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狼の耳としっぽ、そして私  作者: 加加阿 葵
第3章 狼の耳としっぽ、そして首都
31/97

第25話 「ガラケーじゃん!」

本日もよろしくお願いします。

「お待たせしました。これがお二人の冒険者ライセンスになります」


 赤毛の受付嬢がカウンター越しに、2つの小さな板を差し出した。


「これがライセンス……?」


 私はそれを手に取りながら、まじまじと見つめた。

 前世、親の顔より見た。あの黒い板にそっくりだ。

 

(見た目もサイズ感もほぼスマホ!)


「はい、これは冒険者の証となる石板です。このギルドをはじめ、各地の支部にある専用の魔法装置にかざせば、登録情報や依頼の進捗状況が確認できます」


「なるほど」

 

 私は思わず指で板の表面をこする。当然、画面はないから、何も起こらない。前世の癖だね。


「紛失すると再発行に手間がかかりますし、身分証明としても使えますので、大切にしてくださいね」

「はい」


 エニも自分のライセンスを手に取って眺めていた。


「……これが、冒険者の証……」


 その小さな呟きには、これから始まる新しい人生への実感がこもっているようだった。


「試しにかざしてみますか?」


 エニはこくんと頷くと、さっき手をかざした石版にライセンスをおくと、文字が浮かびあがった。


 エニ

 星1冒険者

 受注依頼無し

 実績

 うろゴリの討伐


 おお……すごい!


 星1だったり、星4だったり、なんかソシャゲのガチャ感あるな。最高レアは星なんぼなんだろ。


「すべての冒険者は星1から始まります。実績を積んで昇格試験に合格すれば、星2へ昇格できますよ。ああ、現在の最高ランクは星5です」


 心読まれた! これが受付のプロの実力……!


「お金をちゃんと稼ぐには先は長そう」

 

 思わず呟くと、受付嬢はまた苦笑した。


「最初はみんなそうですよ。頑張ってくださいね」


 私は肩をすくめながら、ライセンスをポケットにしまった。


「さて、ライセンスも手に入ったし、ちょっと街を見て回ろうか!」


 リーナの提案で、私たちはギルドを後にし、首都の中心部へ向かった。


 街の中心に広がる市場通りは、活気に満ちていた。

石畳の道の両側には、色とりどりの布をかぶせた露店がずらりと並び、人々の声が飛び交っている。


「おいしいパンだよ! 焼きたてだよ!」

「新鮮な果物はいかが?」

「旅人さん、魔道具も見ていって!」


 呼び込みの声がそこら中で響く。人の流れも多く、雑踏の中を抜けるのも一苦労だった。


「うわぁ……すごい賑わい……」


 私は圧倒されながら、周囲を見回す。


「市場通りはいつもこんな感じよ。いろんな国や地域から商人が集まってくるから」


 ミレイが説明する。リーナはエニちゃんへのプレゼント探してくるって雑踏の中へ消えていった。


「エニ、なにか欲しいものある?」

「うーん……」


 エニはしばらく悩んだあと、ふと焼き菓子の屋台を見つけて足を止めた。


「あれ……おいしそう……」


 そこでは、甘い香りが漂う焼き菓子が並んでいた。小さな丸いパンのような形をしており、砂糖がまぶされている。

 私は屋台の主人に声をかけ、いくつか購入した。お嬢さん可愛いから1個おまけだってさ、照れるね。


「はい、エニの分ね」

「ありがとう……」


 エニが嬉しそうにそれを受け取り、早速一口かじる。


「……甘い……」


 尻尾を揺らしながらふわりとこっちを見て微笑む。それを見て、私はエニの頭を撫でた。


 市場を歩きながら、旅に必要そうなものをいろいろ物色していた時、ふと小さなアクセサリーショップが目に入った。


「お、アクセサリー屋さん」


 何気なく視線を向けた先に、ガラスケースの中で光る銀色のペンダントがあった。


 狼のモチーフが刻まれた、美しい銀細工のペンダント。


「……これ、エニに似合いそう」


 私はふとエニの方を見た。


 エニは焼き菓子を食べながら、ミレイの後ろにくっついて変なお面の屋台でキャッキャしてる。ミレイ……ああいうの好きなんだ。


「今はエニがいるし、後で、買いにこよう……」


 せっかくだしサプライズしたいよね。


「そろそろお腹も空いたし、ご飯に行こうか!」


 いつの間にか合流していたリーナの提案で、私たちは市場近くの大きな食堂に入った。


「ここは食べ放題のお店。いろんな料理があるから、好きなだけ食べていいよ〜!」

「食べ放題!?」


 エニの尻尾がぶんぶんと揺れた。


「今日はエニちゃんの誕生日前夜! お祝いだよ〜!」

「……ありがと」


 エニが少し照れたように顔を伏せる。

 

「さあ、食べるぞ〜!」


 リーナが勢いよく料理を取りに行く。


 テーブルには、焼きたてのパン、肉のグリル、濃厚なスープ、甘い果物……たくさんの料理が並ぶ。全部リーナが持ってきた。


 エニは、目の前のごちそうをじっと見つめていた。


「エニ、好きなだけ食べていいんだよ?」


 私がそう言うと、エニはそっとフォークを手に取り、肉を一口。


「……んふふ……!」


 エニは私の方を向くとニコパと笑った。可愛いやつ。


「あはは! ほんとに美味しそうに食べるね!」


 リーナが笑う。


「ゆっくり食べなさい」


 ミレイが微笑みながら、そっとグラスを傾けた。


「そういえば! エニちゃんにプレゼントあるんだった!」

「えっ……?」


 エニが驚いた顔をする。


「通信機だよ〜。遠くにいてもお話ができるの!」


(携帯じゃん)


「えっ、あたしに……?」

 

 エニは少しだけ目を見開いて、リーナの手元の小箱を見つめる。その視線には、期待と戸惑いが混じっていた。なかなか受け取らない彼女に、リーナが「ほらほら!」と箱をぐいっと押し付けるように渡した。


「い、いいの……?」

「いいに決まってるでしょ~! はい、どうぞ!」

「……ありがと」


 エニは貰ったプレゼントをキュッと握りしめた。しっぽが嬉しそうにゆらゆら揺れてる。

 

「それと、とーこちゃんにもね」

「え、私も?」


 リーナが笑って差し出す。


「せっかくだし、お揃いで持ったらいいと思ったの!」

「ありがとうございます! 開けてもいいですか?」

「もちろん!」

 

 私は箱を開け、中身を取り出した。どこか見た事あるような2つ折りのシルエット。


(携帯じゃん……! この魔道具、まさかとは思うけど、うわあ、この魔道具の名前聞くの怖いな) 


「え、これって……」

「この魔道具ガラケーって言うんだけど、私とミレイも持ってるから番号登録しちゃうね!」


(ほらあああ! やっぱりガラケーじゃん……!)

 

 こうして、エニの誕生日前夜は温かな時間とともに過ぎていった。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。


 ライセンスで通話できる日も近いかこれは。

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