第21話 「目が覚めたら、知らない人がいるのってこわっ」
本日もよろしくお願いします。
エニの頭を撫でながら、私は深く息を吐いた。
まだ体が重いけれど、意識ははっきりしている。
目の前で焚き火が揺れていた。
何かが焦げた匂いだけがかすかに漂っている。
……エニがずっとそばにいてくれたんだろうな。
安心させるように、私はエニの頭をもう一度撫でた。
エニが何か言いかけたけれど、その言葉を遮るように、明るい声が響いた。
「やっと目覚めたわね~!」
私たちのやり取りを見守っていた金髪の女性が、にっこりと笑って手をひらひらと振った。
その隣には、黒髪のショートカットの女性が静かに佇んでいる。
……知らない人たちだ。
「お、おふたりは?」
私は上体を起こしながら、できるだけ丁寧に尋ねた。
すると、金髪の女性がにこにこと笑いながら答えた。
「私はリーナ、こっちは相棒のミレイ。冒険者よ~」
「……あ、私とーこって言います」
「うん、知ってる~」
リーナさんはケラケラと笑いながら、親指をエニの方へ向けた。
「エニちゃんが、ず~~っと呼んでたからね~!」
「……!」
私は思わずエニを見つめる。
彼女は気まずそうに視線を逸らしながら、もごもごとつぶやく。
「……そんなに呼んでた?」
「そりゃもう! こっちがびっくりするくらい!」
リーナが両手を広げて大げさに言う。
「ミレイなんか、『大丈夫だから、落ち着け』って本気で心配してたんだから~」
ミレイさんはため息混じりに肩をすくめた。
「まあ、エニの気持ちは分かるけどね」
私はもう一度エニの手をぎゅっと握る。
「エニ、ありがと」
「……べ、別に……」
エニは顔を少し赤らめながら、そっぽを向いた。
「ほんとに助けていただきありがとうございます。お仕事の邪魔しちゃいましたかね?」
私が深々と頭を下げると、ミレイさんが少しだけ肩をすくめた。
「気にしないで。倒れていた間、この子がずっと心配してたから、私たちもできる限り力になりたかっただけ。それに、ちょうどあの魔物の討伐依頼が出ていてね。その目的地に向かう途中だったの。そしたら、あんたたちがもう仕留めてたってわけ」
「……えっ、その魔物って討伐依頼が出てたんですか?」
まさか、正式な依頼が出されていた魔物だったなんて……。
「そうそう。それでね~」
リーナさんが腰のポーチから何かを取り出して、手渡してくれた。
それは、黒く光る魔物の鱗だった。
黒みを帯びた金属光沢。わずかに指先にビリビリするような感触がある。
「……私たちが倒した魔物の鱗は銀色でしたけど……これは?」
「たぶん、あなたたちの魔法が強力でこの鱗の性質が変化したのかも!」
リーナさんの言葉に、エニが尻尾を小さく揺らす。
「……とーこが起きたら、話すって言ってたから」
私はミレイさんとリーナさんに向き直る。
「これってすごいんですか?」
「間違いなくすごいわ」
ミレイさんが冷静に分析しながら、手のひらの鱗を指先で軽く弾く。
すると、鱗の表面が微かに揺らめくように輝いた。
「この輝き……ただの反射光じゃない。魔力が染み込んでいる証拠よ」
「それにね~、私たちが今まで見たことある魔物の鱗より、明らかに硬いのよ。これだけの素材、きっとギルドに持ち込めばそれなりの値がつくわよ?」
「……ギルドか」
「あなた達、目的地は首都なのよね? それなら首都まで案内してあげるわよ~!」
ミレイさんも小さく頷き、落ち着いた声で続けた。
「このあたりの道はそれなりに安全だけど、獣人のエニがいると何に襲われるかわからないから、首都まで一緒に行ったほうが何かと安心よ」
私はエニのほうをちらりと見た。
エニは少し不安げに尻尾をぎゅっと握る。
「……大丈夫」
少しの迷いを押し殺すような、強い声だった。
私は彼女の手をぎゅっと握り返す。
「うん、一緒に行こう」
「それじゃあ決まりね~!」
「……ありがとう、リーナさん、ミレイさん」
私が頭を下げると、リーナさんは軽く手を振って笑った。
「ふふっ、さんなんてつけなくていいわ。 ね? ミレイ?」
「ええ、そうね。堅苦しいのはなしにしましょ」
リーナがニヤッと笑って、私の肩をぽんっと叩く。
「さっきからエニちゃん、ずっととーこちゃんにくっついてるけど……これってつまり?」
「……えっ」
その瞬間、エニの耳がピンッと跳ねた。
「な、なんでもない……!」
エニはあわてて距離を取ろうとするけれど、私はしっかり手を握っていたので逃がさない。
「……エニ?」
そう囁くと、彼女は耳を伏せて顔をそらした。
その仕草があまりにも可愛くて、私は思わずくすっと笑ってしまう。
リーナが荷物を肩に担ぎ、明るく手を挙げる。
「さあ、首都までの道は長いわよ! 楽しい旅にしましょ~!」
「長くない。数時間で着くわ」
ミレイが淡々と訂正する。
「ちょっと、ミレイ! 雰囲気が!」
「事実を言っただけよ」
リーナが「もう!」とむくれながらも、楽しげに歩き出す。
ミレイはそんな相棒を見て、小さく肩をすくめた。
私はふっと笑って、エニの手をぎゅっと握った。
「行こうか、エニ」
「……うん」
エニが小さく頷く。尻尾がふわりと揺れて、私の足元をかすめる。
焚き火の火がぱちぱちと音を立てている。
木々の隙間から、窮屈そうな空が見えた。
オレンジ色から藍色へと変わっていく空の下、私たちは新たな目的地へと歩みを進める。
手を繋いだまま、どこまでも。
最後の文、最終回みたいになってる……
エモいからいっか。
評価、感想お待ちしてます!
うちのエニかわいいですよね? ね!?