第24話 「エニの誕生日明日!?」
本日もよろしくお願いします。
「それでは、討伐報酬と鱗の買取額を合算して、200万円のお支払いになります」
赤毛の受付嬢の穏やかな声が響く。
「……え? に、にひゃく?」
受付嬢がカウンターの下から袋を取り出し、目の前に置いた。ずしりとした重みが伝わる。
「はい。うろゴリの討伐報酬が50万円。そして、こちらの鱗ですが、通常のものとは違い、魔法の影響で変質していることが確認されました。そのため、通常のうろゴリの鱗よりも価値が高く、買取価格は150万円になります」
(え、あの魔物ほんとに「うろゴリ」って名前だったんだ……。私と同じネーミングセンスの人がいるんだ。ぜひ会って握手したい)
ってそんなこと考えてる場合じゃない! 200だよ200!
「ギルドでは魔法石版を使った預金サービスも行っておりますので、大金を持ち歩くのが不安でしたら、預けることもできますよ」
「は、はい。考えておきます」
正直、こんな大金を手にするのは人生で初めてだ。エニもぽかんとした表情で、受付嬢と私のやりとりを見つめている。
「すごいじゃない、とーこちゃん、エニちゃん!」
リーナが満足そうに頷く。
「そして、お二人は冒険者登録をご希望ですか? 登録をすれば仕事の受注はもちろん。主要都市への通行料の免除など様々な支援を受けられますよ」
「はい! お願いします!」
「では、こちらの魔法石版を使って登録を行います」
受付嬢がカウンターの下から取り出したのは、タブレットのような黒い石板だった。縁に銀の装飾が施され、中央には魔法陣のような刻印が浮かんでいる。
「本来ならば冒険者登録には自衛できるかどうかのテストを受けていただくのですが……」
受付嬢は一度リーナとミレイに視線を向ける。
「今回は、難易度の高い魔物を討伐した実績、および星4冒険者のリーナさんとミレイさんの推薦がありますので、試験は免除とさせていただきます」
「えっ、いいんですか!?」
「ええ、その実力なら問題ないでしょう」
(ラッキー!)
私はエニにむかって手を掲げた。彼女は不思議そうな顔をして首をかしげている。
うん。ハイタッチ知らないみたい。
(この掲げた手、どうしよう。すごい気まずい)
「この魔法石版に手をかざしてください。すると、生年月日、現在使用できる魔法、総魔力量が自動で記録されます」
(助かった!)
「まずは、とーこさんからどうぞ」
「えっと……はい」
私は石版の上に手を置いた。
瞬間、石版が淡く光る。文字が浮かび上がり、受付嬢が驚いたように目を見開く。
「こ、これは……!?」
私は首をかしげながら、石版に表示された内容を見た。
生年月日:7月21日(20歳)
魔法特性:言霊魔法(言葉を現実に作用させる)
総魔力量:1542
「なにこれ!?」
リーナとミレイも驚いたように石版を覗き込んでいる。
「言霊魔法……? 本当にそんなものが存在するの? ミレイ知ってる?」
「いや、私も初めて見た……」
受付嬢も驚きを隠せない様子で、何度も石版を確認する。
「……これは、本当に珍しいですね。とーこさんの魔法ですが、魔法石版のデータベースに詳細な情報が一切登録されていません。まるで“規格外”のような扱いになっています」
「規格外?」
「はい。前例がない魔法、ということになります。しかも、とーこさんは魔力量が一般冒険者の3分の1しかありません」
「へ?」
私は思わず、ぽかんとしてしまった。
(そんなに少ないの!?)
となりでエニも「えっ」と驚いている。
「でも、確かに魔法使うとすぐに疲れるし、一昨日は倒れちゃったし……」
「そういうことね~」
リーナが納得したように頷き、ミレイが継ぐ。
「魔法の使用はには注意した方がいいわね。無理すると、また倒れるわよ」
「……はい」
魔法の使い方をもっと工夫しないといけないな、と改めて実感する。武器……持とうかな。
「次はエニさんですね」
生年月日:9月16日(15歳)
魔法適性:電気・金属操作
総魔力量:16786
「えっ……!?」
受付嬢が軽く息を呑んだ。
「エニさんの魔力量は……かなり多いですね。ここまで多い人は私も片手くらいしか知りません」
リーナが横から覗き込み、思わず吹き出した。
「ええ!? めっちゃ多いじゃん!! これって……魔法使いとしては超優秀ってことよね?」
「そうね、私たちの倍はあるわね」
エニは自分の結果を見て、ぽかんとしていた。
「魔法適性は電気と金属操作ですね」
「……金属操作?」
「たぶんエニが、今まで使っていた鉄を錆びさせる魔法はその一部なんじゃない?」
「……」
エニは少し考え込む。
「あたしは錆びさせる以外にも、出来ることがあるってこと?」
「可能性はありますね。今後、訓練すればできることが増えるかもしれません」
エニは「へえ……」と感心したように魔法石版を見つめる。
エニの魔法、これから成長していくのか……。おいてかないでおくれ。
「それにしても……」
受付嬢が画面を見つめたまま、少しだけ微笑む。
「エニさん、明日がお誕生日なんですね」
「えっ」
エニが目をぱちくりとさせた。
「え!? エニ誕生日明日なの!?」
「……そうみたい」
エニは小さく呟く。耳がぺたりと伏せられる。
「……じゃあさ!」
リーナが突然、手をパンッと叩いた。
「これはもう、お祝いするしかないでしょ~!」
「そうね、せっかくだし」
「え? え?」
エニは戸惑いながら私をちらりと見る。
「今日はエニの好きなものいっぱい食べよっか」
エニが少しだけ頬を染めて、こくんと頷いた。
(エニの誕生日……せっかくだし、ちゃんとお祝いしたいな)
「よし!! ごちそう食べてお祝いしよ! プレゼントも用意しなきゃ!! 何がいい? 服? 武器? ぬいぐるみ!?」
エニは圧倒されたような表情でリーナの勢いに若干引いてる。
「……あたし、別に、そんなの……」
もごもごと呟くエニの耳がぴくぴく動く。
「ええ~? 誕生日なんだから欲しいもの言っていいんだよ? お姉さんが何でも買ってあげる!」
「……わかんない」
エニは視線を落として、小さく呟いた。
「……あたし、祝ってもらったことないし……」
エニが小さく呟くと、リーナは「じゃあなおさら! 最高の誕生日にしなきゃじゃん!」とふんすふんすしている。横ではミレイが「落ち着きなさい」とリーナの肩を叩いている。
私はそっとエニの手を握る。
「エニが欲しいもの、思いついたら教えてね。もしなくても、私がちゃんと選んであげるから」
「……うん」
エニが少しだけ、くすぐったそうに笑った。
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赤毛の受付嬢は今後名前出すよ。作者が考えた最強にかわいい名前にした。いや、普通の名前。




