第26話 「エニ、誕生日おめでとう」
わあああああああ! エニかわいい!(親ばか)
本日もよろしくお願いします。
エニはベッドの上に腰掛け、自分のしっぽを撫でている。完全にリラックスモードだ。
風呂上がり、いつものように私が魔法で乾かしてあげて、耳も尻尾もふわふわと柔らかくなっている。
「はぁ……」
ベッドの上でエニがごろりと横になり、しっぽを軽く振る。さっきまでの食事で満たされたのか、瞼が少し重そうだ。
「エニ、もう寝るの?」
私が聞くと、エニは半分目を閉じたまま「んー……まだ……」とぼんやり呟いた。
耳をピクリと動かしながら、心地よさそうに枕に顔をうずめている。かなり満足したみたい。
私は、そっと立ち上がった。
「……ちょっと、出かけてくるね」
すると、バネのようにエニが起き上がる。
「どこ行くの?」
「ちょっと、買い物。すぐ帰ってくるから」
「……あたしも一緒じゃダメなの?」
エニはじっと私を見つめる。じーっと。
そして、しっぽを持ち上げると、たしん、たしん、と布団を軽く叩いた。
(あ、拗ねてる)
彼女の耳は少し垂れ気味で、しっぽの動きもどこか不満そうだ。
「ええー……驚かせたいのに」
「……何、それ」
「サプライズっていうか……内緒にしておいて、びっくりさせたいの!」
エニは私の言葉に少し考え込むような表情を浮かべたあと、拗ねたように目を細める。
「……あたしも一緒じゃダメなの?」
「エニを驚かせたいんだってば〜。すぐ帰ってくるから!」
私はエニの頭を両手でわしゃわしゃと撫でながら、優しく微笑んだ。
「ちょっとだけ待っててね?」
「……むぅ」
エニは私の手をぎゅっと掴んだまま、しばらく動かなかった。まるで「本当に行っちゃうの?」と無言で訴えるように。
(これ、行かせてもらえないやつじゃ……)
「……すぐ、帰る?」
「うん、すぐ帰る」
「……なら、いい」
ようやくエニの力が緩んだ。
私は彼女の頭をそっと撫でると、部屋を後にした。
夜の首都は、昼間とはまた違う顔を見せていた。露店の明かりが石畳の道を柔らかく照らし、香ばしい食べ物の匂いが漂ってくる。日付が変わりそうな時間なのにいまだ賑やかだ。
1人で歩くのは久しぶりな気がする。いつもエニが隣にいて、私の袖を引っ張ったりしているのが当然だったからだろうか。どこか寂しさを感じた。
(早く戻ろ)
私は露店を見て回りながら、昼間見かけたアクセサリーショップに向かった。
「いらっしゃい。……おや? 獣人の子は一緒じゃないのかい?」
店員のおばあさんにそう聞かれ、思わず「へ?」と間抜けな声を出してしまった。
「ふふ、昼間からあんた、ずっとこれを見てたじゃろ?」
おばあさんは、ガラスケースの中のペンダントを指さした。
「お、覚えてたんですか……!」
「そりゃあねぇ。誰かのために何かを選ぶ目ってのは、すぐにわかるもんだよ」
おばあさんは優しく微笑んで、ペンダントを手に取る。
「これはね、『狼の護り』。忠誠と絆の証さ。大切な人への贈り物には最適だよ」
「……買います!」
そう即答したものの、ふとガラスケースの中に並ぶ別のアクセサリーが目に入った。
シンプルな銀色のペンダント。
(……狼モチーフもエニに似合いそうだけど、さすがにちょっとやりすぎかな?)
エニは狼の獣人だけど、それ以前に可愛い女の子だし、シンプルなものの方が普段もつけやすいよね。
「すみません、こっちにします!」
おばあさんは少し驚いたようにしたあと、微笑んだ。
「こっちもいい選択だよ。大切にしてあげな。あんたの気持ちがちゃんと届くようにね」
「もちろんです」
エニがこれをつけて、私のそばで笑ってくれる姿を想像しながら、足早に宿へと戻った。
部屋に戻ると、エニはまだ起きていた。
ベッドに座り込み、枕をぎゅっと抱えたまま、じっと入口を見つめている。
私の姿を見るなり、エニは小さく口を開いた。
「……遅い」
「そんなに時間かかってないよ?」
「……待ってた」
エニは小さな声で呟きながら、枕を強く握る。
(可愛すぎか……)
「ただいま」
私は笑いながら近づくと、エニの頭をそっと撫でた。
彼女はしばらく私の手の温もりを感じるように目を閉じ、それからぽつりと言った。
「……おかえり」
私は隣で眠そうにぽやぽやしてるエニのしっぽを撫でる。最近、私の足にしっぽをポンと乗せてくるようになった気がする。
静かな夜。窓の外では、かすかに街の灯りが瞬いている。時計の針が、じりじりと音を立てながら、零時へと近づいていく。
もうすぐ、日付が変わる。
私はエニのしっぽを撫でながら、そっと時計を見つめた。
あと十秒。
エニの新しい一年が、素敵なものになりますように。
あと五秒。
エニのぬくもりが、心地いい。
あと三秒。
これからも、エニの隣にいられるといいな。
あと一秒。
カチリ、と時計の針が動く音がした。
「エニ」
「ん?」
エニが顔を上げる。
私は優しく微笑んで、彼女の手をぎゅっと握った。
「誕生日、おめでとう」
私は、さっき買ったペンダントをそっと差し出した。
エニは驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくりと手に取る。
「……これ」
「ペンダント。エニにぴったりだと思って」
エニは黙ってペンダントを見つめていた。
そして、ゆっくりとした動作で、それを握りしめる。
「……つけてあげるよ」
「え?」
「ほら、後ろ向いて」
エニは私に背を向ける。
「エニ、髪の毛持っててー」
彼女はそっと髪の毛を持ち上げた。
(え、なんかこれ……ドキドキする……)
私は少し緊張しながら、ペンダントをエニの首にかけ、そっと留め具を閉じた。
「わあ、エニ似合う!」
「……もう1回」
「ん?」
「もう1回、おめでとうって言って」
「……なんで?」
「……なんでも」
エニは小さく口を尖らせて、ふいっと目を逸らした。
その顔は、ほんのり赤くなっている。
私は笑って、もう一度、ゆっくりと言った。
「エニ、誕生日おめでとう」
エニはしばらく沈黙し、それから、ぎゅっと私に抱き着いた。
「……ありがと」
彼女の声は、かすかに震えていた。
そっと頭を撫でると彼女は、満足そうに目を閉じた。
私は彼女が眠るまで頭を撫で続けた。
読んでくださりありがとうございます。
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エニが眠そうなのに寝ないのは、とーこがもう少しだけ起きててって言った。
そういえばプロローグでもエニはとーこの足にしっぽのせてるね。