「邪魔しないで!」
本日もよろしくお願いします。
次話から三章にはいります。
書き溜めモードの入るので、気長にお待ちください。
森が静かになった。
木々のざわめきも、鳥の囀りも、すべてが押し殺されたように止まっている。
そこに「何か」がいる。
危険で圧倒的な「何か」が。
「……何かいる」
自分でも、声が震えているのがわかった。
全身が強ばる。
逃げたい。
今すぐ、とーこの手を引っ張って、森を駆け抜けたい。
けど――
茂みが揺れ、巨体が飛び出してきた。
それは、銀色の鱗を纏った魔物だった。
赤い瞳が、あたしたちを睨みつける。
鈍い音を立てながら、地面を踏みしめるたび、鼓動が速くなる。
(……怖い)
なのに、とーこは私の前に立った。
体を震わせながら、それでも、一歩も退かずに。
(とーこも、怖いんだ)
それなのに。
どうして、前に立てるの?
あたしなんか、足がすくんで動けないのに。
――とーこは、どうして?
その答えがわからなくて、あたしはとーこの袖をぎゅっと握りしめた。
「……エニ、一緒に戦おう?」
その声は、不思議と静かだった。
無理に強がることなく、ただ優しく、まっすぐな声。
(……一緒に?)
――なら、あたしもとーこを守る。
とーこと出会った日の夜に、そう言ったのは、あたしだった。
「あたしのことばっかり」なんて拗ねたくせに。
とーこは「エニが大事なんだよ」って、迷いなく言ってくれた。
そのとき、あたしは本気で思ったんだ。
この人は、ずるいって。
こんなにも大事にしてくれるなら、あたしだって。
……逃げるなんて、できるわけがない。
「……うん、一緒に!」
その言葉を口にした瞬間。
恐怖が、少しだけ薄れていった。
――――
戦いが始まる。
とーこが魔法で魔物の動きを止める。
でも、それはほんの一瞬だった。
魔物は何度も動きを取り戻し、あたしたちに襲いかかる。とーこは魔法を使い、あたしを守ってくれた。
何度も、何度も。
「エニには指一本触れさせないから、とどめよろしく!」
それを聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
(……とーこは、信じてくれてる)
あたしの魔法は、逃げるための発現したものだった。
牢屋の鉄格子を錆びさせて、いつか壊せるように。
見張りを電気で気絶させて、逃げ出せるように。
ずっと、誰かのためじゃなくて、自分がただ生きるために使った魔法だった。
――でも、今は違う。
とーこが言った。「一緒に戦おう」って。
とーこが信じてくれた。あたしが守るって言ったことを。
だから、今度はあたしが――。
ここまで愛してくれたとーこに、少しでもお返しできるように!
あたしがとーこの隣にいてもいいって、思えるように!
「HOHOォォォォォ!!」
魔物は吠え、最後の一撃を叩き込もうと――あたしに向かってきた。
(くる……!!)
尻尾が、無意識に硬直する。
だけど、もう怯えない。
――だって、とーこが、何度もあたしを守ってくれたから。
今度は、あたしの番だから。
「――あたしたちの旅の邪魔……しないで!」
――――
あたしは息を切らしながら自分の両手を見つめた。
(あたしでも、魔物を倒せた……!)
疲れた。
少しだけ、ほんの少しだけ、とーこに甘えて。
そのあとで、また、とーこと一緒に進もう。
(もう怖くない。だって、あたしの魔法は、もう逃げるためじゃなくて進むためのものだから)
ドサっ――
何かが倒れるような音が聞こえた。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。
三章、嘘予告。
これは、ただの朝食ではない。
最後の一皿をめぐる、美食の死闘。今始まる。
次章「狼の耳としっぽ、そして戦争」
お楽しみ。
三章ほんと予告。
「狼の耳としっぽ、そして首都」
ひょんなことからエニの誕生日が判明!?
エニ、耳は上!
(エニってお手するのかなあ)
満月の夜に。
ほかにもいろいろあるよ!
お楽しみに!