第29話 「エニ、動物の言葉わかるの!?」
本日もよろしくお願いします。
ギルドの掲示板を眺めながら、私はエニとどんな依頼を受けるか相談していた。
初めての仕事だし、あまり危険なものは避けたい。まずは成功体験を積み上げたい!
「あら?」
『迷子の猫を探してください(報酬:3000円)』
「これ、前にも貼ってあったな。エニ、猫探しどう?」
「ん、いいよ」
「じゃあ、これにしよ」
私たちはギルドのカウンターへ向かい、受付の男性に迷いネコの依頼を受けることを伝えた。
彼は手際よく書類を用意し、簡単な説明をしてくれた。
「迷い猫の名前は『シフォン』。茶トラ猫で、青い首輪をつけています。依頼主のバルトさんの家の地図になります。直接お話ししていただくのがいいかと思います」
「シフォン……可愛い名前」
エニがぼそりとつぶやく。エニって名前のほうがかわいいだろ!
おっと、しまった。つい、他人の猫の名前と張り合ってしまった。
「依頼達成後はこの書類に依頼主さんのサインをもらってください。それと引き換えに報酬をお渡しします」
「はい、わかりました」
エニもこくりとうなずいた。
「それじゃ、行こっか」
バルトさんの家は、商店街の外れの少し寂れた場所にあった。
道沿いに並ぶ住宅の中でも、ちょっと年季の入った木造の家で、玄関前には猫用の餌皿が置かれている。
「こんにちはー。ギルドの依頼を受けた者です」
ノックをすると、中から渋い声が聞こえた。
「おお、来たか!」
扉が開くと、そこには筋肉質な体格のおじさんが立っていた。
白髪混じりの髪に無精髭、ちょっとくたびれたシャツ。
それでいて目つきは鋭く、冒険者か元兵士だったんじゃないかと思わせる雰囲気がある。
「悪いな、忙しいのに。俺はバルト・ウェンデル。シフォンの飼い主だ」
「詳しく話を聞かせてください」
家の中に招かれると、猫の毛がついたクッションや、壁に掛けられた古い剣が目についた。でけえ。
バルトさんは椅子にどっかりと腰を下ろし、腕を組んで話し始める。
「シフォンは昔、俺が拾った猫でな。ずっと家の中で飼ってたんだが、ちょっと油断してたら外に出ちまってな。しばらく帰ってきてねえ」
「どのへんまで探しましたか?」
「家の周りは全部見たが、どこにもいねぇ。まぁ、あのビビりが城壁の外まで行くわけはねぇと思うが」
「わかりました。もう少し遠くまで探してみます」
「ああ、見つからなくても、報酬は渡すつもりだ。その辺は安心してくれ」
「必ず見つけてきますので、安心してください」
私はそう言って、バルトさんの家を出た。思わずかっこつけてしまった。
さて、どうやって探そう。餌で釣る? 聞き込み? あれ、何色の猫探すんだっけ?
「とーこ、こっち」
家を出たエニがすんすんと鼻を鳴らすと、私の手を引き、ずんずんと路地を進んでいく。
「え、え? エニ? どこ行くの?」
「シフォンとこ」
「場所わかったの!?」
「……あたし、ちょっと鼻がいいから」
エニの鼻を頼りに、私たちは街の中を進んだ。
やがて、人通りの少ない裏路地にたどり着く。
「このへん……」
エニが足を止めた瞬間、どこからか「にゃあ!」という甲高い鳴き声が響いた。
「え、なんかめっちゃ鳴いてる」
「ここにいる……!」
エニが壁の隙間を覗き込むと、そこには小さな茶トラのネコがいた。
首には確かに青い首輪がついている。
「シフォン、いた……!」
「おいで?」
私はしゃがみ込み、優しく手を差し出す。
「にゃあああ!」
「わ!? 」
突然の威嚇。
そして、シフォンはくりくりな瞳で私を睨んでいる。
「なんで怒るのさ、あなたを迎えに来たんだよ?」
「にゃああ!」
「ごめんって!」
思わず叫んだ。
「おやつ持ってないおばさんは触るなって」
「え?」
私は固まった。
「あ、いや、あたしが言ったんじゃなくて、この子が」
エニは慌てたように早口でシフォンに指をさす。
「おばさん!? いやいやいや!! どこをどう見たらおばさんなの!? 20歳だよ!? ぴっちぴちの20歳! ていうか、お前こそ何歳なんだよ!」
「にゃー!」
「え!? 今度は何? エニ、なんて言ってるの!?」
「えっとね……すごく落ち着いた匂いがするから、てっきりおばさんかと……だって」
「おばさんみたいな臭い!? こいつ、殺っ……!」
思わず拳を握りかけたけど、さすがに猫相手に本気でキレるのは大人げない。
「……覚えてろよ? 仕事じゃなったらぼこぼこのぼっこちゃんにしてたからな!?」
「にゃ!」
「……とーこ」
エニが呆れたようにじとっとこっちを見る。はい、すみませんでした。
「大丈夫だよ。お家、帰ろ?」
エニがしゃがみ込み、そっと手を伸ばす。まるで古くからの友人に声をかけるかのように。
「にゃ!」
「……断られた。どうして帰りたくないの?」
「にゃ……にゃああ」
「ふーん……なるほど……。変えてもらえるようにお願いするから、帰ろ?」
「んなぁ」
「……気持ちはわかるけど、帰ったほうがいいよ……お家があるんだからさ」
「んな」
私完全置いてけぼりの会話が一通り終わると、シフォンはエニに飛び乗った。
「シフォンはなんて?」
「最近、餌が変わっちゃって、それが嫌で家出したんだって、前のほうが好きだったみたい」
「ええ……そんな理由で……」
「にゃああ!」
「……ほんとにおいしくないらしい」
「シフォン、プチ家出する理由、しょぼすぎる……」
シフォンがエニの肩を伝ってエニの頭に乗っかる。
「わ、重い」
エニがキャットタワー扱いされてる!
彼女は頭にシフォンを乗せたまま、「行こ?」と私の手を引いた。
あ、そのままでいいんだ。シフォンも大人しくエニの頭に乗ってる姿が意外と絵になってる。
読んでくださりありがとうございます。
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……とーこさんw