が広がった。

 リーナにミレイ、それにリディアさん、元ギルマスのバルトさんに武器屋まで紹介してもらって。エニと一緒にいると、どんどんいろんな人と繋がっていく気がする。


「ねぇ、とーこ」


 エニが不意に、カバンをぎゅっと抱えたまま私を見上げた。


「これ、いいね」

「うん、よかったね」


 エニがこうして、誕生日を祝ってもらえていることが、なんだか無性に嬉しかった。

 そして――ふと、自分がエニに名前をつけた日のことを思い出した。


「出会ったのも何かの縁だから」


 そんな安直な理由で「エニ」という名前をつけた。

 まさか、その名前がこんなにたくさんの「縁」を結んでくれるなんて――。


「まだお昼だし、お金もらえたから、ご飯食べにいこっか」

「うん」


 エニのしっぽが嬉しそうに揺れる。

 そうして私たちは、ギルドを後にした。

エニっていい名前だなあ(自画自賛おばけ)


子供みたいな性格のエニだけど、彼女の過去を見ればそれも当然よね。大人になる機会なんてなかったから。


意外と背もおっきいし、胸もある。

前にとーこに抱きつくシーンとかあったけど、マジで自分の体重理解してない大型犬と一緒。


感想お待ちしております!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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可愛いなおい
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