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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
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第26話 「エニ、誕生日おめでとう」

わあああああああ! エニかわいい!(親ばか)



本日もよろしくお願いします。

 エニはベッドの上に腰掛け、自分のしっぽを撫でている。完全にリラックスモードだ。

 風呂上がり、いつものように私が魔法で乾かしてあげて、耳も尻尾もふわふわと柔らかくなっている。


「はぁ……」


 ベッドの上でエニがごろりと横になり、しっぽを軽く振る。さっきまでの食事で満たされたのか、瞼が少し重そうだ。


「エニ、もう寝るの?」


 私が聞くと、エニは半分目を閉じたまま「んー……まだ……」とぼんやり呟いた。

 耳をピクリと動かしながら、心地よさそうに枕に顔をうずめている。かなり満足したみたい。


 私は、そっと立ち上がった。


「……ちょっと、出かけてくるね」


 すると、バネのようにエニが起き上がる。


「どこ行くの?」

「ちょっと、買い物。すぐ帰ってくるから」

「……あたしも一緒じゃダメなの?」


 エニはじっと私を見つめる。じーっと。

 そして、しっぽを持ち上げると、たしん、たしん、と布団を軽く叩いた。


(あ、拗ねてる)


 彼女の耳は少し垂れ気味で、しっぽの動きもどこか不満そうだ。


「ええー……驚かせたいのに」

「……何、それ」

「サプライズっていうか……内緒にしておいて、びっくりさせたいの!」


 エニは私の言葉に少し考え込むような表情を浮かべたあと、拗ねたように目を細める。


「……あたしも一緒じゃダメなの?」

「エニを驚かせたいんだってば〜。すぐ帰ってくるから!」


 私はエニの頭を両手でわしゃわしゃと撫でながら、優しく微笑んだ。


「ちょっとだけ待っててね?」

「……むぅ」


 エニは私の手をぎゅっと掴んだまま、しばらく動かなかった。まるで「本当に行っちゃうの?」と無言で訴えるように。


(これ、行かせてもらえないやつじゃ……)


「……すぐ、帰る?」

「うん、すぐ帰る」

「……なら、いい」


 ようやくエニの力が緩んだ。

 私は彼女の頭をそっと撫でると、部屋を後にした。


 夜の首都は、昼間とはまた違う顔を見せていた。露店の明かりが石畳の道を柔らかく照らし、香ばしい食べ物の匂いが漂ってくる。日付が変わりそうな時間なのにいまだ賑やかだ。


 1人で歩くのは久しぶりな気がする。いつもエニが隣にいて、私の袖を引っ張ったりしているのが当然だったからだろうか。どこか寂しさを感じた。


(早く戻ろ)


 私は露店を見て回りながら、昼間見かけたアクセサリーショップに向かった。


「いらっしゃい。……おや? 獣人の子は一緒じゃないのかい?」


 店員のおばあさんにそう聞かれ、思わず「へ?」と間抜けな声を出してしまった。


「ふふ、昼間からあんた、ずっとこれを見てたじゃろ?」


 おばあさんは、ガラスケースの中のペンダントを指さした。

 

「お、覚えてたんですか……!」

「そりゃあねぇ。誰かのために何かを選ぶ目ってのは、すぐにわかるもんだよ」


 おばあさんは優しく微笑んで、ペンダントを手に取る。


「これはね、『狼の護り』。忠誠と絆の証さ。大切な人への贈り物には最適だよ」

「……買います!」


 そう即答したものの、ふとガラスケースの中に並ぶ別のアクセサリーが目に入った。


 シンプルな銀色のペンダント。


(……狼モチーフもエニに似合いそうだけど、さすがにちょっとやりすぎかな?)


 エニは狼の獣人だけど、それ以前に可愛い女の子だし、シンプルなものの方が普段もつけやすいよね。


「すみません、こっちにします!」


 おばあさんは少し驚いたようにしたあと、微笑んだ。


「こっちもいい選択だよ。大切にしてあげな。あんたの気持ちがちゃんと届くようにね」

「もちろんです」


 エニがこれをつけて、私のそばで笑ってくれる姿を想像しながら、足早に宿へと戻った。


 部屋に戻ると、エニはまだ起きていた。

 ベッドに座り込み、枕をぎゅっと抱えたまま、じっと入口を見つめている。


 私の姿を見るなり、エニは小さく口を開いた。


「……遅い」

「そんなに時間かかってないよ?」

「……待ってた」


 エニは小さな声で呟きながら、枕を強く握る。


(可愛すぎか……)


「ただいま」


 私は笑いながら近づくと、エニの頭をそっと撫でた。

 彼女はしばらく私の手の温もりを感じるように目を閉じ、それからぽつりと言った。


「……おかえり」


 

 私は隣で眠そうにぽやぽやしてるエニのしっぽを撫でる。最近、私の足にしっぽをポンと乗せてくるようになった気がする。

 静かな夜。窓の外では、かすかに街の灯りが瞬いている。時計の針が、じりじりと音を立てながら、零時へと近づいていく。


 もうすぐ、日付が変わる。

 私はエニのしっぽを撫でながら、そっと時計を見つめた。


 あと十秒。


 エニの新しい一年が、素敵なものになりますように。


 あと五秒。


 エニのぬくもりが、心地いい。


 あと三秒。


 これからも、エニの隣にいられるといいな。


 あと一秒。


 カチリ、と時計の針が動く音がした。

 

「エニ」

「ん?」


 エニが顔を上げる。

 私は優しく微笑んで、彼女の手をぎゅっと握った。


「誕生日、おめでとう」


 私は、さっき買ったペンダントをそっと差し出した。

 エニは驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくりと手に取る。


「……これ」

「ペンダント。エニにぴったりだと思って」


 エニは黙ってペンダントを見つめていた。

 そして、ゆっくりとした動作で、それを握りしめる。


「……つけてあげるよ」

「え?」

「ほら、後ろ向いて」


 エニは私に背を向ける。


「エニ、髪の毛持っててー」


 彼女はそっと髪の毛を持ち上げた。

 

(え、なんかこれ……ドキドキする……)


 私は少し緊張しながら、ペンダントをエニの首にかけ、そっと留め具を閉じた。


「わあ、エニ似合う!」

「……もう1回」

「ん?」

「もう1回、おめでとうって言って」

「……なんで?」

「……なんでも」


 エニは小さく口を尖らせて、ふいっと目を逸らした。

 その顔は、ほんのり赤くなっている。

 私は笑って、もう一度、ゆっくりと言った。


「エニ、誕生日おめでとう」


 エニはしばらく沈黙し、それから、ぎゅっと私に抱き着いた。


「……ありがと」


 彼女の声は、かすかに震えていた。

 そっと頭を撫でると彼女は、満足そうに目を閉じた。


 私は彼女が眠るまで頭を撫で続けた。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 エニが眠そうなのに寝ないのは、とーこがもう少しだけ起きててって言った。

 そういえばプロローグでもエニはとーこの足にしっぽのせてるね。

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