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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
35/97

第29話 「エニ、動物の言葉わかるの!?」

本日もよろしくお願いします。

 ギルドの掲示板を眺めながら、私はエニとどんな依頼を受けるか相談していた。

 初めての仕事だし、あまり危険なものは避けたい。まずは成功体験を積み上げたい!


「あら?」


『迷子の猫を探してください(報酬:3000円)』


「これ、前にも貼ってあったな。エニ、猫探しどう?」

「ん、いいよ」

「じゃあ、これにしよ」


 私たちはギルドのカウンターへ向かい、受付の男性に迷いネコの依頼を受けることを伝えた。

 彼は手際よく書類を用意し、簡単な説明をしてくれた。


「迷い猫の名前は『シフォン』。茶トラ猫で、青い首輪をつけています。依頼主のバルトさんの家の地図になります。直接お話ししていただくのがいいかと思います」

「シフォン……可愛い名前」


 エニがぼそりとつぶやく。エニって名前のほうがかわいいだろ!

 おっと、しまった。つい、他人の猫の名前と張り合ってしまった。

 

「依頼達成後はこの書類に依頼主さんのサインをもらってください。それと引き換えに報酬をお渡しします」

「はい、わかりました」


 エニもこくりとうなずいた。


「それじゃ、行こっか」


 バルトさんの家は、商店街の外れの少し寂れた場所にあった。

 道沿いに並ぶ住宅の中でも、ちょっと年季の入った木造の家で、玄関前には猫用の餌皿が置かれている。


「こんにちはー。ギルドの依頼を受けた者です」


 ノックをすると、中から渋い声が聞こえた。


「おお、来たか!」


 扉が開くと、そこには筋肉質な体格のおじさんが立っていた。

 白髪混じりの髪に無精髭、ちょっとくたびれたシャツ。

 それでいて目つきは鋭く、冒険者か元兵士だったんじゃないかと思わせる雰囲気がある。


「悪いな、忙しいのに。俺はバルト・ウェンデル。シフォンの飼い主だ」

「詳しく話を聞かせてください」


 家の中に招かれると、猫の毛がついたクッションや、壁に掛けられた古い剣が目についた。でけえ。

 

 バルトさんは椅子にどっかりと腰を下ろし、腕を組んで話し始める。


「シフォンは昔、俺が拾った猫でな。ずっと家の中で飼ってたんだが、ちょっと油断してたら外に出ちまってな。しばらく帰ってきてねえ」

「どのへんまで探しましたか?」

「家の周りは全部見たが、どこにもいねぇ。まぁ、あのビビりが城壁の外まで行くわけはねぇと思うが」

「わかりました。もう少し遠くまで探してみます」

「ああ、見つからなくても、報酬は渡すつもりだ。その辺は安心してくれ」

「必ず見つけてきますので、安心してください」


 私はそう言って、バルトさんの家を出た。思わずかっこつけてしまった。

 さて、どうやって探そう。餌で釣る? 聞き込み? あれ、何色の猫探すんだっけ?


「とーこ、こっち」


 家を出たエニがすんすんと鼻を鳴らすと、私の手を引き、ずんずんと路地を進んでいく。


「え、え? エニ? どこ行くの?」

「シフォンとこ」

「場所わかったの!?」

「……あたし、ちょっと鼻がいいから」


 

 エニの鼻を頼りに、私たちは街の中を進んだ。

 やがて、人通りの少ない裏路地にたどり着く。


「このへん……」


 エニが足を止めた瞬間、どこからか「にゃあ!」という甲高い鳴き声が響いた。


「え、なんかめっちゃ鳴いてる」

「ここにいる……!」


 エニが壁の隙間を覗き込むと、そこには小さな茶トラのネコがいた。

 首には確かに青い首輪がついている。


「シフォン、いた……!」

「おいで?」


 私はしゃがみ込み、優しく手を差し出す。


「にゃあああ!」

「わ!? 」


 突然の威嚇。

 そして、シフォンはくりくりな瞳で私を睨んでいる。


「なんで怒るのさ、あなたを迎えに来たんだよ?」

 

「にゃああ!」

「ごめんって!」


 思わず叫んだ。


「おやつ持ってないおばさんは触るなって」

「え?」


 私は固まった。


「あ、いや、あたしが言ったんじゃなくて、この子が」


 エニは慌てたように早口でシフォンに指をさす。


「おばさん!?  いやいやいや!!  どこをどう見たらおばさんなの!? 20歳だよ!? ぴっちぴちの20歳! ていうか、お前こそ何歳なんだよ!」

「にゃー!」

「え!? 今度は何? エニ、なんて言ってるの!?」

「えっとね……すごく落ち着いた匂いがするから、てっきりおばさんかと……だって」

「おばさんみたいな臭い!? こいつ、殺っ……!」

 

 思わず拳を握りかけたけど、さすがに猫相手に本気でキレるのは大人げない。


「……覚えてろよ? 仕事じゃなったらぼこぼこのぼっこちゃんにしてたからな!?」

「にゃ!」

「……とーこ」


 エニが呆れたようにじとっとこっちを見る。はい、すみませんでした。

 

「大丈夫だよ。お家、帰ろ?」


 エニがしゃがみ込み、そっと手を伸ばす。まるで古くからの友人に声をかけるかのように。

 

「にゃ!」

「……断られた。どうして帰りたくないの?」

「にゃ……にゃああ」

「ふーん……なるほど……。変えてもらえるようにお願いするから、帰ろ?」

「んなぁ」

「……気持ちはわかるけど、帰ったほうがいいよ……お家があるんだからさ」

「んな」


 私完全置いてけぼりの会話が一通り終わると、シフォンはエニに飛び乗った。


「シフォンはなんて?」

「最近、餌が変わっちゃって、それが嫌で家出したんだって、前のほうが好きだったみたい」

「ええ……そんな理由で……」

「にゃああ!」

「……ほんとにおいしくないらしい」

「シフォン、プチ家出する理由、しょぼすぎる……」


 シフォンがエニの肩を伝ってエニの頭に乗っかる。


「わ、重い」

 

 エニがキャットタワー扱いされてる!

 彼女は頭にシフォンを乗せたまま、「行こ?」と私の手を引いた。


 あ、そのままでいいんだ。シフォンも大人しくエニの頭に乗ってる姿が意外と絵になってる。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 ……とーこさんw


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